僕らの世界

母は長い触手で父をよく撫でていた。父は水の流れに従って揺れる海藻だった。母と父がまだ恋人同士だった頃、母は「ねえ、寒いの」と父の元へ来たらしい。父から母の元へ行くことは決してなかった。父は母とは結ばれる事は不可能だと考えていた。だから母があまりにも恋に焦がれていたらそっと消えたし、自分の気持ちを話す事はなかった。そうしたら母は別の海藻を撫でた。栄養を与えた。父はそれでも全然平気だった。それが海藻だと思ったから。あと母との未来が見えなかったらしい。母はまだ子供でお酒に酔うとベットから落ちてはお尻を出して笑ったり、早口で好きなことを好きなだけ話した。

_そんな君が愛しかった。僕らの上で膨大な時間が過ぎていく。光だけが僕の時間だった。美しいレースを揺らしてこの世の何にも知らない君が僕の光だった。大きな魚が久しぶりに僕の上で眠ってしまった時は困ったなあ。でもすぐに隙間から細いしらたきが僕を突いた。月の光が時間を忘れて旅立った頃、僕ら魚になったね。いつか陸に上がって君との子供に数を教えるんだ。君はひょっとビックリしてたね。それなのにそれなのに、足を一本残して消えてしまった。

それから時間が止まったままだと、父は話した。「君は母さんに似て長い足を持ったね」僕は今までの時間の矛盾を悟った。僕は粒子に押されて形を保っている。それが粒子スカスカなこんな乾いた世界じゃ形を保てないよ。弱気になった。暗い海中にいた僕ら家族は最近やっと人間になった。全部の音がノイズで唯一母の教えてくれた曲を聞いた。ロックだった。

僕は大人に干渉されたくないし、他にやりたい事も無かったから学校に行ってた。人間の色んな匂いが混ざって、いるだけで苦しかった。この世界に教科書なんて無くて教師は自分の思想を子供たちを逃げられない空間に閉じ込めて植え付ける。テロ行為だった。僕もそうやって自分の意見を聞いて欲しかった。僕は性別は女だった。普通の女なら了承しない事を全部受け入れたから、男の友達は出来た。彼らは僕の身体を愛してくれた。多分母もこんな風に受け入れるしかわからなかったんだと思う。

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speed @nichinichiroro

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