『鼻水の謎―何か知らんが鼻が詰まる―』

小田舵木

『鼻水の謎―何か知らんが鼻が詰まる―』

 これは昨日の話である。

 

 私はやりたくもない仕事に邁進していた。

 与えられた仕事は超絶単純作業。だが、そこそこに体を使う。

 私は必死で仕事をこなしていたのだが。

 ある瞬間、どうにも息苦しくなった。

 この仕事は衛生に気を使っているのでマスクをしている。だから、まあ。多少は息苦しいのだが。

 息苦しいのレベルがある瞬間から、我慢し難いモノになった。

 

 …うん。鼻が急に詰まりだしたのだ。

 私は最初、風邪かコロナかインフルでも発症してしまったのかと思った。

 眼も急激に潤んできたし。

 だが。体の倦怠感はない。発熱してる感じもない。

 んじゃあ?これは一体何だと言うのか?

 私は良くない頭をフル回転させる。

 そして思い当たったのは花粉症。

 眼の潤みと鼻水。症状として当てはまらない事もない。

 だが。しかし。今は2月の頭で、その上外は雨模様。

 花粉など舞っているのだろうか?

 

 私の鼻は敏感である。煙草のせいで匂いには敏感ではないが、アレルゲンなどへの反応はすごぶる宜しい。

 こういう事態には慣れてはいる。

 だが。今はそこそこ体を使う作業の途中で。その上マスクをしていて。鼻をかみに行くことも叶いそうにない。

 ああ。コイツは困ったぞ。

 私は時計を眺める。仕事の終了までは後3時間もあり。

 この息苦しさと3時間も付き合わなくてはならない。

 

 この詰らない単純作業をしていると。

 作業中はあまり複雑な事を考えられない。

 その上、私の鼻は鼻水が垂れる寸前まで詰まっており。

 私の頭は鼻水の事で一杯になる。

 …まったく。これは中々に鬱陶しいぞ。

 

 私は原因について考え始める。

 まずは最初に考えた、風邪の線だが。

 これは棄却しても良さそうである。

 何故なら。先程も言ったように体の倦怠感はないし、喉の痛みもないからだ。

 だとすれば。花粉症で片付けても良いものか?

 花粉は早ければ2月には舞い出す、と何処かで読んだ記憶はある。

 だが。天気は繰り返しになるが、雨…花粉は舞いそうにない。これも棄却。

 

 ううむ。一般的な原因は検討し尽くしたように思える。

 そこで私はもっと捻った可能性を検討し始める。

 そう言えば。この工場は先日まで改修工事が行われていたな。

 そうなればある程度ハウスダストが舞った可能性はある。

 そして。今、私が作業している場所のすぐ近くには。空調のホースが伸びてきている。

 …だが、だ。もしハウスダストが云々うんぬんと言うならだ。

 もっと早くに症状が出ていなければおかしい気がする。

 というのも。改修工事が行われている最中も。私はここに仕事に来ていたからである。

 

 ああ。色々考えてはみたが。

 とりもあえず鼻の詰まりはどんどん酷くなっていく。

 鼻を必死にすするが。鼻水はどんどんと溢れてきており焼け石に水の様相である。

 

 息苦しい。

 もはやちょっとした酸欠状態である。

 そのなかで肉体労働をするのは苦しい。

 私の眉間には皺が寄り。元々良くない人相が更に悪くなる。

 

 私が我慢の限界まで仕事をしていると―

 工場の社員が私を呼びに来る。

 さてさて。私が何のミスをしたというのか?

「済みませんが。別セクションに応援に行ってもらえますか?」

「…あい」

 こうして私は。元居た作業場を離れて。

 別のセクションに応援に行った。

 そこでもしばらく鼻は詰まっていたから、これは工場全体の問題か、はたまた私の体の問題かと思っていたが…

 別のセクションで応援をし始めて5分も経つと、なんとびっくりではないか!!

 

 …という事は。

 あの場所に鼻水の原因があると考えても良さそうである。

 後は。この応援が終わった後で戻って、症状が出るかどうか。

 私の鼻と頭が妙にスッキリするのを感じた。

 いやあ。疑問というのは人の頭をモヤモヤとさせるモノである。

 

 そうして。

 私は別セクションでの応援を終え、元居た作業場に戻る。

 案の定、戻って3分で鼻水は出始め。

 ああ、これは確定したな、と思う。

 原因までは究明できそうにないが、とりあえず現象の全体像を掴む事に成功した。

 ま、現象の全体像を掴んだところで。これを解決する術はないんだけど。

 私は時計を見やって。後2時間我慢することに決める。

 頭のモヤモヤが取れたから。後は鼻水が鬱陶しいだけである。

 

 2時間後。

 私は詰まる鼻と戦いながら単純肉体労働を終わらせ。

 意気揚々とトイレに駆け込む。

 そうして。手洗い場の手拭きティッシュで鼻を思い切りかむ。

 かんだ後のテイッシュを見れば。泡立った鼻水。色は透明で。

 これは確実に風邪はひいていない。

 あの作業場の何かしらが私の鼻を刺激していたのだ…

 

 こうして。

 私と鼻水の戦いは終わった。

 だが。問題が一つ残る。

 今日もまた仕事なのである。

 私は日雇いバイトなので。毎日何処のセクションに飛ばされるかは分からない。

 しかし。昨日と同じセクションに飛ばされる可能性は十分にある。

 ああ、またあそこだと鼻水に悩まされるかも知れない…そう考えるだけで憂鬱である。

 だがまあ、日々の糧を得るためには働かねばならないので。

 あのセクションに飛ばされない事を祈りながら。今日も仕事に行こうと思う。

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『鼻水の謎―何か知らんが鼻が詰まる―』 小田舵木 @odakajiki

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