お嬢様ヤンキー剣々崎薫子の日常2

空峯千代

第1話「ライバル校、白百合学園の出現ですわ!」

「薫子様…大変です!!!!!」


 紅薔薇学園の生徒会室。

 赤いバラが咲き乱れる温室の奥へ、一人の女生徒が血相を変えて飛び込んできた。


「一体何事ですの?」


 生徒会室の主にして生徒会会長。

 ゆらりと揺れるツインテールに、品格のあるハイヒール。

 剣々崎薫子つるぎがさきかおるこ、その人が慌てている女生徒に問いかけた。


白百合学園しらゆりがくえんが、紅薔薇学園にはたいを申し込んできました!!!!」




「会長、その.......「果し合い」ってなんですか?」


 私は、迷いのない足取りで校門へと歩く会長に聞いてみた。


盾子じゅんこさん、果し合いとはすなわち.......決闘けっとうの申し込みですわ!」


 ケットウ.......と慣れない言葉をオウム返しする。

 ようは、喧嘩けんかの約束ということだろうか?


「果し合い.......不良ヤンキーの間で伝わる伝統的な形式ですわね。この薫子、胸が高鳴りましてよ」

「なるほど.......喧嘩にも伝統があるんですね」


 制服の胸ポケットからメモ帳を取り出して、書き留める。

 このメモ帳は生徒会入りを果たした記念に、文具屋さんで買ったものだ。

 入学していきなり生徒会入りなんて、と思いはしたけれど.......薫子様の傍にいるならより強い自分を目指したい。


「あなたが、紅薔薇学園の会長さん?」


 校門の前に、見慣れない制服の女生徒が五人立っていた。

 その中の一人、口を開いた女生徒はかなり小柄で私よりも身長が小さい。

 それなのに、物怖ものおじしない態度は堂々としていて勇ましく見えた。


「ええ。紅薔薇学園生徒会会長、剣々崎薫子ですわ。」


 しかし、会長も女生徒に気圧けおされていない。

 いつものようにハイヒールを鳴らしながら、女生徒の前に立った。


 他校の女生徒は、高身長の会長が並ぶとまるで子どものようだった。

 それなのに、自信ありげな態度が妙に気にかかる。

 

「あなたに、果し合いを申し込む」

「あら、いきなり現れて無作法ぶさほうではなくって? そちらの自己紹介がまだでしてよ」

「白百合学園一年、斎藤絵馬さいとうえま


 私と同じ一年生なのに、会長と果し合い.......?

 入学して一ヶ月足らずではあるけれど、これまで会長の強さを近くで見てきた。

 ほぼ無敵と言ってもいい会長に喧嘩を仕掛けるなんて、無謀むぼうすぎる。


「白百合の名にかけて、私はあなたと勝負がしたい」

「随分と情熱的。そこまでおっしゃるなら、今お相手してもいいですわ」

「.......後悔しないでね」


 ファイティングポーズを取った会長に対して、絵馬と名乗った女生徒は仕掛けてこない。

 いよいよ会長の腕からパンチが繰り出されたが、かわされる。

 絵馬のカウンターを避けた会長は、またもパンチを繰り出せどかわされた。

 

「無駄」

「.......今、なんとおっしゃいました?」


 その時、なんだか嫌な予感がした。

 会長が負けるなんてことはありえないのに、絵馬という少女はどこか得体が知れない。


「絵馬に、あなたの拳は当たらない」


 その少女は、感情の見えない顔に不敵な笑みを浮かべてみせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る