2人用声劇台本【そして珈琲は冷めた】

汐音 葉月

そして珈琲は冷めた

【キャスト数】

1:1:0(男:女:不問)


【所要時間】10〜15分程度


【配役】


直樹(30)


由梨(30)


【本編】


0……ト書き

M……モノローグ


0: 2月・小さな喫茶店内

0: 店内はまばら。外では雨が降っている。


直樹:あれ?ブラックコーヒー飲めたっけ?


由梨:結構前から飲めるようになってたけど?


直樹:へぇ〜。そうだったんだ。苦いの飲めるようになったんだな。


由梨:私だって、いつまでもお子ちゃまじゃないんですぅ。てか気付いてなかったんだね。

まぁ……こうやってお茶するの、久しぶりだし。


直樹:あ〜言われてみればそうだね。ってか急にどしたの?大事な話って。


由梨:そう急かさないでって。


直樹:いやぁ。でも、気になるじゃん?


由梨:あのさ。さっそくなんだけど……今日なんでここに呼んだか、わかる?


直樹:(とぼけたように)……いやぁ?


由梨:ねぇ……私たち、別れよっか。


直樹:………


由梨:実家に戻ろうと思うんだ。


直樹:えっ?いつ帰るの?


由梨:来月中には戻る予定。ほら、4月になる前には引越し終わらせて、落ち着きたいし。


直樹:マジか……転職活動してたの、気付かなかったわ。


由梨:ううん、違うの。次の仕事はなにも決まってない。何となく年度が変わる前にさ、面倒な引越しとか手続きとか終わらせたかっただけ。


直樹:………わかった。


由梨:(苦笑いしながら)やっぱり。

直樹はそう言うと思ってた。なんとなくさ、うちらが終わるって予感してたでしょ?


直樹:なんっつーか……最近会ってなかったし、そんなに連絡もとってなかったし……


由梨:……親からさ。そろそろ年齢も年齢だしこっちに帰って来い、って言われたんだよ。


直樹:………


由梨:結局、そっちで結婚しないなら実家に戻りなさいって。


M直樹:由梨のその言葉に俺の胸がチクリと痛む。

結婚。大学の時から付き合って10年。

おそらく由梨と結婚するのだろうと、大学生の時は何となく思っていた。


由梨:なんかさ。私たち、一緒にいるのが当たり前だったよね。

それで、安心してたっていうか。


直樹:安心、ね……そうかもしれないな。


由梨:居心地良いんだよね、直樹と居ると。


直樹:それは俺も同じ。


由梨:私、直樹と結婚するのかなって何となく思ってた。


直樹:それは………ごめん。


由梨:なんで謝るの〜!

わかってたよ。直樹はずっと、このままが良いって思ってたんでしょ。


直樹:………


由梨:ほら、やっぱり踏ん切りが必要じゃん?結婚ってなるとさ。


直樹:それはそうだけど……


由梨:じゃあさ。最後に旅行いったの、いつだったか覚えてる?


直樹:えーっと……3年前だっけ?


由梨:4年前だよ〜。あれが最後。


直樹:そんな前だったか?


由梨:そうだよ〜。なんて言うかさ、長く付き合ってると旅行も普段のデートも飽きてくるって感じ?

ほら。誕生日も、おめでとうは言うけどさ。

ちゃんとお祝いしなくなったし。


直樹:……いつからだろうな。こんなふうになったの。


由梨:……別にそれが嫌だったわけじゃないよ?


直樹:由梨はさ。俺に不満、なかったの?最近は喧嘩もしなくなってたし……

本当は言いたいことも言えなかったんじゃ——


由梨:(直樹の言葉を遮って)無いわけじゃないよ。でもさ、こんだけ長く一緒にいると、お互いの良いとこも悪いとこも知り尽くしてるじゃん?


直樹:それはそうだけども。


由梨:受け入れてた、って言うのかなぁ。“諦め”もあったかもしれない。


直樹:まぁ、わざわざ言うほどでも無かった?


由梨:そんな感じ。言っても無駄、ってわけじゃないけど。


直樹:俺らってさ、付き合った時はめちゃくちゃ喧嘩したよね。まぁあの時はお互い若かったのもあるけど。


由梨:そうねぇ。ほーんと、些細なことで喧嘩してたよね。

そうそう、付き合って半年くらい経った時だっけ?直樹の家に泊まる予定だったのに、友達とベロンベロンに飲んでやがんの。

家に行っても直樹いないし。ケータイ掛けても出ないし。


直樹:もう〜!あの時は本当にごめんって。


由梨:あはははは!蒸し返してごめん。直樹に怒ったのはあれが初めてだったからさ〜。本当に心配したんだよ?


直樹:自分の家に帰ってくれてたらよかったのに、ずっと俺んちの前で待ってるんだもん。


由梨:(笑いを堪えながら)めっちゃ千鳥足で吐きそうになりながら帰って来たのに、私の顔見た途端酔い覚めたよね〜!


