出会い
みえ
出会い
人生7回目の夏、友人とお互いの帰路についた数秒後「プルルルル」ピンク色の見守り携帯がかわいい音をたてた。聞き馴染みのない声が、私に堅い言葉で淡々と告げる。「たったいま、交通事故で〇〇さんのご両親がなくなりました。」当時まだ幼かった私は、その言葉が何を意味するのか理解するのに数十秒要した。幼いながらに、家へ帰ることが正解だと考えた私は、家の鍵を開けるやいなやソファーに座り込んだ。「ピーンポーン」こんな日には似合わない音が家を切り裂く。その当時はまだ他人だった叔父と叔母の姿があった。これは後で聞いた話だが、母は厳格な家庭に生まれ、父は高卒で高給取りではなかったため、望まれた結婚ではなかったそうだ、そのためか、家族とはほとんど絶縁状態にあり、叔父と叔母を見るのもその時が初めてだった。幸い、彼らに面倒を見てもらえることになり、少し離れた田舎での生活がスタートした。
叔母は、どこか謎めいているが信念を持った優しい人だった。叔父は、どこか聞き馴染みのある声で、弱々しい人だったがきれいな目をしていた。前の家と比べ、床は冷たかったが、よく暖房がきいていて、幼い頃の私はそれだけでウキウキしていたのをよく覚えている。新しい家にはいくつか厳しいルールがあった。けれども、そのルールさえ守れば基本何をしてもよかった。家族で買い物に行ったり、公園で遊んだりしながら何気ない日々を過ごした。本当の家族のように感じていた。叔父と叔母の家で過ごし始めてから四年ほどたった11歳の誕生日、私が待ち望んでいた日が来た。テレビを使えるようになったのだ。我が家の教育上の考えでテレビは11歳になるまで見ることができなかった。テレビとの生活にも慣れてきたある日、私はいつものように朝食を食べ終わった後にニュースを見ていた。コメンテーターが深刻な顔をしながら、必死に何か語っていた。見出しには、「進化する巧妙な手口」と書かれていた。コメンテーターが交通事故と口にした瞬間、私は父と母を思い出した。痛かったのかな、どんな気持ちだったのかなと、久しぶりに想像力を働かせていた。
その時、ある疑念が私の脳内をよぎった。私が住んでいた家は今どうなっているのだろう。私のこころの決算のためにも、一度家を見ておきたい。しかし、遠くへの外出はルールによって固く禁じられていることだった。遠くへ行くことは危険だし、何よりも叔父と叔母、いや、新しい父と母を失望させたくなかった。だが、溢れ出る衝動を抑えることはできない。「明日の朝10時に決行しよう」10時は両親が買い物に行く時間だ、その時に私だけ体調不良で家に残ると言えばいい。日が沈む前に戻ってくれば、大事にならずに済むだろう。
計画は予定通りに行き、家を出て、街を出て、県を出て、人づてに今はもう別の誰かが住んでいると思われる場所に向かった。馴染みのある街についてからは記憶を頼りに、少しずつ、少しずつ、家の香りが強い方へ向かっていった。計画は予定通りに行き、太陽がちょうどこんがり焼け始めた頃に家に着いた。まだ家からは温かみを感じた。「ピーンポーン」予定にはなかったが、左手がボタンを押していた。インターフォン越しに、幸せに満ちた生活音が聞こえてくる。自分がこの暖かい家に水をかけている気がした。いてもたってもいられず、家に背を向け、足早に歩き始めた。
「〇〇ちゃん待って、」喜びと恐怖が混じった声が家のほうから聞こえた。振り返ると、そこには少し老けた、死んだはずの母の姿があった。
出会い みえ @emitinnnn
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