(3)


 (11)


 三日目。日付が変わって数時間後に出た、二人目の犠牲者。

 それを知らされた凛は、微かに息を呑んだ後走ってその死体に対峙しにいった。


 走る。廊下が酷く長く感じる。

 走る。足音が嫌に耳に反響していた。

 走る、息が切れる。ここはVRの中のはずなのに、運動をしているという感覚だけが脳にダイレクトにダメージを与えている。

 走る、扉が近づいてくる、


 蹴りあける。


 そこは、ペンキをぶちまけられたようだった。


 絶望的なまでに虹色で、溢れんばかりにフリルはそれを吸い尽くしていて、仰向けに倒れた顔はあんまりにも見覚えがあった。

 そのそばに跪く黒衣のブラックジャックは、まるでその色味も相まって──愛野魔法の死神のように見えた。最もその死神はきちんと調査を行なっているようだったが。


 ピンクブロンドの髪は地面に広がっていた。

 昨日笑っていた唇は今はものも言わずに青ざめていた。

 魂がないその姿に、強烈な違和感を抱く。──”愛野魔法”の体に、彼女自身がいないとこんな感じになるのか、と思った。

 瞳が動かず、ただ目を閉じて倒れている彼女は、糸の切れた踊り子の人形のようだった。

 綺麗なだけのお人形だ。

 いつもの彼女にあるような迫力も明るさも、何もありはしない。どこにも存在していない。

 

 すでにそこへやってきていたジルコンと、ルビイが気遣わしげに凛を見る。


「……っ、おい、大丈夫か、顔青いぞ」

「何か飲み物でも飲みますかのう?」

「だい、じょうぶです、──私は、大丈夫」


 凛は大きく深呼吸をした。

 思ったよりもずっと、ずっと、頭の奥が冷えているのを感じる。

 ああ、自分は思ったよりも、ずっと薄情だったのかもしれないと凛は思った。


 目の前に死体があるのに、愛野魔法は確かにここで倒れて死んでいて、その顔は間違うことなく彼女のもので、すでに彼女は終わりを迎えているというのに。

 嫌に頭の奥が、クリアだ。苦々しいほどに、冷静だ。

(愛野、……私はちっとも優しくなんかない)

 彼女の意識は今どこにあるのだろうか?リアルにすでにログアウトして、そこから自分の死体を観戦している?それとも、まだこのゲーム内に幽体のような形で漂っていて、皆を見ているのだろうか?どちらにせよ、愛野魔法はすでにこの列車の中では故人だった。


 いやにリアルに再現された心臓は、どくどくと音を立てている。

 体の体温はどんどん下がって、少しだけ眩暈がする。

 意識とは裏腹に体は勝手にショックを受けているらしい、私の許可なくショックを受けるな。


 小さくふっと吐息を零した凛は静かにブラックジャックの後ろに歩み寄る。


「………ブラックジャックさん」

「セイギさん──、」


 何事かを言おうとしたブラックジャックは、凛の顔を見て戸惑ったように言葉を切った。

 それから、立ち上がる。立ち上がると彼女は随分と大柄で、凛の頭のところに胸が来るくらいには背が高い。その彼女は、レースのハンカチをそっと凛に差し出した。


「……どうぞ」

「いりません、私、調査をします」

「いいえ……せめて涙は拭ってからいらしてください。貴女の泣き顔は美しいが、それを長く皆に晒し続けるのは勿体無い」

「……………」


 そう言われて、初めて凛は自分が泣いていることに気がついた。

 受け取ったハンカチで頬を濡らす涙を拭えないままに立ち尽くす。

 これはあくまでゲームだ。人が死ぬことは日常だし、誰が死んでも現実ではぴんぴんして生きているはず。そういった前提は凛の頭の中に刷り込まれているはずなのに、……押し寄せる、血の匂いのせいだろうか。愛野の青ざめた人形のような死に顔のせいか。

 視覚情報は認識よりもずっとクリアで、ずっと鮮明に彼女の死を叩き込んでくる。


「………ったく。やってやるよ、おら」


 声をかけられて、凛は振り返る。ルビイがレースのハンカチをひったくり、頬をそっと拭ってくれた。優しい、手つきだった。

 ジルコンがそばへやってきて、優しい目で見上げてくる。


「身近なプレイヤーが”死ぬ”のを見るのは初めてですかな?刑事のお嬢さん」

「………っ、はい……」

「そうか、そうか……それはつらいのう。心中、お察しいたしますのう」

「………だい、じょうぶです」

「大丈夫じゃねーだろうが!この女と付き合い長いんだろ?アンタ」

「いえ……まだ、全然」


 一ヶ月くらいしか、と口ごもる凛に対して、ルビイはついと眉をあげる。

 それからふっと口元を綻ばせた。


「一ヶ月か。出会って一ヶ月のやつのために泣けるなら、そいつと一ヶ月で数年分もの経験を濃縮して一緒にやってきたんだろ。見ててわかったよ、アンタあいつのこと随分気にかけてやってたよな。……アタシは思うよ、運命的なダチってのはさあ、一週間で半月分くらいの濃い体験できちまうもんなんだって」

「………そう、かもしれません」


 ジルコンも、孫を見るような目で凛をみた。


「それだけ大切に思えるお友達がいることは、幸せなことですじゃ。……何かほしいものがあったらなんでも言ってください、”商人”の力で、なるべくご用意いたしますからのう。蜜柑食べますかのう」

「い、いえあの、大丈夫です……」


 トランクの奥底から、わし……っとみかんを三つくらい掴んでこられて、凛は慌てて断った。

 おじいちゃんおばあちゃんにあれ食べたい!って言い出したら無限にご飯出してくれるみたいな法則、割と世の中に存在している。


 息を吸って、吐いた。


「………魔法」


 少女の死体を見る。

 フリルが広がり、波のように揺れていた。


 白亜の塔の上で見た、光を思い出す。

 あの月面都市の上、星がばら撒かれた空から降ってきたピンク色の少女。

 思い切り抱きついてきて、君はやっぱり僕の理想通りだったと笑った顔を思い出した。

 それから──畳の部屋で。日差しが差す中で。穏やかに、こちらを見ていた顔を思い出した。

 二人で歩いて、少し遠いパフェの店にいったり。

 UFOキャッチャーで遊んだりもしてみた。

 何気なく一緒にいた日々を思い出した。

 次に参加するゲームを決めようと、あれこれ見てなんだかんだと話し合った。

 夜に通話が突然来たと思ったら、あんなゲームに参加してみたい、次はあんなところに行ってみたいみたいな話を無限にされたりした。凛は途中で通話を切った。

 昨日の夜、一緒に寝ようとやってきたのを思い出した。

 あふれんばかりのフリルとレースに埋もれて、寄り添って眠った。ふわりと薫った、淡い桜の香り。

 

