最終話「作戦名は、その名も「愛」ですわ!」
そして、来たるは果し合い当日。
場所は、紅薔薇学園。
学園の正門前には、すでに白百合学園の女生徒たちが待ち構えていた。
「果し合い、覚えてる?」
斎藤絵馬は、相変わらずの無表情で問いかけてくる。
「もちろんですわ! この薫子、逃げも隠れもしなくてよ!」
会長はいつも通りの堂々としたポーズを崩さない。
ついこの間すべての攻撃を避けられていたにも関わらず、この余裕はなんだろう。
私は、白百合学園の食堂で結真ちゃんと話したときのことを思い出した。
『会長、何か思いついたんですね!』
『ええ! ズバリ、作戦名は、その名も「愛」ですわ!』
『あ、愛!??』
喧嘩の秘策が「愛」とは…一体どういうことなんだろう?
あの日はうちに帰ってからも考えていたけれど、結局何もわからなかった。
「この間は途中だったけど......今日は決着をつける」
絵馬は、静かに言い放った。
彼女の視線が会長をとらえている。
「いつでもかかってきてくださいまし」
絵馬の視線を受けて、会長は笑みを浮かべた。
二人の間に風が吹き抜けていく。
それが合図だったかのように、絵馬と会長は衝突した。
「前も言った。あなたの拳は当たらない」
「試してみないとわかりませんわ!」
会長は長い腕からパンチを勢い良く繰り出す。
絵馬はそれを知っていたかのように避ける。
…前と同じ、完全にタイミングを読まれている動きだ。
「随分とお上品ですのね。私もいつあなたの拳をよければいいのかしら」
「…挑発のつもり?」
「いいえ、ただ拳を振るうのをためらっているように見えたので」
そこで絵馬の表情がわずかに動いた。
「…あら、図星でしたの?」
口角を上げた会長に、初めて絵馬がパンチを繰り出した。
小柄な見た目に似合わず、その拳は鋭く、速い。
さすがの会長でも…と思うが否や、絵馬の拳は寸前で止まった。
いや、絵馬の拳は会長の掌に受け止められていた。
そして、動きの止まった絵馬を会長はそのまま抱きしめた。
「え......」
不意の行動に、困惑の声が漏れる絵馬。
一連の流れを見ていた私や白百合学園の女生徒もあっけに取られている。
「絵馬さん、あなたはとてもお強いのね。でも…」
会長が絵馬の身体を背負ったかと思うと、そのまま地面に叩きつけた。
一本背負いされる形で投げられた絵馬は、仰向けに寝たまま起き上がらない。
「まだまだ拳がなっていませんわ!!!!」
拳以外で相手をノックアウトしたことは指摘しない方がいいよね…。
私は何も言及せずに、会長の
倒れた絵馬の周りに、白百合学園の女生徒たちが駆け寄っていく。
「誰よりも強く、なりたかった。剣々崎薫子…あなたを倒して証明したかったの」
コンクリートの上で寝たままの絵馬が呟く。
会長は、絵馬の傍にかがんで彼女の手を取った。
「過去は変えられませんが、受け止めることはできますわ。今度は結真さんも連れて、お話しにいらして」
美味しい紅茶とスコーンでおもてなししますわ、と。
ほころぶような笑顔で言いのけた会長に、絵馬も笑い返してみせた。
白百合学園の果し合いから数日後。
トークアプリに一件のメッセージが届いた。
『お姉ちゃんとクッキー作ったの! 今度、みんなでお菓子パーティーしたいです!』
送り主は、結真ちゃんだ。
写真には、完成したクッキーと斎藤姉妹が写っている。
「会長、結真ちゃんが今度お菓子パーティーしたいそうです!」
「盾子さん、結真さんとすっかり仲良しですわね」
実は、白百合学園に潜入した時。
私は、結真ちゃんと連絡先を交換していた。
なんとなく、結真ちゃんと仲良くなりたいなと感じていたのだ。
「結真ちゃん、「お姉ちゃんに学外の友達ができた!」って喜んでましたよ」
「もちろん、一度拳を交えたのですから友達も同然ですわ」
「ふふっ。そうですね」
会長のこういうところに、だんだん慣れてくれるといいな。
今頃、妹と美味しいクッキーを食べているであろう彼女のことを少し考えた。
お嬢様ヤンキー剣々崎薫子の日常2 空峯千代 @niconico_chiyo1125
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