第5話最悪なスタートから
「おぉ!これは!召喚士殿…この者達が姫様の心の扉を開ける二人だと?」
ここは何処だろうと大広間の様な一室で僕と美夜は辺りを見渡していた。
それに先程、脳内で響き渡っていた言葉は何だったのだろうか。
疲れているので幻聴でも聞こえていたのだろうと無視をしていたのだが。
だが明らかにここは僕らが住んでいた世界ではないと理解できる。
何故ならばこの様な髪色や肌の色や目の色を現実世界では見たことが無いからだ。
まるでアニメや漫画の世界に入り込んでしまったのだと錯覚するほどだった。
「呪い師が言っていた通りです。異世界より二人の男女が召喚される。一人は姫様よりも年上の男性。一人は姫様と同様の少女。まさに予言通りです」
何やら白髪の好々爺が二人で話をしていたが僕らはそれどころではない。
ここからどの様にして帰るのだ。
片道切符だけで元の世界に戻れる気がしない。
それに召喚士と言っていたわけで転送が出来るとは思えない。
他にも転送士なる存在が居るのだろうか。
そんなことを考えながら僕は非常に焦っていた。
しかしながら隣りにいる美夜は目を輝かせて辺りを眺めている。
「美夜…怖くないの?」
僕の質問も耳に入って居ないようで彼女は辺りを眺めて心を踊らせているようだった。
「美夜…おーい…」
やっと僕の声が耳に届いたのか彼女はこちらを振り向く。
「斎藤さん。これって異世界召喚ですよね!?」
心躍らせている美夜を見て僕の心は少しだけ落ち着いていく。
「そうだね。何でこんな事が起きたかは分からないけれど…」
「買ってもらった小説が光って…言葉が脳内に響いて来て…光に包まれて飛んだって感じでしたよ」
「そうなんだ。起きていたの?」
「はい。何となく寝付けない夜でした」
「なるほど。僕らは何のために召喚されたんだろう」
「それはこれから説明されるはずですよ」
美夜は明らかに冷静な表情を浮かべていて大人の僕のほうが動揺していた。
それもそのはずだ。
夢見がちな年頃は遠に過ぎている。
信じられない体験を簡単に受け入れることが出来るほど僕の心にはもう少年は存在していない。
「お二人。こちらに来て頂けるか」
偉そうな見た目の爺の言葉に従うと僕らは揃って前に進む。
「お二人に頼みがある」
「はい。何でしょう?」
「姫の友になってほしいのだ」
「姫?」
「そうだ。現在王国は危機である。亡き王の子供たちが権力争いで仲違いをしている。このままいくと命を賭ける争いへと発展してしまうだろう。そうなる前に亡き王の一人娘を救ってほしい。亡き王の遺言がここにある。娘に一人でも良い心を許せる友人ができることを願う。亡き王は自分が亡くなった後のことをイメージできていたのだろう。姫は今孤独を感じている。私共も中々接触ができない。そこで呪い師の予言に従って召喚を行ってもらった結果、お二人が召喚されたというわけだ。二人なら姫を救える。どうか頼む。姫を救ってくれ」
大臣なのか好々爺風の男性に僕と美夜は頼み事をされる。
隣の美夜は未だに目を輝かせており大臣風の男性の言葉を咀嚼しているようだった。
「それって…お姫様と仲良くなれるってことですか!?」
美夜の言葉を受けた大臣風の男性は大きく頷くが少しだけ気まずそうな表情を浮かべていた。
「実際にあってみれば分かることですが…。ではご案内します」
そうして僕らは姫の部屋まで案内されて…。
「誰よ!あんた達!兄様達が差し向けてきた刺客でしょ!早く追い出しなさい!」
姫は確実に危機感を感じており険しい表情で僕らを睨みつけていた。
「違います。姫様。こちらの方々は…」
「知らないわよ!あっちに行きなさい!」
そうして僕らと姫との初対面は最悪の形でスタートするのであった。
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