叔父さんの顔が、

昂機

第1話

 聞いた? 野球部の杉野。キャプテン辞めたらしいね。よっぽどこの間のぼろ負けが堪えたのかな。確かそう、格下相手にコールド負け。あんまりにもひどかったから、自分が責任とるって辞めたんだってさ。かわいそうだね。誰か止めてやってもいいのに、結局それくらいの人望だったってことかな。

 なんにせよ、責任とるってしっかりしてると思わない? 辞めることが良いのか悪いのか、それはわからないけどさ。よくけじめの証として頭を丸めてボウズにするって聞くけれど、野球部はもうみんなボウズだからね。意味ないもんね。そう考えると、ボウズがけじめって、すでにボウズの人に対するボートクじゃない? どうなのかね、そこらへん。

 まあともかく、責任があるのにへらへらしているよりぜんぜんいいかな、あたしとしては。ボウズになるも良し、ロン毛になるも良し。誠意ってもん、見せてほしいよね。どっちにしろね。

 うーん。やっぱ、いちばんの誠意って言えば死ぬことじゃない? 切腹。ハラキリ。ブシドーというは死ぬことと見つけたり……って。あはは。


 日誌、早く書けって? わかってる、わかってるよ。つきあってもらって感謝してまーす。あとは所感だけだから、もうちょっとだけ待っててね。もうちょっとだから。

 にしても、みんな今日は帰るの早いねえ。これだけ教室に人がいないのも珍しい。いつもはみんな、もっとわいわいガヤガヤはしゃいでるのに。普段はにぎやかな教室がすうっと静まって、あたりには誰もいない……途端に流れ込む、物々しい冷えた空気……うん、ホラーの導入にはぴったりって感じ。いや、ちょっとありきたりかな。

 そうそう。怖い話を考えるの、クセになっちゃってさ。やっぱバズると意識しちゃうわ。次はどんなネタでいこうかな、ってね。きっと一回バズってみるとわかるよ、あたしの気持ち。

 でも、それもこれもあんたのおかげ。あんたのアドバイスは本当に効果てきめんだった。なんでもいいから注目浴びて承認欲求満たしたいあたしに、よくぞ解決策を与えてくだすった。褒めて使わそう、なんちゃって。

 夏といえばホラー! ホラーといえば心霊写真! これぞバズりの近道なり! そう思いたったあたしも、なかなかのアイディアマンだと思うけど。いいねがたくさんもらえたら、本当になんでも良かったからさ。あたし、ここにいまーす! って世界中にわかってもらえたら、それでよかったの。

 でもあたし、心霊写真なんて撮ったことない。真夏にやってるこわ~い番組でしか見たことないし。誰かがヤバい写真持ってるっていう、そんな都合のいいツテもなかった。ネットでそれっぽい画像、適当に拾ってこようかなと思ったけど、ほら、今ってみんなうるさいじゃん。無断テンサイだって怒られたくないからさ。注目浴びたいけど、炎上で有名にはなりたくないわけ。話題になるなら、あくまでクリーンな方向性でって、自分で自分に決めてたの。

 その時、あんた言ったよね。「じゃあ自分で心霊写真、作ってみれば ?」って。こいつ、やりおる。あたしほんとにそう思った。感動までしたのよね。なるほどそうか、その手があったか!

 さっそくあたし、お手製心霊写真作りに取りかかった。今の科学ってスゲーよね。ほらあるじゃん、写真加工アプリ。あたしも何度もお世話になってる。あれさ、普通は自分をもっと可愛くみせるために使うじゃん。目を大きくしたり、ウエストちょっと細くしたりさ。あれの逆。体を変に歪ませたり、顔のバランスをおかしくしたりして、怖い写真を作り上げたわけ。やっぱ道具って使い方よね。

 もちろん、自分の写真は使わないよ。いくらお手製フィクションだからって、あたしの顔をぐちゃぐちゃにすんのはなんかヤじゃん。でも、ぜんぜん知らない人の写真を使って、あとで訴えられたらもっとヤだし。

