エラー心頭に

真塩セレーネ【魔法の書店L】🌕️

1話完結 エラー心頭に

 変だ、変だ、変だ。否、正だ、正だ、正だ。


 これはエラーメッセージ。誰にも起こりうることで、人間として正であり人として変であること。


 物は投げるのは良くない、人に当てるのも危険行為、理解していてもクッションは投げる。人の居ない方へ投げる、投げる、投げる。


 人に怒ることは無い七瀬は思った────なぜこんなにも怒りが止められないのか? 他者であれば許せるのだ。自分が自分を許せないのが問題である。1人で勝手に怒って、自分を傷つけたくなるのだ。怒りの爆破は第二弾、第三弾と続き、頭にくる。


 良いことというと瞬間的に連続爆発するため、後に引かないことだろうか。残るのは悲しみだけだから。


 ああ、これが怒り心頭というのだなと実感した。心も頭も怒りで満ちて──。


 ふと『怒り心頭の貴方にピッタリ! ストレスは破壊で発散しよう』と文言が書かれたチラシが、机の上に置いてあるのが目に入り釘付け。


 手に取ると家を出て行ってみた。最近では破壊専用の場所があって、お金を払うと不要な物の破壊が出来るらしい。


 ──これが破壊衝動の解放か。


 終わったあとは解放感があり存外良かった。人は暴力的なのかもしれない。否、他の人はそうじゃないのかも。やっぱり僕は……自分を責めずにはいられないのか。


 ──優しくありたいな……自分にも。



「七瀬くん、どうしたの。ぼーっとしてたよ?」

「ああ、ごめん。このチラシ見てたら懐かしいなって思い出して……」

「ふーん? ねぇ、これ見て」


 彼女の声に現実に引き戻された。チラシを見たら昔に意識がタイムスリップしていたみたいだ。


 今は彼女の家のリビングで、ソファーでくつろぐ僕の横に彼女が座って、写真を差し出している。そこに映るのは、昨日出かけた雪景色が美しい京都だった。恋人の僕らはお互い着物をレンタルして写真を撮っていた。


「おお、よく撮れてる。綺麗」

「でしょ〜」


 彼女はそう言って笑って、くっ付いてくる可愛い恋人だ。そのおかげでソファーは2人分の重さでよく沈む。


「かわいいよ」

「えっ」

「その時の服が」

「えー、そこは私じゃないのー!」

「嘘だよ」

「どっちよーもう知らないっ」


 僕の彼女は都度文句を言うタイプだけど、そこが良いところだ。不満は蓄電しない主義らしい。


「……君が1番かわいいよ」

「えへーありがとう!」

「……って、わっ」


 彼女が急に頭を倒して、僕の太腿に寝転んだ。驚いて手に持っていたチラシを落としそうになる。顔は天井にした膝枕状態だ……正しくは僕を見つめている。


「七瀬くんみたいな優しい人ってなかなかいないよね」

「そうかな」

「うん。だって人にも言われるでしょ! 怒らない見守るタイプだもん」

「そっか」

「けど……付き合ってわかったけど、自罰的」

「……そうかもね」

「うん──だからね」


 そこで急に真顔になった彼女は、僕を見つめながら僕の手からチラシを奪ってポイっと放った。


「私が止めてあげる」


 彼女はニッと強気に笑うと、起き上がって抱きしめてきた。


 なんだか照れ臭くなって「本当にありがとう」が言えなくなって、代わりに彼女を優しく抱きしめ返して「本当に」まで小さく呟いた。


 長い年月をかけて、いつのまにかエラー心頭の記憶は薄れていくものだ。


 癒しとは何か……許しとは何かを彼女が教えてくれた気がする。次の週末には彼女の好きなフルーツケーキを買って帰ろうと思う1日だった。


 いつの日か自分を全て許して、君にとびきり笑顔の「ありがとう」を言うよ。だからもう少しだけ、待っててほしい。


End.



【あとがき】

 小説は全てフィクションであり、実在の人物や団体などとは関係ございません。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


 I forgive you. Don't give up.


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