 凛の感情を通したこの記憶は、ライブ配信も、カメラも見ていない、二人だけのものだ。


「……、セイギさん、大丈夫ですか」


 やわらかな弦楽器のような声をブラックジャックにかけられて、凛は涙を静かに拭って──ついでに鼻もかんで──ハンカチを自分のポケットにしまった。


「……はい。問題ありません、やれます」

「ふふ。貴女の瞳は、やはり光がある方が望ましい。愛野が貴女を選んだ理由がわかりますね」


 優雅にそう言ってから、ブラックジャックは改めて愛野魔法の死体のそばにしゃがみ込む。


「では、凛さん──調査をはじめましょうか。貴女にとっては……そうですね、敵討のための情報集めとなるのでしょうか」

「………いいえ」


 凛は首を振った。


「──今必要なのは、アイを殺した犯人を見つけること、ですよね。……このまま野放しにしておいたら、もっと人が死ぬかもしれない……それは、アイが望んだことじゃないし、私もそんなのはいやです……」


 刑事の力を使い、犯人を捕まえればその犯人は死ぬ。

 けれど、犯人を野放しにしておけば自分を心配してくれた優しい人たちが死ぬ。

 その二択を迫られて、理想に手を伸ばしていられるほど凛は余裕がなかった──無自覚に、余裕がなかった。

 人が死なないデスゲームなんて、所詮は砂糖でくるまれた夢だったのかもしれない。


 そんな夢を抱いたまま、愛野魔法はこのゲームから永遠にリタイアして、しまった。


「………急いで調査をして、犯人を捜します」

「ええ、それがいいでしょう……改めて、状況をおさらいしましょうか」


 ブラックジャックが頷く。

 そして立ち上がり、いかにも探偵らしく腕を組んでみせた。エメラルドの瞳は知的だ。


「──この列車は四両編成、一両目は機関室があり、四両目は食糧庫兼備品室。主に一番、二番、三番が我々の待機場所でした。

 最初の事件は三両目で起こり、大量にこの車両のNPCの人形が殺されていた。死因は撲殺です。

 二番目の事件は二両目で起こり、死んだのはキャッツブルーさん、職業は芸術家。こちらも死因は撲殺。

 そして──今日の事件は……一両目で起こった。死んだのはアイさん、職業はご令嬢。アイさんも少し調べましたが、頭の後ろを殴られたようです。……、凶器は見たかぎり近くにはありません」


 近くにいる人形たちに言葉は通じているのだろうか、ざわざわと囁き合っているようだが、あいにくその言葉は無音なので何もわからない。

 謳うように述べ終わったブラックジャックは、すっくと立って辺りを見回した。

 その立ち姿ひとつ一つが、まるで役者のようだ。


「……何か間違いはありますか?」

「いんや、アタシからは何も」

「わしも特に異存はないのう」

「私も、……大丈夫です」

「よろしい」


 探偵役は頷き、それから愛野の死体の前に跪く。

 凛はその横に近づいて、捜査をしようと同じように膝を折る。

 死体は少し触っただけでわかるほどに冷えている。死後硬直というものがこのVRに実装されているのなら、かなり前に殺されたのかもしれなかった。

 フリルもレースも、お嬢様らしいそのハットも、昨日見たままだ。

 夜に愛野が寄り添ってきたから、そのふわふわのドレスの感覚なら今もまだ覚えている。

 記憶の名残を捜すように、そっと服に触れる──。


 ──……強烈な違和感を感じた。


「………っ?」

「セイギさん?どうしました?」


 ブラックジャックに言われ、凛は喉の奥が渇くのを感じた。

 一旦指を引っ込めたものを、触り直す。

 その柔らかな服、そして帽子、それからその髪──。

 目を閉じた。


 そこで、違和感の決定的な理由に気がついた。


 ぱちり、と火花が弾けたように諸々がフラッシュバックして、呼吸が浅くなった。


「──、わ、私」

「え?どうしたんです?」

「私、ちょっと……お手洗いにいってきます!!」

「あ”!?お手洗いだって……おい!!」 


 下手くそすぎる言い訳にルビイとジルコンも流石にちょっとざわついていた。

 当然のことながらVR世界にお手洗いとかいうものはないしあったとしても基本使えないし。


 けれど、”気がついてしまった”凛は、だめだった。

 どこにいるかなんてわからない。

 どこにいるかなんてわからないけれど──。


 人混みをかき分ける。あちこちにいる

 いるはずだ。

 ここにいるはずだ。

 どこかにいるはずだ。


 ──突然駆け込んできた凛に、周りの人形たちは皆びっくりしていた。

 けれど、そんなもの構っていられない。

 紳士らしいコートを羽織った人形たち、太った老人のような人形、美しい夫人のような人形。

 違う、違う、違う。そばへ寄っても、違うと直感が告げる。

 ──その時だった。

 凛を見て、明らかにふわりと踵を返した人形がいた。


 帽子を被った青年人形にぴったりとくっついていた、少女の人形。

 蝶が踊るように、ふわふわと三号車を抜けて──倉庫の方へとかけていく。


 凛は息を呑んだ。

 走る。追いつく。

 四号車に駆け込んだその人形の腕を、薄明かりの中で、掴む。


 ──。馴染んだ香りがした。

 サクラの香り。淡いローズの香り。


「………アイ」


 人形はのっぺりとした顔をこちらに向ける。

 明らかにそれは木製で、愛野なんかではなくて、でも──。


 凛は手を伸ばす。

 人形は特に嫌がらなかった。


 ……触った顔には、鼻と口と、目の感覚があった。


 体を辿っていく。

 地味なモスグリーンのドレスを触っていくと、裾の方の例の山みたいなフリルの感覚がある。

 ストレートの茶髪の髪の毛に触ると、ぐりんぐりんの縦ロールの感覚がある。


 最後にもう一度顔を触ると、──唇が、思い切り楽しそうに笑っている形になっている。


「──……アイ!」


 怒るように、縋るように、いろんな感情が綯い交ぜになって言葉がうまく出てこない。


「……アイ、アイなんでしょう?なんで、なんで話してくれないの、」


 人形は何も言わない。

 指先で触れると、まゆが困った形をしていた。


「アイ……死んじゃったかと思った、本当に」


 人形は何も言わない。

 言葉を発さない。

 あんまりに何も言わないので殴ってやろうかな?と一瞬物騒な考えが頭をよぎった時だった


「──!」


 何事かすごく言いたそうな感じで──青年人形が飛び込んできた。

 そういえば、そう。この少女人形とずっとべったり一緒にいた人形だ。アイを心配してやってきた”一般人”──……


 人形は──「絵筆」を取り出す。

 それを左右に振った瞬間、──世界がゆらりと揺らいだ。


 なぜか、……本当に何故かどの車両にも実装されていたVR投影機が一瞬だけちかっと瞬き、次の瞬間には、その場にいたのは、青いふわふわとした髪の、……猫耳の青年と。

 ストロベリーブロンドの巻毛の、ピンクのドレスの、少女だった。



 (12)