 そうそう、だからね、叔父さんにした。お父さんの弟。昔からちょこちょここっちに戻ってくるからさ、去年のお正月あたりに撮った写真、使ったの。ちゃんと許可はとったよ。叔父さんの写真で遊んでいーい? って。心霊写真にするとは一言も言ってないけどね。でも嘘も言ってないから、セーフだよ、セーフ。

 許可取れたらあとはこっちのもんよ。加工アプリを使って、叔父さんの目を左右でちぐはぐな大きさにした。くちびるをぐにゃぐにゃにした。こっちを怨んでるような顔つきにした。呪いの香りをふんだんに振りかけた。写真全体を意味深に暗くしたし、それっぽく黒いシミを散らしたりした。

 で、それをSNSにアップ。『心霊写真撮れちゃったんだけど、、、』ってさ。ドキドキしたよ。だって結構がんばったんだもん。これがコケたら落ち込んじゃうなーって。どうかみんな見てくれますようにって、神さまにお祈りしながらね。

 これが当たり。大バズり。

 あんたも見たでしょ? そうそう、これがあたしの記念すべき第一作。

 親戚がそろってわいわいしている中、一人だけ顔のおかしい人がいる。何かに抉られたような目、不気味に歪む口……。続きの投稿で『実は昔、この家では強盗殺人事件があったそうです。一家全員が殺され、犯人はいまだに見つかっていないとか。来週、お祓いする予定ですが……それまで、何も起きないことを願っていてください』なんて文章、添えてさ。

 叔父さん以外にモザイクかけるのも地味に手間だったなー。YouTuberとかさ、動画上げるたびにこんなことしてるんでしょ。ヤバいよ、あいつら。バカにしちゃだめだよ。マジですごいって。

 んふふ。なんだかあたしにはいんちきの才能があったみたい。あたしの心霊写真を見て、こんなのニセモンだろって怒る声も少なからずあったよ。でも信じて怖がってくれる声の方が多かった。あたし的にはちょっとやりすぎたかなって思ったけれど、意外とみんな素直なんだね。それか、にせものだとわかりながら楽しんでくれていたのかも。ファンタジー漫画読んで、こんな話ウソだろ! って怒り出すやつ、めったにいないもん。それと同じなのかな。

 まあバズったって言ってもあたしにとって、あくまで当社比って感じ。でも嬉しくってさ。それからあたしは何枚も何枚も叔父さんの顔をぐちゃぐちゃにして、手足を増やしたり減らしたりして、凹ませて、尖らせて、穴開けて、思いつく限り不気味にした。オカルトを大盛りにして、ヤバ~い事件が裏にあるよう匂わせた。過激なら過激なほどみんな喜んでくれたし、時間をかければかけるほど、心霊写真はどんどん広まっていった。あたしの承認欲求も、どんどんどんどん満たされていった。


 そう、あんたのおかげ。あんたが言ったから、こうなったの。あんたがあの時、自分で心霊写真、作ってみれば? なんて言わなきゃ、今のあたしはなかった。だからずっと、忘れないよ。


 あたし、ここ最近ずっと授業中も上の空だったでしょ。だって考えてたんだもん。次の写真はどうしようかって。エックスとかワイとか、源氏物語とか、マジでそんなのどうでも良かった。化学反応があたしに次のアイディアを教えてくれる? 同様に確からしい確率が、あたしにホラーのなんたるかを教えてくれる? ないよね、なんにも言ってくれないよね。

 あたしホラー映画たくさん観たし、楳図かずおもめちゃくちゃ読んだよ。意外とがんばり屋でしょ。いいアイディアってのはいいインプットから出てくるものだから。やっぱり何事も努力しなくちゃね。

 なに? 学校の勉強をちゃんとしろって? そういうのはさ、勉強ができる人に任せてたの。あたしは心霊写真担当。適材適所ってさ、あるじゃん。魚に飛び方を教えるのは無理だし、鳥に泳ぎ方を知ってもらうのも、難しいよね。うん、つまりはそういうこと。あたしの言ってること、別に間違ってないよね? ヘリクツ? あはは。