直樹:あの時の由梨の顔、マジで鬼だったからね?!

吐き気もおさまったわ。


由梨:(無邪気にケラケラ笑う)


直樹:……(無言で由梨を見つめる)


由梨:ん?なーに?なんか顔に付いてる?


直樹:いや……由梨がそんなに笑うの、久々に見たなぁって。


由梨:…… 私たち、いつからこんなふうになっちゃったんだろうね。


直樹:………


由梨:ねぇ。私が実家戻ったらどうすんの?

新しく彼女つくる?


直樹:それは……わかんないよ。

好きな人が出来たら付き合うかもしれないし。

そういう人がいなかったら独りを謳歌するかもしれないし。


由梨:まぁそうなるよね〜。


直樹:由梨は……あっちで良い人見つけて結婚するのか?


由梨:うーん……親から、紹介したい人がいるって言われた。


直樹:……そうか。上手く行くと良いな。


由梨:でも、顔も知らないしどんな人かもまだわかんない。

うちの親つながりだから、危ない人ではないと思うけど。


直樹:(笑いながら)危ない人ってなんだよ。


由梨:ほら……ヤの付く人とか。


直樹:そんな映画みたいな展開あるわけないだろ〜


由梨:いやいや!万が一だよ?!万が一!


直樹:その万が一はアテにならんなぁ。


由梨:(頬を膨らませて)んもう〜!


由梨:あっ。そういえば、絵里香と雅哉くん、結婚するらしいよ。


直樹:はぁ?!俺、それ初めて聞いたんだけど!


由梨:私も昨日聞いたばっかりだよ。まだ知らない人の方が多いんじゃない?


直樹:いやいや、マジかよ……まぁ、アイツらも長かったからな。


由梨:そうねぇ。卒業してから付き合ったとはいえ、それでも長かったからね。


直樹:そうかぁ。なんか感慨深いなぁ。

あいつらとの付き合いも長いし。


由梨:ねぇ……直樹。


直樹:ん?


由梨:私、知ってたよ。


直樹:………知ってた、って何がだよ?


由梨:ずっと黙ってたけど、本当は気付いてたよ。


直樹:(苛立ちながら)だから、何がだよ?


由梨:直樹、絵里香と寝たことあるでしょ?


直樹:それは……


由梨:別にもう怒ってないよ。過ぎたことだし。絵里香とも付かず離れずの関係でいたいし。


直樹:ごめん!本当に、ごめん……

絵里香から雅哉の事で相談があってさ。酒飲んだ後に流れで……それからはもう二人で会わないようにしようって約束したんだ。

由梨、知ってたならなんで——


由梨:(直樹を遮って)怖かったのが半分。諦めていたのが半分。


直樹:え?


由梨:これがさ。付き合ってすぐだったら、私めちゃくちゃ怒ってたと思う。

ぎゃあぎゃあ泣きながら、直樹のことぶん殴ってたかも。


直樹:………


由梨:でもさ。10年近く付き合ってると直樹の事、男よりも家族や兄弟みたいに思っててさ。

そっちも私のこと、そう思ってたんじゃない?


直樹:………


由梨:だから、他の女と寝るのは仕方ないって思っちゃったの。

そう思った時点で直樹のこと本当に好きなのか、自信も無くなってたんだよね。

でも、直樹と一緒にいたら居心地良いからさ。別れるのも怖くって。


由梨:だから、親から戻って来いって言われた時に潮時だなって思ったの。


直樹:由梨、俺は……


由梨:良いよ、いまさら取り繕わなくたって。


由梨:コーヒー飲んだら帰るね。


直樹:……


由梨:もうこっちの方に行くことってそんなにないと思う。

まぁ絵里香と雅哉の結婚式に呼ばれたら行くかもだけど……あの二人、式挙げないかもって言ってたし。


直樹:あぁ。そうだったのか……


由梨:……全然、連絡は取り合えるんだけどさ。うちら。


直樹:うん。


由梨:もう会うことは……無いかも、ね。


直樹:そうなる、な。


由梨:……(気まずい空気になり、コーヒーに口をつける)

うーわっ!冷たっ!さっきあんなに熱かったのに。もう冷めちゃった。

(一気飲みをする)

じゃあ、これから引越しの準備しないといけないからお先に失礼するね。

はい。私の分のコーヒー代。


直樹:いや、これくらいのお代なんか良いって。


由梨:いーいーのー!財布の中小銭でじゃらじゃらしてるから、人助けだと思って。


直樹:(思わず吹き出す)……ふっ!

はいはい、わかりましたよ。


由梨:………


直樹:……これでさよなら、か。


由梨:……うん。元気で、ね。


直樹:あぁ。由梨も、元気で。


0: 由梨、喫茶店を出る。

0: 直樹、1人店内で自分のコーヒーと向き合う


直樹:(コーヒーを一口すする)

本当だ。あんなに熱かったのに……もう冷たい。



ー完ー

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2人用声劇台本【そして珈琲は冷めた】 汐音 葉月 @shione_hazuki

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