「──……アイ」


 掠れた声で凛が言う。

 黒髪のボブみたいなショートカット、菫色の瞳、刑事みたいな服。ショートパンツにフリルのブラウス、その格好だけはこの世界に馴染んでいても、間違いなくその表情はこの一ヶ月見知った彼女のもの。

 愛野ビジョンではとっても魅力的な怒り顔だ。

 美少女だなあと顔を見てしみじみと思っていると、ぺしぃん!と頭を叩かれた。


「──いた!!なんだい!?」

「なんだい?じゃない……どういうことなの」

「え?見たまんまだよ!凛くん!僕は実は死んでいなかった!!とってもとっても優秀じゃないか、僕が何も言わずとも僕が死んでいないことに辿り着くなんて──!君はやっぱり天才だよ!!!」


 両手を広げて思い切り褒めようとしたらすごいジト目で見られてしまった。なぜ。

 抱きつこうとすると逃げられる。なぜ。

 コミュニケーションエラーを起こしている愛野と凛に、軽い口調の声が割り込んできた。

 キャッツブルーである。本来、ゲームでならすでに故人となっているはずの男だ。

 愛野と同様に。


「アイちゃーん、ねえオレ事情説明していーい?だめぇ?」

「あっ、すまない、忘れていた!」

「え、何を!?オレの存在を!?」

「セイギくんがこんなにもはやく僕を見つけてくれると思ってなくて感動してしまってね……イバラに包まれて寝たら五分後に王子が来たみたいな気分だ!」

「いやそのRTAは感動的だけど〜!」

 

 情緒吹き飛ばし型おとぎ話。

 それはまあいいけどさ、と言っておいてキャッツブルーはアイと、そしてアイについに捕縛されてむっつりと抱きしめられている凛を見た。


「──えっと、どこまでわかってるの〜?セイギちゃんはさぁ〜」

「……どこまでって……別に、そこまでわかってませんけど」

「セイギくん、臍を曲げていないで!話しておくれよ、君は僕からの何のヒントもなしにここへ辿り着いたんじゃないか!どうして僕が死んでいないと察したんだい?」


 あやすようになでなでと黒髪を撫でると、もう一度じとっとした目で見られる。

 うーん、じと目もかわいい。普段誰にでも丁寧な態度で辛辣なことをあんまり言わない凛のこういうのは貴重だなあと思って、愛野はにこにこした。


「……匂いがなかった」

「匂い〜?どういうこと〜?」

「……アイは、いつも香水をつけてるんですよ。サクラローズっていう個人開発のやつです。その香りが偽物の死体からはしませんでした。だから最初におかしいと思った」


 凛は抱きしめられながら回想した。

 ……あの死体。真っ青な顔をして倒れている愛野は、無臭だった。

 何の香りもなかった。微かにくらい薫ってもおかしくないような、あの独特の甘い匂いが、どこからもしなかったのだ。

 先を見透かしたように、ぎゅっとこっちを抱きしめて離れようとしない愛野が笑顔で言う。

  

「でもそれだけじゃ核心には至らない、そうだね?」


 さっきからなんでずっとにこにこしているんだ……と凛は思う。

 こっちは相棒だと思っていたら何も言ってもらえずに突然偽の死体を見せられて泣き顔を晒すなんていう醜態を晒してしまったと言うのに!何を思ってこの女こんなににこにこしているのだろう、むかつく。むっと睨んでから、微かに吐息をこぼす。

 今はキャッツブルーもいるのだ、ちょっと冷静にならなければ。

 

「……まあ、匂いなんて多少は落ちるものだろうから……でも、服に触ったら」


 ──生地の感じが全然、アイじゃなかった。

 

「生地の感じ……かい?」

「そう、いつもアイが着てるふわふわのフリルの感覚が、ごっそりドレスから消えてた。もっとざらざらの生地だった。目を閉じて触ったら、……顔のあたりはのっぺらぼうのはずなのに、鼻と口と目の感覚があって。でも、それも全然──アイじゃなかった」

「………ほう?つまり?」


 本物の愛野魔法は感心したような声をあげて、ふわりと腕を解く。

 柔らかいフリルがショートパンツを履いた凛の足を撫でていく。

 淡い、桜と薔薇の香りがする。

 キャッツブルーはその様子を面白そうに見ていたが、凛が視線をまっすぐにそちらに向けると耳をぴくんと反応させて首を傾けた。


「──、キャッツブルーさん」

「え、なになにぃ」

「私、やっと気がつきました……キャッツブルーさんは、最初に丸めたハンカチをりんごに変えてみせた、”芸術家”の力で」


 その、”芸術”って──どういう意味なんだろうって思ったんです。

 絵描き?違う、絵描きじゃそんなことできない。

 彫刻家?最初この辺りかと思った、みんなトンチキ性能だったから彫刻することで姿を変えられるのかなって。

 でも違った。


 貴方にはちゃんと固有の”芸術”スキルがあった。

 “VR上でのアバター作成芸術”──貴方がいたから、この列車にはVR機器があちこちに置いてあった。


「──随分とトンチキな推理じゃなぁい?」

「いいえ、そんなことない。……”商人”のジルコンさんは、無限にトランクの中からものを取り出せる。でもあの中身ってどこから来てるんでしょう。答えは簡単、多分四次元系の技能なんですよね、あれって」

「でもこんなにもレトロな列車だよ?セイギちゃーん」

「いいえ」


 思えば最初からおかしかったのだ。

 説明のために空中に投影される、AR。

 目を当てると車両の中身をぐるぐる回して3Dで見られる、案内板。

 あちこちに違和感はあった。

 レトロな車両の中で、あんな技術が当たり前にあるはずが、なかった。


 見た目に騙されたのだ。

 全てはこの犯人が、──最新鋭の3Dアートの犯人が、好きに犯罪を犯すための舞台。

 より難題を観客に見せつけるため、あくまで登場人物や列車の外観はレトロに。

 けれど、技術の片鱗をずっと、この列車は見せつけていた。

 