 あたしたぶん、そんじょそこらのジュジュツ師より叔父さんのこと呪ってた。もちろん、ものの喩えだよ。それくらい真剣に考えていたってこと。四六時中、写真について考えてた。思いに形があったなら、それで叔父さんを百回刺し殺せるくらいに思ってた。実際、心霊写真として殺してたんだけどね、加工の力で。

 でもしばらくすると、ストックがなくなっちゃって。叔父さんの写真ストック。あんまりさ、今まで撮ってこなかったから。親戚の叔父さんの写真なんて、普通あんまり撮らないじゃない? みんなそうでしょ、あたしだけってわけじゃない。え、あんたはいっぱいあるの? ふうん、そう。そういう人もいるんだね。

 別に他の人の写真でも良かったけどさ。ちょうどいいんだよね、叔父さんって。お母さんやお父さんならちょっと近すぎてためらうし、ほとんど会ったこともないような親戚ならそれもう他人だし。叔父さんの遠さと近さが、ちょうどよかった。それに、やっぱり顔よ。なんかさ、もともとちょっとオカルトチックな顔をしてんの。キカイな事件の犠牲者A、みたいなね。


 だから昨日、叔父さんがうちに来てくれてほんとに助かった。仕事で近くまで来たから寄ったんだって。叔父さんとお父さん、仲良いから。嬉しかったよ。世界でいちばん会いたかった人が、突然リビングに現れてくれたんだもん。韓国アイドルの推しにばったり街中で会ったら、あんな感じに飛び跳ねちゃうかも。

 あたしね、開口一番にこう言った。叔父さん、写真を撮らせてよ、って。挨拶抜きで言ったから、お母さんにちょっぴり怒られた。叔父さんは少しびっくりしてたけど、「いいよ」って笑って言ってくれたよ。


「今度の授業、英語で家族を紹介しなきゃなんないの。叔父さんのこと言いたくて、写真あった方がいいかなって」


 そんな感じの言い訳をして、あたしスマホで叔父さんの写真を撮ったの。


「へえ、なんだか照れるなあ」


 叔父さん、ちっとも疑ってなかったよ。

 久々に撮った叔父さんの写真。大事な大事なあたしの素材。当たると決まった宝くじ。

 でも見てみるとさ、なんかおかしいの。すっごく違和感。あたし、何度も何度も目をこすったけど、そのおかしさは消えなかった。だってまだなんにもしてないのに、叔父さんの写真がぐんにゃり歪んでて、こっちを睨んでて……。

 なーんてさ、うそうそ。ウソだよ。びっくりした? ホラーっぽかった?ごめん、ごめんね、冗談なの。

 叔父さんの写真は、別に普通だったよ。なんにもない、そのままの、不格好に笑った叔父さんが写ってた。ね、ここで写真が歪み始めたり、叔父さんの顔が変になったりしたら、スゴくそれっぽいホラーだもんね。ガチの心霊現象じゃん。SNSに載せたらぜったいバズれるじゃん。あたし、そういう話を期待してた。


 でもさ、そうじゃなかった。

 そうじゃなかったんだよ。


「ありがと、撮れたよ」


 あたし、叔父さんにスマホの写真を見せながら、頭の中ではこれをどう加工してやろうかって心の中でうきうきしてた。あと何枚か撮って、バリエーション増やして、呪われた写真としてSNSにアップしてやろうって、そんなわるだくみばかりしていた。

 そしたら、叔父さんこう言った。


「俺、こんな顔だったかなあ」


 って。首を傾げて続けるの。


「俺、本当にこんな顔?」

「なに言ってんの、こういう顔だよ。あ、もかしたら自動で目が大きく加工されてるかも」


 カメラアプリによっては、勝手にそういうモードになってるものがあるからね。でも、あたしが見ても別にそれほど変わってなかった。目の前と写真の中の叔父さん、生身と静止画の違いはあるけど、絶対そっくりそのままだったよ。

