第2話「まずは敵を知ることからですわ!」

「当たらない.......?」


 自分の身体能力に自信があるのか、それとも挑発なのか。

 彼女の真意は読めなかった。


「自信がおありのようですわね…」


 絵馬は変わらず、笑みをくずさない。

 しかし、会長はファイティングポーズを下ろさなかった。


 再度仕掛けた会長の拳は恐ろしく速い。

 それなのに、絵馬はすんでのところでひらりとかわしてしまうのだ。

 何度目かの拳を避けた絵馬は、会長にパンチを放とうとした。


 ヴーッ ヴーッ


 その場に響いたバイブ音に両者の動きが止まる。

 拳をひらいた絵馬は、スカートのポケットからスマホを取り出していた。

 どうやらバイブ音は彼女のスマホの音らしい。


「......はい、わかりました」

 

 電話の相手に短く返事をした彼女は、会長に振り向いた。


「用事があるから。また来る」

「…またお待ちしておりますわ」


 なんてことのないように、去っていく白百合学園の生徒たち。

 その後ろ姿を見つめる会長の目は、どこか悔しそうに見えた。

 



「悔しいですわ!!!!!!!!!!」


 会長の叫びが生徒会室に響いた。

 紅茶の入ったカップを上品に持ったまま叫ぶものだから、ついビクリと身体が震える。


「薫子ったら。そんなに大きな声を出すんじゃありません」


 かすみさんは、やれやれと手でポーズを取った。


「いやですわ......私としたことがはしたない。ごめん遊ばせ」


 普段は余裕のある態度で、いつでも笑っているのに。

 白百合学園の絵馬に押され気味だったことがこたえているのか、会長は悔しそうにブルブルと震えている。


「私、こんな噂を聞いたことがあります。白百合学園の恐ろしく強い一年生は、なんと心が読めるんだとか」


 かすみさんは、言いながら冗談っぽく微笑んでみせた。

 

「心が読める…エスパーってことですか?」

「そうかもしれませんわね」

「怪しい…気になりますわね」


 会長が神妙しんみょうな顔で頷いた。

 さすがにエスパー説を信じたわけではないと思いたい。

 けれど、真っ直ぐな会長なら「それなら納得ですわ!」なんて言いだしそうな気もしている。


美鈴みれい!」

「はい、会長」


 忍びのように控えていた美鈴さんが、いつの間にか会長の隣に立っていた。

 瞬間移動のようなスピードに驚いて、私は小さく悲鳴をあげてしまう。


「斎藤絵馬について調べましたが、これといって目立った情報はありません」

「スポーツや格闘技の経験も?」

「ないようですね」


 さらりと答える美鈴さんは、会長を気遣うような眼差しで見ている。

 しかし、会長はそんな視線もどこ吹く風でいきなり笑い始めた。


「正体不明のエスパー少女、面白いですわ!」


 白百合学園の一年生。斎藤絵馬。

 学校と名前、顔しか知らない相手なのに。

 会長は今、《けんか》の相手へ猛烈に関心を寄せている。


 そして、こういう時は大体なにか突拍子もないことが起きる。

 生徒会に入って一ヶ月、ここで身につけた勘がすでに危険信号を発していた。

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