「──あちこちにVR投影カメラがあって、あちこちにデジタルな案内板がありました。私たちの本来の世界なら、それは”当たり前” なんです。でもここは違う……あれは全て、ここが本当に「古い時代の海外をモデルにした列車の中」なら……あったらおかしいものだった」


 彼の有名な鹿撃帽の名探偵の時代に、3D投影型の案内板なんてものは、ない。


 だから、貴方がVR3Dを作成するスキル持ちの芸術家でもおかしくはない。

 そう言い切った凛をしばらくみつめてから、へらっとキャッツブルーは笑い、愛野は実に満足そうに拍手をした。


「いやぁ〜、こわーい!名探偵だ」

「そうだろうそうだろう?凛くんは本当にすごいんだ、僕は彼女の堅実に事実を組み立てていく力も評価しているんだよ!」


 咳払いをしてから、凛は二人を見る。


「──ともかく。……キャッツブルーさん、あなたの犯行の一連の流れはなんとなくそれに気がついた時点でわかりました……うちのアイが、なんで関わってるかは、知りませんが」

「うちのアイ!!??」


 素っ頓狂な声をあげた愛野を無視して、凛は続ける。


「……教えてくれませんか?あなたとアイが、どうしてこんなことをしたのか。この先は事実から組み立てるのが難しすぎる……単なる空想、想像になってしまいますから」

「やだ〜、まぁじめ〜。お兄さんそういう子大好きっ、ちゅっ!」

「…………」


 真面目にやれよと視線に圧力を込めると、キャッツブルーはきらりと猫目を輝かせて笑った。


「いやあ、こんなところまで来る名探偵がいるとは思わなかったしお兄さんも話してあげよう!全ては──そう、愛野ちゃんがオレがうっかりNPCを殺戮しちゃったところに居合わせたところから始まるよ!」


 開幕からショッキングすぎる。



 (13)


「そう──このゲームは最初から、「犯人役」がロールとして存在するんだ。

 オレはこの列車に来た瞬間に気がついたよ、オレに与えられた能力を使って人を殺せって意味なんだって。でもね〜、オレは人殺しなんて実はあんまりしたくなかった!

 いや本当にね、ここにいるのも日々のオシゴトがちょっと苦しいから副業くらいの気持ちだったのに!趣味に使うお金と、将来への預金が増えたらいいな〜って。


 え?いいでしょ別に、そんな気持ちでやるデスゲームがあったって。


 けど、初めて犯人役を今回オレは「強制」されたわけ。

 いやあ〜、嫌だったね!だからまず狙うのはNPCにしようと思ったんだ。


 一人でいたブースから出て……。周りのブースには人気がなくって、その時にはまだ普通に人間の姿をしたNPCたちがわらわらしてたよ。

 どうやって殺そうかとオレは途方にくれてた。

 そうしたら。

 目の前に落ちてたんだよ、金の延べ棒が。

 いや、宝石とかも点々と、まるでヘンゼルとグレーテルの小石みたいに落ちててね。でもオレの一番近くにあったのは、金の延べ棒だったんだ。


 なんでこんなところに?と思ったさ。

 けど思いついた。

 これは運営側が用意してくれた凶器なんだ!って。

 最初の殺人を侵すのは大変だろうから、殺しやすいように周りの人はいないようにしてくれて。殺しやすいように凶器も置いておいてくれたんだ!って。


 オレはちょっと安心して、それから心を決めて──。

 周りにわらわらいたNPCのその中のひとり、オレより少し年下の少年だったかなあ──それをブースに引っ張り込んで殴り殺そうとした。

 

 そしたら、その子が大声をあげた。

 周りのNPCたちがもうわらわら駆け込んできて、オレはちょっと慌てちゃってぇ〜……そのあとはわかるでしょ?

 “犯人”として体の補正をばっちり受けてたオレは〜、なんと一人でかなりのNPCをぶち殺しちゃって、死体は隠すに隠せなくなっちゃった。正直NPCを殴る時の感覚はそこまでリアルじゃなかったから助かった、リアル路線だったらメンタル発狂してたんじゃないかなあ。

 

 ともかく、運営側からのご配慮のおかげで大量殺戮してもオレにはまだ判断力が残っててぇ〜……やばいと思ったよ、このゲームのルールは事前に聞いていたから。犯人だって気が付かれて、”刑事”か、”探偵”に捕まったらオレは死刑なわけだしぃ〜……流石に怖くなってガタガタ震えちゃった、NPCだって殺すの初めてだったもん。ほんとほんと。


 そしたらそこへ──アイちゃんが現れたんだよね。

 もうお互い凍りついちゃったよね。アイスブリザードだった。

 アイちゃんを殺そう!って思わなかったわけじゃないけど……オレには無理だった。

 肉入りプレイヤーを殺すなんてむりぃ……ってなっちゃったよ。

 あー、これはオレデスゲーム人生終わったあ……って思ってたら、アイちゃんがさ。言ったんだ。


「君が持っているのは僕の金の延べ棒だ、それを返してくれ」って。

 自分がトランクから出してみたら戻せないし、布に包んで持ち歩いてたのに落としちゃったからって。

 血まみれの棒をだよ?


 だからオレはねぇ、やばーっこの子〜〜〜と思いながら大人しく凶器を差し出したわけ。あー終わったなってずっと思ってた。これを証拠として刑事とか探偵のところに連れて行かれるんだあって。

 でも終わってなかった、むしろ始まってたね。


「君を早めに見つけられて幸いだった、よければ”プレイヤーを誰も殺さない犯人役”に興味はないか?」

 って言われてさ〜。痺れたよ。それでオレはアイちゃんに凶器を託し──その後で、アイちゃんのいう通り列車の八台くらいあったVR投影機器に”芸術”の力で細工を施して、NPCを全部人形に変えたってわけ。あとからオレとアイちゃんが、その辺りの人形に紛れても誰も気が付かないようにね。


 ──これが事件の真相だよ。

 あとは説明しなくてもわかるよね。


 オレは隙をみてその時撲殺したNPCの一人に『オレ』の扮装をさせて入れ替わってオレ自身が死んだことにした。

 次に、犯人と目されて捕まったアイちゃんが三日目の朝に殺されるって聞いて……もういてもたってもいられなくて慌てて深夜に事件を起こしたんだ。いやあ肝が冷えたよ。


 どちらも最初の可哀想なNPCたちから代打を拝借してたんだ。

 オレあんなこと本当はしたいわけじゃなかったんだけどぉ〜……NPC殺すのって割と気に病む

 ね!」


 ──一気に話し切ってから、キャッツブルーは改めて凛をみた。

 愛野ではなく、凛だけを。


「……それで、どうするの刑事さん。オレを殺す?権限あるじゃーん!使っちゃう?」


 へらへらと笑いながら聞く。その内面を推し量ることはできない。

 彼はおそらく……それなりに、”普通の人”なのだろう。ここで凛を殺してしまえば自分が犯人として”死ぬ”心配はなくなるのに。しかも愛野はおそらくそれを止められない。それをわかっていて、彼はそうしようとしないのだ。


