第15話 報酬が入ったからには……? 後編

「ったく……、ちゃんと歩けてねえじゃん?! 本当に家まで帰れるのか?」

「だあじょぶぅ。このとおり、しゃなりしゃなり歩けますよ〜」


 果心はしゃなりしゃなりと歩いて見せているつもりであったが、実態はふらふらと歩き、そこら辺を歩いている人にぶつかり、客引きバイトの大学生に頭突きし、危険を感じたナンパ師には逃げられる始末だった。

 ヤクザらしき男にも衝突したのか、


「どこに目ついてるんじゃ!? カタギのオンナでも舐めんなよ!」


 と怒鳴っていた。

 今時こんな分かりやすいヤクザは如何なものかと、コウタロウは思ったが、下手に出るともっと厄介になるので露骨に他人のふりをした。

 果心の歩みが止まったのは『スナック ウロボロス』のスタンド看板に躓いて転けた時だった。

 膝が看板に思いっきり当たったようだ。


「あ”っ……! いったぁ……!」


 そこからバランスを崩しよろめいていた。

 ドベチという痛そうな音と共に『スナック ウロボロス』のスタンド看板もヨロヨロと情けなく倒れた。

 流石にこれは看過できないと思い、コウタロウは果心の元に駆け寄った。


「大丈夫か……?!」

「━━たたぁ……」

「膝、血出てるじゃん! とりあえず止血しないと」

「これくらい平気だって」

「手当しないと治るのが遅くなるし、菌が入ったら面倒くさいだろ。ハンカチとか持ってるか?」

「持ってない」

「ガーゼと消毒液買ってくる。目の前にコンビニがあるからすぐ戻る」


 コウタロウは小走りでコンビニに入って行った。

 この間誰かに絡まれることがないか不安だったので速やかに済ませたい。

 首尾よく消毒液とガーゼを見つけ、セルフレジで急いで精算する。


「お待たせ……!」


 幸いにも果心は変なのに絡まれたり連れていかれたりすることもなく、膝を見つめながら座っていた。


「今手当てするから」


 シューと消毒液を吹きかけ手際よくガーゼに包む。

 学校でも負傷者の手当を習ったのでお手のもの。


「歩けるか?」

「うん…… ありがと」

 

 立ち上がって、自力で歩こうと試みたが足元はおぼつかなかった。

 膝を擦りむいただけなのだが、素面でそうなったのとは訳が違う。


「……やっぱり無理すんな。俺の肩使っていいから」


 半ば無理やり果心の手を自分の肩に乗せ、二人三脚のようにして歩調を合わせた。


「そこの……駅までで……いいよ」

「何言ってるんだよ…… この状態で家まで帰れないだろ? 今日ぐらいウチに泊まってけ。まあ、ウチに着く頃には酔いが覚めてるかも知れないけど」

「……じゃあ、お言葉に……甘えよう……かな……」


 ゆっくりとゆっくりと歩いてコウタロウの家へと向かっていく。


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 家に着くとコウタロウは布団を敷いた。ついでに絆創膏がないか探してみることにした。

 幸いにも絆創膏は最後の1枚が棚にあった。


「シャワー浴びる? それとも寝る?」

「うーん…… 身体が少し気持ち悪いからシャワー借りようかな」

「ん。それなら、タオルと着替え出しておくし、布団も敷いとく」


 古いアパートであるが猫用トイレぐらいの大きさのシャワールームがあるのはせめてもの救い。

 ただ、脱衣所はないので果心の裸体を見ないように背を向いて布団を敷く。


「着替え足元にあるからな〜」

「うんっ! ありがとう」


 さっきと比べてすこぶる良くなった声色を聞いて安心している。

 脱衣所さえあれば、あまり意識せずに済むのだが仕方がない。

 

「さっぱりした〜 本当にありがと」

 

 コウタロウのTシャツを着た果心は、異常に艶っぽく見えた。

 特に性的対象として見たことは一度もなかったのに。


 男性用のシャンプーを使ったようなので、女子特有のいい匂いはほとんど無かったが、鎖骨がちらりと見えた時は少し興奮した。

 コウタロウにとって、隣の布団で寝ているを意識せざる得ない夜となった。 

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