 叔父さんは、ふうん……って微妙な顔をして、リビングから出ていった。うちに来たら、毎回お風呂を借りていくから。お父さんとお母さんに「借りるよ」って断り入れて、二人とも「どうぞ」って返して、あたしはちょっと変なのって思いながら、それでもチャンス到来にうきうきしていた。ソファに座って、いつも使っている加工アプリを開いたら、さっき撮った写真を取り込む。叔父さんが帰るまでにあと何枚ストック増やせるかわかんないけど、これでしばらく安心かな。あとは創作意欲の赴くままに、あたしの信じるホラーの道を進むだけ。

 加工アプリで開いた叔父さんの写真も、やっぱり普通の顔だったよ。叔父さん、さっきなんであんなこと言ったんだろ。不思議だった。普段、あんまり自分の顔を鏡で見ていないのかな? しばらく見ない間に、思ったより自分の顔が老けていたから驚いたのかも。

 そうやってあたしは自分で自分を納得させた。叔父さんの勘違い。別にあたしのせいじゃない。今思えば、勝手に人の顔を加工している後ろめたさ、ちょっとくらいはあったのかな。

 そしたらさ。


「俺、こんな顔だったかなあ」


 叔父さん、すぐ後ろにいたの。すぐ後ろからにゅっと首を突き出して、あたしのスマホを覗き込んでた。

 ほんとに驚いた時って、声出ないんだね。あたし、しばらく何も言えずに固まってた。叔父さんもさ、なんにも言ってくれないの。ただじっと、マネキンみたいに動きを止めて、ぼんやりした目でスマホを見てた。


「……お、お風呂行ったんじゃなかったの?」


 あたしがようやくそれだけ言っても、なんの反応もしなかった。

 お父さん、次の日の仕事の準備で違う部屋にいたし、お母さんはキッチンで洗い物してた。リビングにはあたしと叔父さんだけ。

 あたし、怖くなっちゃってさ。


「俺、こんな顔してなかったと思うんだ」

「さっきからなに、こういう顔だって言ってじゃん。もうやめてよ」


 叔父さんの声を消すみたいに、つい叫んじゃった。

 写真、まだなんの加工もしてないんだよ。まだどこからどう見ても叔父さんなの。誰でもわかるの。

 でも叔父さん、納得してくれなかった。無表情でずっと写真を見てた。


「どうしたの、大きな声出して」


 お母さんが来てくれて、あたし心底ほっとしたよ。正直、少し泣きそうだったの。もしこれが冗談だったとしても、たちが悪すぎるよ。叔父さん、演技うますぎる。でも冗談の方がまだマシだった。


「俺の顔、こんなのじゃないんだよ」


 叔父さん、大声でそんなことを言った。スマホの画面を指差して、無表情で言ったの。すごく大きな声だったから、きっと近所にも聞こえてた。


「顔がさ、俺のさあ、どうなってるんだよ」


 お母さんも固まっちゃってさ。そりゃそうだよ。親戚が突然へんになっちゃったんだもん。お母さんは青い顔して、ゆっくりあたしのスマホを覗き込んで、それから叔父さんの顔を見た。


「なあ、俺の顔、こんなんじゃなかったよなあああ」


 叔父さん、片方の足で床をがんがん蹴り始めた。聞き分けのない駄々っ子みたいに。あんな叔父さん、初めてだったよ。いつもはもっと静かな人なのに。


「おいおい、どうしたんだよ。何があった?」


 お父さんが来ても、叔父さんは止まらなかった。足の力はどんどん強くなって、ほとんど暴れてるみたいだった。


「おかしいんだよ、俺こんな顔してないだろ。なあ、いつからこうなっちゃったんだよ」


 頭かきむしって、床を踏み鳴らしながら、ずっと言ってんの。


「こんな顔してないだろ。なんでこうなったんだよ。俺の顔どうなっちゃったんだよ。おかしいだろ。誰がこんなことしたんだよ」


 俺の顔が、俺の顔がって。ついにはぼろぼろ泣きながら、同じようなことを繰り返してた。お父さんもお母さんもあたしも、みんな何も言えなくてさ。

 あたし、もうどうしていいか分かんなくなった。けどね、とにかく写真を消そうとしたの。写真がなくなれば、叔父さんも少しは落ち着くかなって。気づけば手がめちゃくちゃふるえてた。何度もスマホを落っことしそうになりながら、思うとおりに動かない指で、消去ボタンを押そうとしたの。