 凛はため息を吐いた。


「……使いませんよ」

「え!?ほんと!!??」


 目に見えてげんきになる。現金な人だ。猫耳がぴこんと跳ね上がって、キャッツブルーは目に見えて胸を撫で下ろした。


「……本当に。アイがあなたを生かしたなら、私が殺す理由はないので」

「凛くんは僕が大好きだね!」


 横から愛野がくっついてきた。

 

「別にそういうわけじゃないけど」

「えっ……」

「でも、生き残る母数は、多い方がいいから」


 小さく呟いた凛に、愛野はこくりと頷く。それからぐっと胸を張った。


「それに、生き残りが多ければ多いほどデスゲームは面白いからね!今回なんて犯人はまず死ぬし、予定通りなら半数は死んだだろうし、犯人役が暴走すれば一気に全滅していた可能性もあるゲームだ。でも、今!──このゲームのコンセプトは綺麗に打ち砕かれている」


 犯人を確実に殺せる探偵役、刑事役が機能していない。

 そして──プレイヤーを確実に殺せる犯人役もまた、機能不全を意図的に起こしている。

 代わりに現れたのは、荒唐無稽で奇妙奇天烈なミステリのような、何かだ。

 このゲーム全体を彩る色は、今、死の色をしていなかった。


 今日は三日目である。この列車が、無事に三日目の駅に到着した時、ゲームは終わる。

 ──犯人不在のまま、探偵役が犯人を見つけられず、刑事役が役目を放棄し、犯人役は人を殺さないまま、ゲームは終着駅へと走っていく。


 ──これで、全て終わる。

 そのはず。

 凛がそう思った時だった。


 ──何かが、壊れるような。金属が外れるような。軋むような。

 耳を劈くような音と、衝撃が同時に襲ってきて、愛野も、キャッツブルーも凛も、全員が列車の床に崩れ落ちそうになる。


「……なんだ!?」

「ぎゃーっ!なになになになにぃ!?」


 キャッツブルー、悲鳴もギャルみがある。

 目をいっぱいに見開いて叫ぶ愛野もここまで計算をやり遂げた本人とも思えないほどに動揺していて、彼女にも不測の事態のようだった。

 凛は部屋から飛び出す。それから窓の外を見て──絶句した。


 すごい勢いで、外の景色が流れ去っていくのが見える。

 明らかに常軌を逸した速さだった。

 明らかに通常運転から外れた異常運行だった。

 明らかに──その速度は、殺人的だった。


「ま、さか………」


 凛は掠れた声で呟く。

 このゲームは絶対に死人が出るとかつてブラックジャックは言った。

 けれどそれは、犯人役が必ず捕まって死ぬからだと思っていた。

 ──では、犯人役がゲームギリギリまで死ななかった場合は。

 誰が、死ぬことになるのか。


「凛くん!!!」


 愛野が駆け出してきて、窓の外にスピードに絶句する。

 その直後、スピーカーから──そう、この列車には”スピーカー”もあらかじめ付けられていた──静かなアナウンスの声がした。


『──お客様へ緊急のお知らせです。ドライ駅への到着まで、あと十五──十──あと八分とななななりりりりままままマママママ』


 途中から声は軋んで狂いだす。まるで歯車が崩れていくように。 

 列車は止まらない。ここに乗った乗客全部を殺す殺人列車は走り続ける。


「ちょ、ちょっとちょっと、これどうすんの〜!?無理じゃない!?」

「──っ……犯人がしなない場合は、他の乗客全てをロストさせるタイプのゲームか……強引すぎる、燃えるんじゃないかい!?これ!!僕よりずっと酷いぞ!!!」

「あ、あのさ、オレが逮捕されれば止まるんじゃないの!?ねえ〜!」

「考えるんだキャッツブルpくん、これだけ派手にコストがかかるような暴走演出しておいて犯人を捕まえた瞬間全部が止まるわけないだろう!?」

「うわあ、嫌な業界裏話ぃ〜〜!!!」


 ──そのとき。

 四号車の扉が開いて、他の乗客たちが駆け込んできた。

 衝突の衝撃をなるべく和らげるなら、なるほど確かに最後尾の車両が一番都合がいい。


 入ってきた瞬間闇医者は固まり、商人は面白そうに笑い、ブラックジャックは立ち尽くした。


「あなたたち──どういう──何故……!?」

「華麗なる謎解きをしている間に僕らは列車の暴走で死ぬんじゃないかい?」


 愛野の言葉に、麗しの女は一瞬苦虫を噛み潰したような顔になったが、頷いた。


「──では、後で話は存分に聞くとしましょうか。………この列車は今暴走状態だ。これを回避して生き残る手段が、あると思いますか?」

「普通に考えるなら、無理じゃろうなあ……まあジジイは片足を棺桶に突っ込んどるからそろそろ死んでおくのも良いというもの……」

「だーーっ!アタシはちっとも良くねえんだよ!」

「オレもやだけど〜!」

「キャッツブルーはなぁんで生きてんだよ!!アタシを泣かせた分だけ死ね!!!もういっぺん死ね!!!!」

「やあだ泣いてくれたの!?うれしーい!」


 人の声を乗せて、列車は走る。

 軋みを上げながら、走る。


『ドドドドドドドドドライ駅まであと三分ででででですすすすすすすすすすす』


 警告音、警告音、警告音。

 赤く点滅する室内、すっ飛んでいく外の景色。

 嫌な感じに心臓がどくどくして、凛は喉の奥が渇くのを感じる。

 ──そのときだった。

 

「──ジルコンくん」

「ジルコンさん」


 同時に。

 ブラックジャックと愛野が同時に声をあげ、ブラックジャックは目を見開いて、そして愛野は実に楽しそうに笑っていた。


「ほう、なんでしょう」

「……金があればあなたはなんでも出せる、そうですね?」

「その通りですじゃ」

「言いたいことは同じのようだね──僕のこの金品をありったけ君のバッグに投入しよう!」


 さあ、売ってくれ──”希望”ってやつを!!!!!


