第5話 らしいお別れ

 そう言われて、翔太たちは母親を探しに行った。


 彼女は珍しくショッピングモールにひとりでいる。買い物ついでにあちこち見てまわっていたのだ。


 認識阻害を解いて翔太が近づくと……咎めるような険しい顔で、母は翔太をながめた。


「こんなところでなにしてるの? まさかまた学校を休んでるの? もう、どうして普通にできないの? ほかの子はみんな普通に学校に行ってるでしょ? ちゃんと行くようになったと思ったらすぐこれ。本当にどうして翔太は――」


 延々と不満を言い始めるのだった。


〔ああ、そういえば平日の昼間だった……〕


 失敗したと思ったが、よく考えたら母親はいつも息子の話をまじめに聞かない。こうしなさいと口出しされる割に、相談しても「翔太が決めること」と突き放される。

 

 いつ会っても同じだと気づいた。


「あのさ、母さん――」


「学校に行かないと、ほかの人から変に思われるでしょ! 嫌だ嫌だ言っていても仕方ないんだから。もうすぐ六年生になるんだし、あと一年で卒業なんだから、もう少し――」


 埒が明かないので、翔太は手のひらに炎を出してみせた。母親は驚いて一瞬だけ口を閉じるが、


「そんな手品を覚えてどうするの? お店に迷惑だからやめなさい!」


 迷惑なのは正論かな……と、翔太は炎を消した。そして母親の愚痴のような文句は続く。


「はぁ、どうして普通の子みたいにできないの? ほかの子は学校に通ってるのに……。父親がいないのがダメなのかしら――」


 離婚してから一度も顔を見せない父親がいたところで、なにが変わるんだろう? そういう問題ではない、と翔太は思い、悲しげな顔で認識阻害を発動させた。


 一方的にまくし立てていた母親は、急に言葉を止めた。


「ドラマみたいなお別れなんて、らしくないもんね」


 なんとなく、別れはもっと劇的なものになるんじゃないかと予感していた。だが、そうじゃない。そうじゃないのだ。


 自分たちにふさわしい別れ方は、きっとこういうのなんだろう。


 母親は買い物を再開した。翔太のことは、もう目に入っていない。


「さよなら、母さん」


 翔太は歩き出した。サラマンダーが、神さまが隣に来てくれる。


「提案しといてなんだが……すまんな翔太」


「気にしないでください」


「ショータさん、おいしいお昼ごはん、つくりますね」


「うん、楽しみにしてる」


 翔太はサラマンダーを抱きしめた。そうして、神さまと一緒に歩いていく。自分が生きるべき世界を。(了)

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【短篇】僕の生きる世界 笠原久 @m4bkay

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