髭も似合うほどの良いおじさんの僕に隣の家の女子中学生がここ最近絡んでくるんだが…。若い頃はまるでモテなかった僕に懐いてくれる女子中高生が沢山いるってどういうこと…?
ALC
第1話これをラブコメというのか…
本日、僕は三十五歳を迎えた。
残念なことに幸せな家庭で一家団欒としてお祝いをされているわけではない。
一人虚しく時計の針が天辺を迎えた残業中のオフィスで迎えることとなった。
「終電なくなる。帰ろう」
パソコンのデータを保存すると一つ伸びをして鞄を手にする。
顎のあたりを軽く擦ると今朝剃ったというのに既にそこには髭が存在している。
もう良い年頃で半日も経てば少しの髭ぐらいは薄っすらと映えてくるものだ。
終電の電車に乗り込んで若いカップルがイチャイチャしているのを横目に車窓の奥の景色を眺めていた。
「疲れたな…」
ごく僅かな独り言が漏れて軽く嘆息してしまう。
隣には同じ様に疲れた顔をした同世代の社会人の顔がいくつも存在していた。
「何処もブラックだな…」
そんな事を軽く思考しながら自宅までの最寄り駅で降車する。
自宅のマンションまで歩いて帰宅すると目的階である五階へ向かう。
エレベーターに乗って順調に五階へ到着すると自宅までの廊下を進んでいく。
廊下の一番奥が僕の家なのだが…。
隣の家の女子中学生が家の玄関の前で体育座りをしていた。
無視をすることも出来たのだが…。
何か困っていることがあれば力になりたいと思うのもご近所さんだからだ。
「こんばんは。家の前でどうかしたの?」
優しく語りかけたはずだったが彼女は少しだけ驚いたような表情を浮かべていた。
「あ…こんばんは。お父さんが女の人連れこんでいて…締め出されたんです…」
おっと…これは急にヘビーな話が飛び込んできたものだ。
「そう。お母さんは?ご近所さんだけど僕は仕事ばかりで知らないことも多いんだ」
「お母さんは最近若い男のところへ行きました」
「えっと…離婚したって話で良いのかな?」
「そうだと思います。私もよく分かってないんです」
「そっか…。寒くない?いつから外に締め出されているの?」
「もうかれこれ五時間ほどです」
かなり重たい話をぶつけられて僕は言葉に詰まりかける。
しかしながら眼の前で困っている女子中学生を見過ごすことは僕には出来ない。
かなり昔の話だが。
僕が中学生の時、ファストフード店で水とハンバーガー一つで飢えを凌いでいた時。
妙齢の女性が千円札を僕に手渡してきた事を思い出す。
「私も幼い頃。お金がなくてね。今の貴方のように満足にご飯が食べられなかったのよ。恨めしそうに他のお客さんが食べている姿を見ていたでしょ?もうおばさん見ていられなくてね。お節介で自己満足なんだけど…これを受け取って。好きなものを注文しなさい。じゃあね」
そんな過去の記憶を思い出していた。
閑話休題。
「お腹すいてない?」
眼の前の女子中学生を一時的にで良いからまずは救いたかった。
「それは…」
きっと本心は言いにくいだろう。
彼女だって僕のことを知りもしないはずなのだから。
「近所のファミレスにでも行こうか。僕も一人でご飯を食べるのは寂しいんだ」
下手くそな笑みを浮かべてエレベーターの方へと足を向ける。
それに倣う様に彼女はその場から立ち上がり僕の方へと歩いてくる。
エレベーターが来るのを待っていると彼女は遠慮がちに口を開いた。
「おじさん。いつも一人ですけど…彼女とかいないんですか…っ♡」
イタズラな笑みを向けてくる彼女に僕は苦笑するしかなかった。
「大人を誂うもんじゃないよ」
そんな決まり文句を口にしてエレベーターに乗り込むのであった。
近所のファミレスへと到着した僕らは明らかに異様な組み合わせだっただろう。
「好きなもの頼むと良いよ」
僕の言葉に彼女は少しだけ戸惑っているようにも思える。
「なにかしろって言うつもりは…」
「あるわけ無いでしょ。純粋に善意だよ。僕も昔見知らぬ年上のお姉さんに奢ってもらったことがあるんだ。だからその時のお返しみたいなものなんだよ。好きなもの頼むと良い」
「ありがとうございますっ♡」
そう言うと彼女はタッチパネルで操作をすると好きなだけメニューを注文しているようだった。
僕も遅れて注文をすると運ばれてきた料理を一緒に頂くのであった。
「また困ったことがあったら言ってよ。隣同士だし。好きに何でも相談して。こんなおじさんで良ければだけど」
家の前に到着すると鍵が開いていたようで彼女は僕にお礼を言って中に入っていく。
「今日は本当にありがとうございました。このお礼はいつか。じゃあまた」
中に入っていく彼女を見送ると僕も部屋の中に入っていく。
そうしてここから一回りも二回りも年下の女子中高生から懐かれる我慢系ラブコメが始まろうとしていた。
追々、異世界展開もあり!?
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