 愛野は思いっきり自分のトランクをひっくり返した。

 途端に床に金貨や宝石や札束が落ちる。それを全部ジルコンのトランクに呑み込ませた。

 トランクは満足げにぱんっぱんに膨らむ。


「え、なんだなんだ!?なんだってんだよ!!!」

「ルビイくん!それから凛くん、これから僕はジルコン老人にありったけのクッションと布団を注文する!それらを部屋に敷き詰めるんだ!片っ端から分厚くね!!」

「あなたもやるんですよ、アイさん」

「ビューティーじゃない仕事でも君もやるんだよ、ジャック!」


 さあ、と愛野魔法は分厚い札束をまた五つばかりトランクに投げつけて呑ませた。


「売ってくれたまえ!僕好みの”エアバッグ”をね!」


 ぶわ、っと。

 トランクの口から、真っ白なフリルが溢れた。

 四号車の中に、あっという間にお姫様趣味のクッションや布団や枕が舞い踊っていく。

 それをキャッツブルーや、ルビイや、凛、ブラックジャック、そして愛野も──トランクの口を開けた状態で頑張って固定してくれるジルコン以外は──車両の隅から隅まで敷き詰める。

 フリルとレースと綿と柔らかさに埋もれて、身動きが取れなくなるまで。


『ドライ駅まであと11111111111111111111111111111111111111111111111111111111111

 ──0 ふん です』


 ちかちかちか、と赤い光が目の前で瞬いた。

 轟音。衝撃。全身が引きちぎられるような爆音。

 列車が傾く。線路の上を滑る。ひどい金属音の軋みだ。

 高い女の悲鳴が聞こえた。ルビイが壁に叩きつけられそうになったのを上手くキャッツブルーが庇ったのが見えた。


 けれども、フリルとレースと綿が──全てを受け止め、守り切った。


 ──守り切った、と思われた。


 たまたま少しだけ、ほんの少しだけ。

 フリルとレースに包まれていなかった、キャッツブルー以外は。


 


 (14)


 ──全員が無事だ。

 ほぼ、無事だ。

 列車の車両はほぼ半壊し、外の明るい光が見える。

 けれど、壊れた列車の隙間から見える空は嫌に鈍色に光っていて、未だ事態の不穏を感じさせた。


「っ、みなさん、退いてください!怪我人を運びます」


 おかしな体勢で壁に激突し、後頭部かどこかを強打したのか意識も朦朧としているキャッツブルーを、女性にしてはすらりと背が高いブラックジャックが抱き上げて運び出す。すごい筋力だ。探偵ってそういうのもできるのか。

 地面に下ろすと、彼の体が置かれたところからどろりと鮮やかな虹が、嘘みたいな色が地面を濡らす。


 ──脆い。

 人間の体は、こんなにも脆い。VRの中だろうが、いくらフリルとレースに守られていたって、下手な方向に吹き飛んで直に壁に体を打ち付ければ血が出る、死にかける。


 凛は喉が渇いていた。

 自分たちは最善手を打った、はずだった。愛野のアイデアを持って、さまざまな者の創意工夫で、このゲームは死者がゼロになるはずだった。けれど、──こんな。最後の最後に、人を失うのか。


「魔法……」

「──、凛くん、大丈夫だ、きっとなんとかする」


 愛野はキャッツブルーのそばにしゃがみ込み、傷の様子を素早く確かめた。

 それから、はっと目を見開いて、唇を震わせる。


「……っ、……これは……」

「悪いの」

「──、……」


 愛野は何も言わなかったが、彼女のその普段なら決して見せないような一瞬の暗い揺らぎで彼の傷が致命傷なのが分かった。 

 

「──っぁ”………」


 辺りに満ちるのは陰鬱な沈黙だ。

 犯人役だけが。

 虹色の血を撒き散らして、苦しみに喉を引き攣らせていた。

 猫耳は血に濡れ、言葉は出てこず、全てを謀っても誰も殺そうとしなかった犯人役は自分自身が死にそうになっていて。


「あー………くそ、痛………」

「喋らないでください」


 ブラックジャックがフリルを勢いよく破いて応急手当てをしているが、──明らかにその間にもキャッツブルーの顔色は悪くなっていく。ジルコンは無言で自らの懐から財布を取り出し、銅貨銀貨を入れては包帯や清潔な薬を取り出したが、どれも大して意味はない。ルビイはただ震え、何もできていない。普段の勝気な口調が嘘のように。


「さいごの……最後で、ごめん、ねえ………」


 キャッツブルーの声は掠れていた。

 その青いふわふわの髪は汚く虹色に塗れて、青い瞳の色はゆるゆると光を失い始めていた。


「あーあ、おれがいきのこったら……全員いきのこったすごいげーむになったかもしれないのに……」


 喋るな、と鋭く制したブラックジャック──懸命に今は治療を続けるブラックジャックに相反するように、青年は喋り続けた。

 

 おれがいきのこったらさあ、ぜったいこのゲームもすっごく話題になったよなあ。

 ブラックジャックちゃんは綺麗でうつくしい探偵で映えてたし、ジルコンじいちゃんはくったくない素敵な商人だったし、セイギちゃんは冷静クールなかっこいい刑事だったし、しかも犯人のおれをみのがしてくれて……アイちゃんは頭回るお嬢様でいいトリックスターだったしぃ……ルビイちゃんははじめてなのにこんな難しいゲームの中にいて、でも、とってもがんばってた……

 おもしろかったもん、犯人として。

 とってもおもしろいげーむだった、きっとおれが生き残ったらとっても話題になって、はっぴーえんどだったのに、……ごめんねえ……。


 ごめんね、と繰り返す吐息が弱くなっていく。

 やがてキャッツブルーは目を閉じ──吐息も微かになって──



 (15)


 体の奥が燃え立つようだった。

 何もできない自分が最悪だと思った、許せないと思った。

 奥歯を痛いほどに噛み締める。フィクションの中の虹色の血がどうにも気色悪くて怖いだとか、誰かが死ぬかもしれない状況が怖いだとか、ビビリで臆病で最悪な自分に甘えていられていい状況は終わったのだと思った。


 ルビイのスキル。

 闇医者なんていうロールがなんでこのゲームに組み込まれていたのか、やっとわかった。


 蘇生なんて名前のスキル、飾りだと思っていた。

 違う。

 闇医者のロールがどう動くかで、このゲームは決まるところが、多分確かにあったのだと、ルビイは思った。例えば人が死にかけた時──それを蘇生して話を聞くことができれば、犯人なんて一瞬でわかる。それを敢えてしなければ犯人に優位になり、パワーバランスは変わる。

