日常2-2 女子会
※このシリーズ『日常』は、第一部第一章終了後を想定した、ストーリーと直接的なかかわりがない、いわゆる外伝的なものです。多少登場人物の時系列的におかしいところがあるかもしれませんが、平行世界線として見てください。
*****
―――ある休日、僕、島野洸太郎は、なんとなく庵治さんを訪れようと喫茶店に立ち寄った。
「いらっしゃいませー」
「あ、徳松さん」
「洸太郎くんじゃん。こんにちは」
「こんにちは」
「入る?」
「じゃあ、なんで僕は来たんですか」
「え、だって」
後ろを見た徳松さんの意味深な目線を辿ると、隅の方のテーブル席に見覚えのある顔が四つ並んでいた。運のいいことに、こちらには誰も気づくことなく談笑にふけっている様子だった。
「……なんで僕は来たんですか」
「まあさすがに気まずいでしょ? 何か急用があったり、庵治さんに伝言があったりするなら話は別だけど」
「じゃあ、また日を改めます」
「……わかった」
徳松さんは何か企んだような笑みで頷いた。嫌な予感がする。
「じゃあ、失礼しまー」
「お客様お帰りでーす!」
徳松さんは誰もいないカウンターに振り向くや否や、大きな声で出入り口にいる人の存在を告げた。ここは居酒屋にでもなったのだろうか。
「ちょっと、徳松さん!」
「あれ、こーた君!」
「げっ」
(ほら気付かれた)
「ど、どうも……」
こちらに気づいた吉村さんに続いて、大間さん、淡路さん、そしてあまりかかわりのない女子生徒がこちらに振り向いた。
「あ、ちょうどいいんじゃない?」
「ん? あ、確かに」
淡路さんと大間さんが顔を見合わせる。
「島野って勉強できるでしょ?」
(ここで自慢するのも謙遜するのも違う気がする。調子乗ってるって思われたくないし……)
「それは、ほどほどには」
「じゃあちょっと」
淡路さんは僕をこちらに手招きする。僕は握っていたドアノブを泣く泣く手放し、店の奥に足を踏み入れた。
「この子がここわかんないって言ってて」
かかわりのない女子生徒の前に広げられた夏休みの宿題を指さし、淡路さんは真顔で僕に頼んでいるようだった。
隣にあるノートを見た所、どうやら遠回りな計算をしているようだった。
「え、えーと、ここは代入法使ってるんだけど、そっちじゃない方が解きやすくて」
「こたろー、ペン必要?」
「あ、ありがとう大間さん」
「いえいえ」
僕はノートの端に解き方を書きながら、ポイントだけちょこちょこ伝えた。
「お、わかった気がする!」
「さすがこーた君! ありがとう!」
「い、いえ、それほどでも」
(疲れた……人見知りの僕からしたら結構なハードワークだったなぁ)
「じゃ、じゃあこの辺で失礼し」
「はい、洸太郎くんお疲れ様」
徳松さんはなぜかニコニコした様子で、椅子を一脚こちらに持ってきていた。
「……なんですか徳松さん」
「え? 勉強会するんじゃないの?」
「いや、どう見ても僕が入る余地ないでしょ。女子会ですよね、これ」
「まあ、そうかも?」
「帰ります」
「ちょ、ちょっと」
「ごめんなさい! また来ます!」
僕は慌てて店の外に出た。
あのまま残っていたら生きている心地がしない。
そう本能が感じ取ったからだ。
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まごころの在り処 時津彼方 @g2-kurupan
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