君にとって今日という1日がなにより素敵な1日でありますように。

猫野 尻尾

第1話:先生と生徒の関係。

1話完結です。


僕は「南田 幸太郎みなみだ こうたろう」30才・今年、京成商業高等学校に赴任してきたばかり。

僕の住まいは郊外の四戸建、マンションの二階。


今日は学校が休みだったので久しぶりに街に買い物に出ようと早々に

朝ごはんをすませ表に出た。


ドアに鍵をかけて振り向くと・・・


「え?・・・吉崎よしざき?・・・どうしたこんな朝に?」

「おはよう・・・」


「先生のおうちここなんだ」


「そうだけど・・・」


「でかけるところ?」


「そうだけど・・・吉崎こそ、なにしに来た?」


「せっかくだからデートしようか・・・先生」


「デート?・・・あはは、何言ってんの」


「教え子とデートなんかできるわけないだろ」


「どうして?」

「先生のこと好きになっちゃいけないの?」


「そりゃ人を好きなるのはいいことだって思うけど、あくまで先生と

生徒って関係・・・そこまでだろ? 」


「私が先生と付き合ってって言ったら?」


「そんなこと・・・付き合うなんて無理無理・・・ ありえないよ」


「なんで?、立場が違ってもお互い男と女でしょ」


「けどさ・・・僕と吉崎、何歳離れてると思ってんだよ」

「って言うか・・・そんなことより家に帰ってさ、学生なんだから勉強しろよ」


「これから買い物に出かけなきゃけないから、忙しいの」

「そんな夢みたいな話してないで帰れ・・・」


「先生・・・私、ずっとひとりなの?」

「友達はいるけど集団の中で無視される孤独って・・・先生分かる?」

「ひとりでいる孤独より辛いんだよ」


「おまえ・・・」


「ごめん・・・まじでごめん、迷惑だったね・・・帰るね」


そう言って吉崎は帰って行った。


孤独ってことの辛さは僕も分かる・・・僕自身が経験者だからだ・・・。

誰でも感受性豊かな学生時代は、いろんな問題を抱えるもの。

信じてた友に裏切られて傷ついて泣いた夜もある。

好きな子にフラれたことだって・・・。

犯した罪を人知れず闇に葬ったことも・・・。


僕のマンションにまで来て、デートしようかって言った生徒、

吉崎 莉央よしざき りお」・・・あまり素行の良くない女子だ。

性格は悪くはないんだけど素行がよくなって言うか変わってるって言うか・・・。


彼女は両親と幼い時、死別していて引き取り手のなかった彼女は否応無しに

施設にやられた。

親の愛情に恵まれなかったせいか、感情をコントロールすることが下手で

情緒不安定なところがある。

今でもその施設から高校に通っているが施設でも少し問題児。


以前、彼女はクラスの男子と廊下で、すれ違がおうとして、その男子に


「切ってやろうか」


って言って階段の下にいた男子に向かって手に持っていたカッターを

上から振り下ろした。

男子生徒は吉崎に鼻をスパッと切られて病院送りになった。


切られたのは鼻の頭だったので、大したことにはならなかったが、ひとつ

間違ってれば大事になっていた。


吉崎は、そのまま警察のお世話になったが初犯だし男子生徒も命に別条が

あったわけじゃなかったので裁判所で始末書だけ書かされて釈放になった。


裁判所から学校に連絡が入って誰も引き取り手がないって言うので、担任の

僕が彼女を引き取りにいった。

意外と他の先生も吉崎には関わりたくないようだ。


また何かあってもいけないと思って僕は吉崎に僕のスマホの番号を教えた。

困ったことがあったら、いつでもかけておいでって言って・・・。


それ以来だ・・・吉崎が・・・莉央りおが僕につきまとうようになったのは。


ストーカーとまではいかないが、それに近いくらい僕に近づいて来る

ようになった。


で、莉央から好きだって告白された・・・私と付き合ってって。


最初は相手にしなかった。

僕たちは先生と生徒の関係だからね。

それに彼女の普段の素行にも問題があったし・・・

その辺が治らないと、万が一にも莉央を彼女にするのは不安要素ありありだった。


彼女からの告白をうやむやにしたまま時が過ぎていった。

最近、莉央は学校も来たり来なかったりの日々が続いていた。


その日も莉央は学校を休んでいた。

授業中、彼女がいない机と椅子を見て僕は、少し心配した。


そしたら僕のスマホに莉央から、突然連絡が入った。

普通なら授業中だから電話に出たりはしないんだが莉央からだったので、

僕は授業を中断して生徒たちに「すまん」と謝って教室から廊下に出ると

すぐに電話に出た。


《先生、聞いてる?・・・私ね、遠くに行くことにしたの・・・》


《先生面倒かけてごめんね・・・今までありがとうね・・・》


《もう迷惑かけないからね・・・先生のこととっても大好きだったよ》


《さよなら・・・先生・・・元気でね・・・げんきでね・・・》


「吉崎・・・莉央?・・・なに言ってんだ・・・」


莉央はスマホの向こうで泣いていた。

それだけ言って莉央はスマホを切った。

莉央が言った言葉で、これから彼女に何が起きるのか僕にはすぐ分った。


僕は「他の生徒にしばらく抜けることを謝って」授業をそっちのけで

莉央の施設に向かった。


「莉央死ぬなよ・・・絶対、死ぬんじゃないぞ」


俺はただそれだけを願った・・・もし莉央になにかあったら・・・。


人の運命はその時の運と状況で良くも悪くも変化する。

それはきっと神様がその人の日頃の素行を見ていて決めてるんだろう。


それから数年後、僕はひとりの女性と結婚した。


彼女と一緒に住んでるマンションの台所で、僕の妻が料理を作っている。

後ろ姿を僕は大切な人を見守るように見ていた。

彼女は僕と結婚したため名前が「吉崎 莉央」から「南田 莉央」に変わっていた。


彼女には、まだ人には理解してもらえない闇が深く心に根ずいている。

それは一生拭い去ることはできないかもしれない。

でも、それを分かっているからこそ僕は莉央と一緒になった。


僕と暮らすようになって莉央は安心と信頼を僕から得たようだ。

まだ情緒的に不安定な時もあるにはあるが以前に比べて笑顔が増えた。


これから彼女の心に根ずいた悲しみも苦しみもすべて僕が受け止めて共に

人生を歩んで行くつもり・・・。

一生、僕が君の癒しになってあげる・・・そして僕が君を守る。


かならず僕と一緒になってよかったって君に言わせてみせるから・・・。


おしまい。

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君にとって今日という1日がなにより素敵な1日でありますように。 猫野 尻尾 @amanotenshi

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