 それを今まで、ルビイは気づきもしなかったし──考えもしなかった。


 ──そして今、初めて自覚する。

 自分がある意味のワイルドカードであったことを。

 探偵であるブラックジャックが犯罪全般に対する特攻カードなら、闇医者のカードはプレイヤー個人に対する特攻カードだ。生かすも殺すも、自分次第。


 そしてルビイは──彼を殺す気がなかった。

 

「──……アタシが」


 ルビイが震える声で言った。

 白衣を翻して、彼のそばに駆け寄る。


「アタシは初心者だけど!なめんじゃねえ!!!!」

「ルビイさん……!?」

「ルビイくん!」


 赤い瞳、黒髪。一度も今まで使われなかった医療器具を、彼女は彼のそばに投げ出した。

 ルビイの視界に見える、HPバーは5%が残っている。蘇生率は8%、行ける。ソシャゲのガチャよりも全然高いじゃないか。

 おもちゃみたいな針が光でできている注射器を取り出す。物理法則を無視するようにでかいそれを、思い切り──本当に思い切り、体の中心に置くようにして光で貫く。


 閃光が目を焼いた。

 目が眩むような、くらくらする光だった。

 

「──いっけええええええ!!!!」


 注射器の中に溜まった緑色の燐光が、ゆっくりと青年の体の奥へと注ぎ込まれていく。

 ああ、ああ、なんで眩い光だ。

 なんて綺麗な光だ。


 蘇生率の8が、ぴこん、と音を立てて、9、に上昇する。

 そこから一気に数字とHPバーが上がっていく。


 青い瞳が開いた時、その猫耳が動いた時、ルビイは一瞬泣きそうになったが堪えた。

 そして思い切り頭を引っ叩いてやった。

 目を瞬かせた猫耳の青年がこちらを見て、それからへにゃっと猫耳を垂らす。


 曇天を割いて、一条の光が差し込んでくる。

 それは次々に曇った空を明るくしていき、やがて、高い高い蒼天が抜けるようにのぞく。



 ──ゲームクリア、おめでとうございます。列車は、ドライ駅に到着いたしました──ゲームクリア、おめでとうございます。列車は、ドライ駅に到着いたしました──ゲームクリア、おめでとうございます──



 (16)


 ログアウトまでには、まだ少し時間がかかるようだった。

 アクロバットハッピーエンドにぼんやりとしていた凛は不意に手をくいっと引かれて、愛野がそばにやってきていたことに気がついた。さっきまで他のプレイヤーと挨拶を交わしていたらしい彼女は、すっかり晴れ渡った空を見上げる。


「凛くん、列車の上にいかないかい?」

「………いいけど」


 なんで?とか色々言いたいことはあったが、彼女の気まぐれは今に始まった事ではない。

 人の行き交う駅を模した場所ではさまざまなNPCが列車の線路修復のために動いているようにみえ、キャッツブルーとルビイ、ジルコン、ブラックジャックが線路脇で話しているのも見えたが、愛野は壊れた列車の上に凛を引っ張っていった。

 ふわふわのフリルとレースを踏みつけて、壊れた四号車の上に登る。

 空がより青く、美しく広がっていて、遠い向こうには淡く優しい虹が光のようにかかっていた。


「……凛くん」

「なに?」

「今回はそのう……すまなかったね!」

「……なにが?」


 静かに問いかけると、愛野はちょっともじもじした後にこっちを見る。


「最初から僕は全てわかっていたのに、君に黙っていて……」

「……それが最善だと思っていたなら、私はそれでいいと思う」

「ほんとかい!?拗ねてないかい!?」

「本当は少し、教えて欲しかった気持ちはあった、けど……」


 凛は言葉を選ぶようにして、隣に座る鮮やかなストロベリーブロンドの少女を見る。フリルのついたハットも、ドレスも、緩やかに風に揺れている。


「教えてくれなかった理由も、わかるし」

「わかるのかい?」

「うん」


 凛は頷いた。そして、己の腰のベルトから下げられていた手錠をぽんと叩いて見せる。


「私が刑事だったからでしょ。……もし私に時間を与えたら、私が犯人を逮捕するかもしれないし……あの中で、逮捕の権限があるのは刑事と探偵だけだったんだから。犯人は逮捕された時点で死亡確定だもんね」


 私だって、愛野の立場なら迷ってからそうしたかもしれない。

 と静かに告げてから愛野を見ると、彼女は間違ってにんじんをまるごとほおばっちゃったうさぎみたいな顔をしていた。


「……え、なに」

「い、いやあ……?まあ凛くんがそう思っているならいいかって思って……」

「ちょっと」

「いや本当になんでもないんだよ?」

「おこるよ」


 なに、と距離をガン詰めする。愛野は慌てたようにぱたぱたと両手を振ってみせた。

 それでもじっと見つめていると、はあっと大きくため息を吐いた。


「──君が嘘が下手すぎるからさ!!!!」

「えっ」


 予想外の言葉に、凛は一瞬固まった。

 VR内の風が吹いて、ゆるく愛野のピンクのドレスと、凛の水色のコートを揺らしていく。

 愛野は唇を尖らせ、びし、と凛の鼻先に指を突きつけた。


「君ってば気がついていたかい?僕が死んだ!と思っていた時は恐ろしく顔が真っ青で、まるで鬼みたいな表情をして周りを見てたじゃないか!もう完全にすごい顔だったよ、ああ僕って愛されてるな〜って思わずじっくり見」

「み、見てたの………!?いや、私は、そんなつもりじゃ……」


 声が裏返った。

 あの時の動揺っぷりを愛野に見られていたのか。どこから。

 いや、そういえばそう。愛野は現場近くにずっといたのか、人形に扮した姿で。凛が泣きそうで頭の中がぐちゃぐちゃになっている間も。全身が冷えて温度が下がり凍りつくような気持ちになって、外からどう見えるかなんてまるで気づかなかった間も。

 見られていたのだ………。

 一生の恥を抱えてしまった。

 頭を抱えてのたうちまわりたくなったが何とか我慢した。


「君は僕が死んだと思っていた時ほんっっっとうに絶望した顔をしていたし、僕が生きているんだって気がついた瞬間一気に顔色と表情が戻ってきたからものすごーーく分かりやすかったよ!!!凛くんは本当に嘘が苦手だなって………」


 凛はかろうじて言葉を捻り出して反論した。

 

