鬼だった強者のワタシは人間なんかに転生して弱者に生まれ変わりました

第2話：「鬼やばい転校生」

とんでもない奴がやって来た。

この平穏な学校に。

平穏とは掛け離れた風変わりな転校生が。

それは今から数時間前のこと。

朝登校して来て、ホームルームが始まってすぐ担任は我々生徒たちに朗報があるとして生徒皆々の静寂と期待をあおった。

あいにく、その教師の述べる朗報とやらがこそが、僕を今後度々苦しませる悩みの種の種まきとなり、

それまで様々な期待に溢れた明るい学校生活に影を落とす惨劇的な悲報となるのだった。

「せんせぇー！朗報って何なんですか？…勿体ぶらないで教えて下さいよぉ〜」

「まぁそう慌てるな松井。今から話そうと思っていたところだ」

生徒たちの淡い期待を帯びた視線が殺到する中、担任教師は口を開いた。

「今日から、転校生がこのクラスにやって来ます！」

担任がそう告げた矢先、生徒一同は刹那の沈黙の後、その反動かのように各々が歓喜の声を上げ、たちまち教室内は歓声の渦に包まれた。

今は五月初め。先月より晴れて中学三年となって訪れた"新たな学年、新たな仲間（クラスメート）、新たな教室'。

何もかも新鮮だった四月の春も終わった今頃には、すっかりその頃の新鮮味は失せ、さぞ食傷気味となっていた頃合いだろう。

となれば、クラスメートたちがはしゃぐのも頷けるが……

元より平穏で平凡な学校生活を送ることを求めて、わざわざ移住までして選んだこの学校。

人目にあまりつかないところの、田舎町にひつそりと建つこの学校は、僕にとって色々と都合が良かった。

しかし今時分、それを脅かす可能性の秘める、部外者が立ち寄ったというのだ。

"僕の世界'に介入する、侵略者たりうる者が。

あの扉の向こうに。

たった一人増えると言えど、生徒一人の存在の影響は大きいものであり、今のクラスの雰囲気を左右するやもしれない。

「先生、その転校生はどっちですか？…」

僕の心の中の静かな胸騒ぎをよそに、さっきから隣の席で松井という男が心の内だけに留めず、外にまで騒がしく煩い。

「松井くん、"どっち'っていうのは？…」　

「男か女か」

何か期待したように、目を爛々とした輝かせた生徒の１人が、この手にありがちな質問に迫る。

担任は、はいはいとその質問を予期していたかのような顔をして見せた。

三十一という年の功と、同じ男であるという身の上から、その男子生徒の問いの真意が大方察しがついたのだろう。

教師は一呼吸を置いてから話し始める。

「はい。まぁ…一様女の子です」

「よっしゃあぁぁ！！！！」

"女の子'と聞いて、半数以上の一部の生徒たちが舞い上がる中、暫時、僕はその教師の述べた言葉の別の一言（いちごん）に一際注意を引かされた。

そしてその意を熟考した。

教師が何気なく言った、"一様'という言葉に。

彼がただ女の子と言わず、不意に付け加えたその形容詞に、大きな意図が込められているように思えてならなかったのだ。

ここで"一様'と表現するなら、二つの解釈ができると僕は考える。

まず一つは、先の質疑に、ある一定の輩の期待した応答だったがゆえ、あくまで転校生であることを配慮しろという暗黙の名目によるもの。

ニに、女子であるという肉体的事実があっても尚、そう前置きを付け置かなくてはならないほどにその女子転校生の女心が欠けているということだろうか。

後者においては実に面倒極まり無い。

いくら関わらないようにするとはいえ、クラスメートという強制関係によって必然的に接しなくてはならないシーンもでてくるだろう。

ただでさえ、異性との面識の少ないところを、その例外となっては、さらなる混乱を招くことになる。

それに…なんとなく嫌な予感がしていた。

クラスメートたちの抱く心待ちにしている期待とは裏腹にら、多分な不安を募らせていた僕もまた、皆と同様、これからやって来る教室の来訪者を待つ。

「それでは、ここに連れてこようと思います」

僕は固唾を呑む。

その転校生がどんな奴かで、僕の今後の学校生活が決まる。

静かで淑やかな子がいい。

僕は心中で、そんなことを祈っていた。

「では入って来てくださーい！」

『ガタンッ！！』

そう教師が口にした瞬間、教室の黒板側のドアが、激しく、そして乱暴に開かれる。

堂々たる態度で、彼女は一点に集中する視線を浴びながらズケズケと教室へ入り、教卓の前に立って口を開いた。

「よぉ人間ども。オレは元鬼のミラだ！貴様ら、オレにひれ伏せ！！」

案の定、僕の祈りは無下に終わり、僕が感じていた嫌な予感は的中するのだった。