第3話「薫子は秘策を思いつきましてよ!」
「他校の制服も新鮮でいいですわね」
白のブレザーに紺色のスカート。
昨日、紅薔薇学園を訪ねてきた女生徒たちと同じ制服だ。
私と会長はいつもの制服を脱いで、白百合学園の制服に身を包んでいる。
「会長、なぜ白百合学園に…」
「そんなの潜入捜査に決まっていますわ」
あっけらかんと言い切る会長はどこか楽しげだ。
「いいですこと、盾子さん。強くなるためならば、時には大胆さも必要ですわ」
そう言うや否や、会長は白百合学園に堂々と入っていった。
見知らぬ女生徒たちが歩いている中、さもここにいるのは当然とばかりに颯爽と歩いていく。
私は不安になりながらも、先を行く会長のあとを必死についていった。
白百合学園は新設校で、ここ数年の間に立てられたらしい。
その証拠に、学園の壁はまだ牛乳のように白く目立つような傷もない。
校門をくぐって歩いた先の中庭は、白百合の花が見事に咲いていて美しかった。
「ごきげんよう」
会長はごく自然に他校の女生徒に声を掛ける。
まるで最初から白百合学園に通っているかのような堂々とした態度だった。
「あら、ごきげんよう」
「少しお聞きしたいのですが、斎藤絵馬さんってどんな方ですの?」
会長、それはあまりにもストレート過ぎでは!?!??
口から飛び出そうになる言葉をなんとか収める。
そこまで率直に聞いてしまっては不審に思われるのでは…。
私は女生徒の反応を気にしていたけれど、どうやら杞憂に終わりそうだった。
「絵馬さんのお話なら詳しい方が…
女生徒が中庭の方に向かって少し大きな声を出す。
すると、結真と呼ばれた少女がホースを手に持ったまま振り返った。
中庭から移動して、白百合学園の食堂。
私の右隣に会長、正面に結真ちゃんが座る。
そして目の前には、アフタヌーンティーのセット。
…なぜ、こうして食堂でお茶をする流れになったのか。
「お姉ちゃんはね、ずっと面倒見がよくて~。後輩にも慕われてて~」
中庭で「斎藤絵馬」の名前を出した瞬間、少女の目がきらりと輝いた。
そうして、気がつけば結真ちゃんに連れられて食堂までたどり着いていたのだ。
「あ、お姉ちゃんの写真見ます?」
「あの…結真ちゃんはお姉さんのこと大好きなんだね」
「それはもちろん!!!!」
結真ちゃんの目がより一層きらきらと輝く。
「お姉ちゃんは、私をずっと守ってくれる最強のお姉ちゃんですから!」
「たしかに、本当にお強いみたいですわね」
先日のことを思い出しているのか、会長はまた悔しそうな表情に戻っていた。
「でも、お姉ちゃん、ほんと大変だったんです。前の父が酷くて…よく暴力受けてたから」
今の両親に引き取られてからは大丈夫なんですけど、と結真ちゃんは続ける。
身近で姉が傷つくところを見てきた彼女は、つらかったんだろうな。
私も会長も、何とも言えない顔で彼女の方を見ていた。
「お父さんに手を出されるようになってから、人が相手を殴るタイミングが分かるって。お姉ちゃん、そう言ってました」
その時、ティーカップがことりとテーブルに置かれる音がした。
隣を見ると、会長はボロボロと大粒の涙を流しながら泣いている。
「か、会長?」
「結真さんをお父様から守るために、絵馬さんは強くなったんですのね…。ウウッ…感動いたしましたわ!!」
シルクのハンカチで涙を拭いた会長は、結真ちゃんの手を取って固く握った。
「私、秘策を思いつきましたわ! 果し合いの日、楽しみにしてらして~~~!!!」
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