第2話お礼を返し合う

隣の家の女子中学生を助けた日から数日が経過しようとしていた。

助けたと大見得を切って言えるかと言えばそうではない。

僕はただその場しのぎの優しさを向けただけだと思われる。

それで彼女が少しでも救われていたら…。

そんな事を軽く想像する深夜の帰宅途中だった。

本日は週末なため夕食を食べるのも少しだけ億劫なほど疲労感を感じていた。

マンションに到着した僕はエレベーターに乗り込んで五階を目指す。

何事もなく目的階へと到着した僕は廊下の一番奥を目指した。

本日、件の彼女が家の前で締め出されているようなことはなかった。

それに一安心して頬が緩むと確かな足取りで自宅の前のドアまで向かう。

玄関のドアノブに紙袋が掛かっていて少しだけ首を傾げる。

中身を確認して僕の頬はもっと緩むこととなる。

「おじさんへ

この間は助けて頂いて本当にありがとうございました。

今日、学校で調理実習が有りまして多く作りすぎてしまいました。

お父さんに渡すのも何処か癪なので…おじさんに贈らせてください。

この間の感謝の印だと思って受け取って頂けると幸いです。

またその内、お世話になることもあるかと思います。

父には恋人が出来たそうなので…私は邪魔者になるかもしれません。

その時は私のこと…構ってください。

なんておこがましいことを言っているのは重々承知なのですが…。

また相手をしてくださいね。

                        富士美夜ふじみよより」


そんな丁寧な手紙とともにタッパーに入ったサーモンのムニエルらしきものが目に入る。

有り難く頂こうと自宅の中に入っていくとその足でレンジのあるキッチンまで向かった。

タッパーごとレンジに入れると温めのボタンを押した。

自室に向かいスーツをハンガーに掛けると手洗いうがいを済ませた。

丁度レンジの温めが完了した音が聞こえてきて中のタッパーを取り出す。

冷凍しておいたご飯を解凍すると遅めの夕食を頂く。

有り難く暖かい気分に包まれた僕の瞼には暖かな涙が浮かんでいるようだった。

少しだけ気恥ずかしい気分に追い込まれた僕は涙を拭った。

後日でいいので彼女に何かしらのお返しをしなければと軽く考えながら。

食事を終えると丁寧に食器を洗い自室へと向かう。

そのまま翌日休日の昼間まで泥のように眠りに着くのであった。



翌日は土曜日で珍しく休日となっていた。

昼頃に目を覚ました僕は玄関へと足を運ぶ。

灰皿を手にするとその足で外へと出た。

はぁっと欠伸をしながらタバコに火を付けた所で隣から視線を感じていた。

ちらりと横を見ると…。

「こんにちは。おじさんも喫煙者なんですね。イメージ通りですっ♡」

隣の家の女子中学生である富士美夜は本日も家の外に締め出されているようだった。

「ごめん。気付かなかった。今消すから…」

一応子供の前でタバコを吸うのもマナー違反な気がしてタバコの火を消そうとするが…。

「大丈夫ですよ。お父さんは家の中で普通に吸うので」

「え…でもなぁ…」

「大丈夫です。外ですし寝起きの一本ですよね?」

「まぁ…じゃあすぐに吸うから。申し訳ないね」

そんな言葉を口にすると彼女に副流煙がいかないように遠く外の方へと煙を吐いていく。

一本のタバコを吸い終えると灰皿の中に吸い殻を捨てた。

「それで?今日も締め出されたの?」

話の核心を突くような言葉を口にすると彼女は気まずそうに頷いた。

「恋人が来ているの?」

「はい。邪魔者扱いされました…」

「そっか。ちょっと待っててよ。支度を済ませてくるから」

「えっと…?」

「あぁ〜…昨日の食事のお礼をさせてよ。出かけよう」

「いいんですか!?」

「もちろん。お金の使い道も他にないからね。甘えてくれて構わないよ」

「ありがとうございますっ♡」

「じゃあすぐに支度してくるから」

「はいっ♡待っていますっ♡」

自宅の中に戻っていくとすぐに支度を済ませる。

本日は富士美夜と休日のお出かけと相成るのであった。


次回予告。

富士美夜と初めてのお出かけ。

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