端的に表現するならこれは作家と読者の「欲望」が生み出した「狂気」のサスペンスだ。
ネタバレにならないように注意してコメントしたいが多少の漏れはご了承の上で感想を書こうと思う。
(今日のボクはおちゃらけなしだ)
この『胡乱』における狂気とは、読者の「欲望」と作家の「欲望」が創作物(アート)を通して衝突し、制御不能に暴走する危うさにある。
サイコサスペンスの天才作家の熱狂的な読者の異常なまでの愛情(崇拝)が、己の求める「解釈」いう「欲望」へと暴走し「狂気」へと至る様は、まさにスティーブン・キングの『ミザリー』を彷彿とさせる。
崇拝から狂人化した読者にとっての作品とは自らの理想そのものであり、それに反する現実が許せない。この一方的な愛情が狂気へと変わった瞬間、読者の側が物語を自分の望むように支配したいという狂った行動にまで至らせる。
ボクはこの作品は、歪んだ愛情が、単なる好意や尊敬を超えて、作家の意図や尊厳までを侵害しようとする危険な執着の「狂気」を、桜坂氏が書き続けるサスペンスシリーズの舞台に落とし込んだ『実験的小説』だと勝手に解釈している。(これが読者の狂気の始まりだ)
創作物とは本来、作家が自身の思いを込めるものであるはずが、読者との距離が近いネット小説の世界では「読者の理想とする創作」でなければならないという重圧がかかりやすい。(PVや反応がリアルタイムで見える弊害)つまり「逆に」作家の読者への愛情が暴走していく「狂気」を常に孕んでいる。
この『胡乱』は登場人物達の狂気と狂気と狂気のぶつかり合いを通じて、創作と受容の関係に潜む危うさを鋭く描いたサイコサスペンスの傑作だと思う。
正直、感想書いてるだけで心が抉られる。
同じ作家だからなおさら。