 そしたらさ、その時お母さんがさ。


「そうね、こんな顔じゃなかったよね」


 って。泣きながら言うの。


「え?」


 思わずあたし、言っちゃってた。最初はさ、叔父さんを落ち着けるために、お母さんが嘘ついてるだけかと思った。けどね、違うの。お母さん、叔父さんに駆け寄って、


「いつからなの? 誰がこんなことしたの?」


 叔父さんに負けないくらい涙流して、わあわあ叫んでるの。演技じゃなくて、ほんとのほんとに心の底から悲しんでるみたいに。

 叔父さんは、わからない、なんで、なんでって。泣いてる人が二人になっちゃって。

 お母さんまでどうしちゃったの?

 あたし、こわごわ聞いてみたの。


「だっておかしいじゃない、こんな顔じゃなかったのに。あんたが何かしたの? あんたのせいなの?」


 大声で怒鳴られたから、もうそれ以上何も言えなかった。あたしはただ、首を横に振っただけ。

 知ってる人がいないか聞いてみましょうって、お母さんはそんなこと言い出した。泣きながら親戚中に電話し始めちゃってさ。叔父さんの顔がおかしいって、何か知りませんかって、もう夜中のいい時間なのに、そんなことお構いなしだった。顔がおかしいんです、こんな顔じゃなかったんです、って。そんな電話されたら、迷惑なんてもんじゃないよね。案の定、電話の向こうの人たちはみんな怒ってた。ふざけてると思われて、すぐに電話を切られてた。

 それでもお母さん、めげないの。おじいちゃんおばあちゃんの家にも電話かけてさ、顔が、顔がって、大声で。あんたおかしくなったんか? って、おじいちゃんはそう叫んで電話を切った。

 頼れるのはもうお父さんしかいなかった。あたし、怖くていつの間にか泣いてたの。ぼやける目でお父さんを見た。どうかお父さんは、お父さんだけはって。


「大丈夫だぞ」


 お父さん、そう言ってくれた。お父さんも泣いてたけど、あたしの目を見て、しっかりそう言ってくれたの。


「お父さんが、ぜったい叔父さんの顔をもとに戻してやるからな」


 あたし、もうなんにもかんがえられなくなっちゃった。

 叔父さん、夜通しずっと「なんで、なんで」って言いながら顔を家の柱にごりごりごりごり擦りつけてた。あたしうるさすぎて寝られなかったよ。そんで急に静かになったと思ったら、叔父さん血まみれの顔でなんにもないとこボーッと見てんの。お母さんはもう電話できる親戚がいなくなったから、でたらめに番号を押して掛かった人に「顔のこと知りませんか」って聞いてる。お父さんは叔父さんの顔写真を無理に引きのばして、もう誰だかわかんないくらい拡大されたコピーを、同級生や知ってる会社に手当たり次第にファックスで送ってた。「こんな顔じゃなかったんです」って。うん、昨日の夜から。あたしが今朝登校する時も。たぶん今もずっとやってる。

 なんでって、そんなのあたしがいちばん聞きたいよ。だって結局、叔父さんの写真は今も普通なんだもん。普通の、ちょっとくたびれた男の人だよ。見てみる? ほんとに普通。怖いものなんて何も写ってない。ほら。なんで? 普通だって。なんにもないって。ねえ。見ろよ。

 みんなへんになっちゃったのはさあ、やっぱり叔父さんの写真を加工しすぎたせいなのかな。毎日毎日、丹精込めて呪ったせいなのかな。心霊写真なんて、無理に作ったせいなのかな。だったとしたら、ねえ。


 ぜんぶあんたのせいじゃん。どうやって責任とってくれんの?

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