視線を遮って/KAC20248 (ジャンル:ラブコメ)

 普段絶対にしないようなドジをしてしまったのは、入学式の時。

 新しい環境にはしゃぐ気持ちは私にも分かる。

 その光景を、越しに、それでも私も嬉しくて、微笑ましい気持ちで見ていた。

 だから、そのわずかなでっぱりに気付かなかったのだ。


 気付いた時、私は思いっきり転んでいた。

 膝を強かに打ち付けたが、幸いその日は春らしからぬほどに寒いという予報があったから、厚手のタイツを履いていたこともあって、それがわずかに破れるだけで済んだ。

 問題は。

 メガネが、外れたことだ。


 慌てた私は、とにかくメガネを探す。

 メガネなしでは、私は何も見えない。

 正しくは、のだ。


「はい、これ。どうぞ」


 そう言って、うずくまってメガネを探す私に、メガネを差し出してきたのが彼だった。


「ありがとう、ございます」


 目を閉じたまま下を向いて、手を差し出すとメガネが手に収められる。

 それをかけてから、顔を上げた。


「メガネないと大変なんだね。次から気を付けて」


 そう言ってくれた彼の胸には、私と同じ新入生であることを表すリボンが揺れていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 魔眼、というものがある。

 いかにラノベに在りそうなそれだが、実際に存在する。

 十歳の時、私にそれが目覚めた。

 そして、私の家系には代々魔眼持ちが生まれるらしいと言われたのは、その時だ。


 魔眼にはいろいろな種類があるらしい。

 人の状態をオーラで見る力、対象を魅了する力、石化する力、そして――死をもたらす力。

 どういうものが目覚めるかは分からないが、制御に慣れれば普通に生活できると言われたが――無理だった。

 私の魔眼はあまりに力が強すぎて、小学校を卒業するころには自分では完全に抑え込むことは出来なくなっていた。

 そして私の魔眼は、という、とんでもない力だったのだ。


 魔眼の制御をするために、特別製のメガネが必要だった。

 このメガネは、見た目は普通だが、実際には強力な魔眼封じの力が込められている。

 ただし、そのために視界が常に白く霞がかったようになる。

 このメガネをかけて、さらに意識して力を制御することで、ようやく私は世界を見ていられる。


 だからあの、メガネを落とした時は本当に焦ったのだ。

 たとえ無機物だろうが、容赦なく力だからだ。

 今や、メガネなしでは何も見てはならない。


 だから、メガネを拾ってくれた彼は掛け値なしに恩人だ。

 高校入学してから三カ月。

 同じクラスになった『彼』は、いつもクラスの中心にいた。

 そして私は、何の気はなしに、いつも彼を見ていた。

 それが――好意ゆえと気付いたのはいつだったか。


 だが、この呪われた眼を持つ私は、誰かの隣に立つことはできない。

 だからこれは、決して報われない恋心だ。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 入学式で、いきなり目の前で彼女が転んだのは、驚いた。

 そして、何かひどく慌てたように、うずくまったまま何かを探しだす。

 探し物が、すぐ近くに落ちているメガネだろうというのは、すぐわかった。


 至近距離にあるのに見えないのか。

 それほどに目が悪いのだろうと思うと、目がいい自分が少し申し訳なくなってきてしまう。


「はい、これ。どうぞ」


 そういって、メガネを渡されると、彼女は酷く驚いたようになってから、メガネを受け取った。

 その時点では、顔は見えていない。顔が下を向いていて、長い髪が彼女の顔を隠していたからだ。


「ありがとう、ございます」


 そういうと、彼女はそのまま手を出してきた。

 渡してくれ、ということなのだろう。

 その手にメガネを手渡す。


「メガネないと大変なんだね。次から気を付けて」


 メガネをかけてからやっと顔を上げてくれた。

 その見えた彼女の顔は――ハッとするほどにきれいだと思えた。


 それからずっと、僕は彼女を気にしている。

 彼女はいつも教室に一人だ。

 別に話しかける人がいないわけではない。

 話しかけられれば普通に応じているし、班分けなどでも別に仲間外れにされたりすることはない。


 ただいつも、自分から集団の輪に入っていくことはない。

 長い黒髪と、見る者を引き込むような大きめの瞳、それに透き通るような白い肌に、整ったその美しい容貌。

 クラスでも、彼女を気にしている男子は多いが、いつも控えめにしている彼女は、どこか男子を寄せ付けない雰囲気がある。


 ただ――気のせいでなければ、時々彼女に見られている気がした。

 僕は、ある事情で人の視線には敏感だ。

 ただ、彼女の視線は、なぜかいつもひどく曖昧な印象なので、逆にそれで気付いてしまったともいう。

 入学式の時のあの印象が、鮮烈だったからかもしれない。


 メガネのレンズ越しに見えた彼女の瞳は、まるで虹色に輝いて見えた。

 それはもちろん目の錯覚で、ほんの一瞬のことだったのだけど。

 ただ、それは本当にきれいで――だからこそ、僕は彼女に惹かれたのかもしれない。


 呪われた僕の目とは違う、あの美しい瞳に、惹かれたのだろう。

 僕の目は、魔眼。

 その力は、あらゆる呪詛を呑みこみ、返す。

 僕を呪った相手は、必ずその報いを受ける。

 それだけならまだいい。

 僕の力は強すぎて、わずかでも僕に対して負の感情を向ければ、それを数倍にして相手に返してしまう。

 今は、特別製のコンタクトレンズで抑え込んではいるが、外したら大惨事だ。


 だから常に自分に向けられた視線――意思を僕は自然と感じ取れてしまうのだ。

 昔は、人と関わり合いにならなければいいと思っていた。

 けれど、それでも人はなぜか負の感情を向ける。

 ならばと、僕は自分を変えて出来るだけ人に負の感情を向けられないようにしてきた。気付けば、クラスで人気者、という地位を確立してしまっている。


 好意的な視線であれば、力は発動しない。

 ごく少数、おそらく嫉妬や羨望といった視線もあるが、強くなければそれほどではない。

 誰とも一定以上に深く関わらず、しかし誰とも好意的に付き合っていればいい。

 それが、僕のこの魔眼と付き合っていくための処世術。


 ただ、彼女の視線だけは――まるで何かのフィルター越しであるかのように、感情が読み取れない。

 しかし、あの時見た瞳の美しさは、言いようもないほど僕の心を捉えていた。


 こんな目を持ってる自分が、『特別』を作っていいはずはないのだけど。

 いつか彼女の特別になれたら――無理だと分かっていても、時々そう思ってしまう。

 それが、決して報われない想いだとしても――。



――――――――――――――――――――――――――――

メガネなんて実質何でもありですよね(ぉ

というわけで超絶適当思い付き。

ついでにこの先作る気はないです(マテ)

お題は好きにもってけーっ(殴)

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