第13話 「音楽室には」
修学旅行と同等か、それ以上に学生達が楽しみにしている行事が近づいていた。
そのため本日、総合の授業を使ってもうそろそろ開催される『文化祭』の出し物を決めなければならなかった。
文化祭実行委員を務めるのはクラスでも超が付くほど真面目な男子生徒『
教卓の前に立ち、黒板にクラスメイト達の意見を次々と書き込んでいく。
「では多数決をするので、やりたい出し物があれば挙手をお願いします。全員ですよ? 全員手を挙げなければ多数決の意味がなくなるので必ずやりたい出し物に手を挙げるように」
こういう几帳面なところもあるので、かえって時間がかかってしまう。
クラスメイトは皆、呆れた顔で早く進めろ状態だ。
「ではタコ焼き屋が良いと思う人」
誰も手を挙げなかった。
「では焼きそば屋が良いと思う人」
誰も手を挙げなかった。
「ではお化け屋敷が良いと思う人」
また誰も手を挙げない。
それどころか皆沈黙を貫いており、なんだか恐ろしい光景になっていた。
「提案した出し物にに手を挙げないとはどういうことだ!? 最初っからやるつもりがないのなら意味もなく黒板に書かせるな!!」
遂に柳くんが切れてしまった。
不真面目なクラスメイトと真面目な柳くんは水と油、交わることのない存在だ。
「学舎での数少ない娯楽ぐらい真剣に取り組みたまえ!」
流石は薄情なクラスメイトの多い教室だけあって皆の反応はドライだ。
彼がなんと言おうと改善する気のある生徒は一人もおらず、柳くんの話なんて聞かず談笑してるグループまでいる始末だ。
見ていて、なんか辛い。
「もういい! 真剣に取り組まないのなら僕は降りる! 勝手にやっていろ!」
まだ会議の途中だが柳くんが教室から飛び出してしまった。だというのに気に留める生徒は殆どおらず、彼が激怒した原因を作ったグループでさえ彼を馬鹿にしている。
担任の先生は職員室で他の仕事をしているので追う人がいない。
流石にこのままソッとすることが出来ないので机から立ち上がり柳くんの後を追う。
「あっ、ソラ! 私も一緒に行こーか?」
「はは、平気だよ。わざわざ君が手を煩わせる必要はないよ。今回は男同士で話し合いをさせてくれよ」
「うん、分かった!」
行動を先読みされたユリに訊かれたが、したくもない笑顔を作りながら優しく断る。
自分の発言が正しかったのかという不安になりつつ彼女の表情を伺うが、以外にも簡単に了承してくれた。
あまりに安易だったので一瞬だけ表情を崩すと、急にユリの表情が豹変した。
「……私以外の女の子と話さなければ、他はどうでもいいよ」
それでも、やはり彼女の本質は変わらない。
俺が一番嫌いな時の忌まわしく恐ろしいユリだ。
校舎を一通り巡り柳くんを探すが、中々見つけられずにいた。
気が付けば俺は音楽室前にたどり着いていた。
ユリとの一件以来、顔を出すことの無くなった場所だ。
音楽の授業があれば仕方なく入っている教室だが、同じクラスにアヤメがいるためか気まずい。
だけど心の中ではきっと求めていただろう。
歌声だけではない、彼女自身のことも。
「………ん?」
音楽室の中から物音がした。
そういえば先ほどから気配がするのだが、使っている学年でもいるのだろうか。
柳くんが居る可能性も考慮して、そっと音楽室の扉を開く。
すると中には………。
自分に想いを寄せる、嫌いな幼馴染を捨てた話 灰色の鼠 @Abaraki123
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