第4話 俺たち、結婚しました
そんなわけで、フェリシアは豊穣の女神シーナの神官として再出発することになったのだった……ついでに俺とフェリシアのささやかな結婚式も開かれた。
さすがに元アーティアーの、それも大神官さまが「結婚したいから」なんて理由で改宗して、派手な結婚式などできるはずもない。
という次第で、ヴィクトールやダン、それにお世話になったアーティアー神官や、式を担当してくれたシーナ神官といった少数の人に見守られて、俺たちは結婚した。
いやいやいや行動早すぎでしょ。神速すぎて俺の心がついて行けてないよ? なんかすげーいい笑顔だけどね新婦さん……新郎が置いてけぼりですよ?
〔まぁいいか〕
俺は心のなかでそう思った。
少なくとも原作のあの末路よりはずっとマシだろう。浮気したら殺され……いや、死ぬよりももっとヤバい目に遭いそうだが、そんな予定はないし、する気もないので大丈夫だ。
客観的に見れば、爆乳で超絶美人の女の子と結婚した色男である。
「ふたりはこれからどうするんだ?」
俺はフェリシアをともなって、ヴィクトールとダンにたずねた。
「私は王立学園に戻りますよ」
ヴィクトールは肩をすくめて答えた。
「もともと冒険者稼業は、実戦での魔法戦闘がどのようなものか、戦いにおける有用な魔法とはどのようなものかを研究するつもりでやっていたのですから」
「ワシも故郷に帰って、道場で後進の育成に当たるとするか。そもそも冒険者は見聞を広めるためにやっておったのだ。名声がほしかったわけではない」
ダンは鼻を鳴らす。
「今にして思えば不思議な話だ。ワシは栄光など求めておらんかったはずなのに、なぜああまで冒険者としての栄誉を欲し、自身が世界最強の武闘家などと……」
「それはおそらく、クートのせいですね」
ヴィクトールが吐息を漏らした。
「彼の強力な支援魔法……おそらく我々は常用し、あまりにも日常と化していた。その影響ですよ」
「支援魔法にそんな効果があるなどワシは聞いたことがないぞ?」
「士気高揚ですよ」
ヴィクトールは人差し指を立てて説明する。
「支援魔法の中には、やる気や戦意を奮い立たせるものがあるんです。クートの力がそれほど冠絶しているなら……そして我々が日常的に彼の支援魔法を受け続けていたのなら、本来の精神が変容しかねないほどの深い影響を受けていても不思議じゃない」
「なんと……」
「まぁこうして正気に戻ってしまえば、あれはいったいなんだったのだろうか? と疑問に思うような一時的な狂気ではありますがね。どちらにせよ、過ぎたことです」
「確かに、それもそうかもしれんな」
ふたりは苦笑し合った――が、俺はそうも行かない。
え!? マジで!? 原作じゃそんなこと一言もふれられてなかったけど……まぁ、確かに今のパーティメンバーの様子を見ている限り、あり得ない話でもないのか?
「ま、とにかくそういうことならわかったよ。なんかあったら手紙で知らせる」
「お主らは商業都市ルクに行くんだったな」
「ああ、田舎暮らしもいいけど、やっぱり都会のほうが便利だからな。冒険者ギルド宛てに出してくれれば届くはずだ」
「シーナ神殿宛てでも大丈夫なはずだよ」
フェリシアが補足した。
「では、ふたりの結婚式も見届けましたし」
「そうだな。ワシらはそろそろ行くとするか」
「ああ、途中までそっちは一緒だっけか」
「新婚ふたりの邪魔をするのも忍びないのでな。幸せに」
「ええ、お二方とも末永くお幸せに」
そう言って、ふたりは旅立っていった。
「俺たちも行くか」
「うん、アッシュくん!」
フェリシアはうれしそうな笑みを浮かべて、俺に腕をからめてきた。そうして、俺たちは商業都市ルク行きの乗合馬車に乗り込む。
ちょっと予定とは違ったが、無事に追放ざまぁは回避できた。
〔あとは任せたぜ、クート〕
北の魔神が討伐されるのを、商業都市ルクで静かに待つ日々が始まる。(了)
【短篇】追放ざまぁされる無能パーティのリーダーに転生してしまったんだが、なんで追放直後に記憶が戻るんですかね…… 笠原久 @m4bkay
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