「──友達が死んだら誰だってそうなるでしょ」

「それ以前からそうだったよ?僕とパフェを食べていた時、パフェの上の冷凍ブルーベリーをうえーって顔で見てたし」

「ぐ………」

「嫌いなんじゃないかい?」

「くぅ………」

「大丈夫だよ凛くん!!次も僕が全部食べてあげるからね!!!!!」


 今まで人生で出したことのないような声を出してしまってから、凛は頬から火が出そうな気持ちを誤魔化そうと何度か咳払いをして、それから愛野をまっすぐに見た。


「……とにかく!それで、言わなかったのはわかった」

「そうさ!僕が死んだ時君が平然としてたら一瞬で嘘がばれちゃうだろ」

「………そうかも」


 生存力の高いデスゲームプレイヤーになるのはもっと上手く周りを騙さなきゃだめなんだろうか。

 そういう練習とかしてみようかな。

 そんな考えを見透かしたかのように、淡いストロベリーブロンドをかきあげて愛野が笑った。

 

「でも君はそのままでいい」

「………なんで」

「僕はそのままの君を信頼しているからさ。君はそのままでいい、僕が白亜の塔で君を見つけ出した時の真っ直ぐさのまま、そばにいてくれたまえ!」


 ばちん、とまつげがばちばちに長い青い瞳にウインクされて、凛は微かにため息を吐く。

 まだ一ヶ月だ。

 いや、そろそろ一ヶ月もすぎましたと宣言できるくらいか?

 まだ友人として分からないことなんて本当に多いのだけれど、愛野の無償で投げられる信頼を、凛は決して嫌ってはいなかった。


「──はいはい。……無理しない方向で、アイのそばにいる」

「そうだよ!凛くんは嘘が苦手なんだから、そういうのは僕に任せてできるところをやってくれたらいいんだからね!!!!」


 なんかムカつくな。

 と思っていると、愛野は不意に静かになって空を見て、それからずいっと身を寄せてきた。

 あまい、花の香り。


「今回もそうだよ。……君は名探偵だった、すっかり探偵のお株を奪ってしまったね!ふふん、ブラックジャックも驚いただろう」


 列車の下の方、線路脇で皆と雑談しているブラックジャックにちらっと目をやってから、愛野は手を伸ばして凛の髪を撫でた。


「……凛くん凛くん、僕は思ったんだ」

「こんどは何……」

「リアルに帰ったら、今度一緒に香水を作りにいってみないかい?」


 君が僕を一瞬で見分けてくれたように、僕も君をちゃんと認知しておきたいし、と言われて凛はちょっとだけ言葉に詰まった後で頷いた。

 まあ、──悪くないだろう。

 彼女は自分のことを何と言っていただろうか、甘い青リンゴみたいな香り、とか言っていただろうか。


 香水なんてつけた記憶もあんまりなくて、毎日バイトばっかりで、苦しいことがたくさんだった日々に、甘いピンクの香りが忍び込んできて、全てが変わり始めている。

 倒錯的なゲームの世界に巻き込まれて、安全なことばっかりじゃないし、精神的に乱れる時だってたくさんある。でも、こういった時に嫌に幸せを感じてしまうのは皮肉だ。

 感情のジェットコースターに乗せられてしまって、愛野魔法に手を握られてしまって、もう降りられない。今は降りようとも思っていない。


 凛は小さくため息を吐く。当たり前のようにぎゅっと握られていた手を、軽く握り返す。


 ふっと目線を列車のそばにいる面々に移す。

 ──いつの間にか四人で雑談していた面子は、二人に減っていた。


 

 (16)


 青空に照らされた線路ぞいとは違って、ホームの中は見事な煉瓦造りの古き良き駅だ。

 天井部には見事なガラス天井があり、そこから落ちてくる光は剥き出しの陽光よりも少しだけ無機質だった。線路脇を歩き回るNPCも、本来なら画面に映らないこんなところまでは来ないのか、人が一切いない。

 すでにゲームは終了しているので配信は切られている。

 静かな世界で、静謐を崩すように、かつんと。ブラックジャックはヒールの音を響かせ──老人の背中に声をかけた。


「老ジルコン」

「ブラックジャック殿……こんなところに年寄りを呼び出して、何の用ですかのう」

「何の用、ですか?……貴方が一番お分かりなのでは?」


 ブラックジャックは静かに腕を組む。漆黒の探偵服も、エメラルドの瞳も、配信の目が届かない場所では冴え冴えと冷えた光を放っているように見えた。


「さあて、わしにはさっぱり……ブラックジャック殿のような別嬪さんにわしが声をかけられる覚えなどなにもありませんのう」

「──そうですか。………」


 黒く美しき探偵は微かに吐息を吐いた。


「──老ジルコン。”私”は、今回のゲームで目立っていたと思いますか?」

「はあ、それはそれは、輝かんばかりに美しく……」

「そういう意味ではなく。──今回の物語で、私は、役目を果たせたと思いますか」

「………そうですのう。僭越なことを言うのなら、探偵としてはお株を……刑事に奪われた形かと」

「私もそう思います。私は探偵として上手くロールプレイをこなせなかった。”目立たない”人材になってしまった。愛野に対する複雑な気持ちも要因の一つでしたが、それは私情なので置いておきましょう。………ともかく、私はいてもいなくても良い場面が多かったのです」

「随分と卑下をなさいますのう」

「事実ですよ、ご老人」


 そう言ってから、麗しの女探偵はふっと目を上げる。

 その瞳は鋭かった。


「──そう、私の今回のこれは、ただの無能です。……だから、最初は貴方も、”私と同じ”なのだと、私は思った」

「……ほう?」

「力の使い所がわからず、他のプレイヤーにどう絡めばいいかもわからず、ただ惑っているだけのプレイヤーなのだと。控えめにしているだけで話は回るので、そういった思考から大人しくしてる人間もこの世界には多くいますからね」


 老人は振り返る。そして、茶色の帽子を軽く目深にかぶるように被り直す。

 逆光で表情がわかりにくい、微かに微笑んでいることだけがわかる。

 外からの風にゆらゆらと揺れるくたびれたコート、足元に置かれたトランクの影が、嫌に、長く伸びていた。


「──けれど、貴方は違った」


 ブラックジャックは、手札を開示するように──切り札を叩きつけるように、静かな口調で言った。


「貴方は、わざと目立たぬように、わざと皆の印象に残らぬように立ち回っているようだった。──プレイヤーが思いついたことは全て実行させ、一番多数派の案についていって、己では何も判断をしていなかった。……ここまで存在感がないことは、寧ろ異常ですよ」


 全く、自我が見えない。

 デスゲームなんてやりたがるものは、多かれ少なかれ己の意思で行動する。己の意思で行動が不可能でも、その前段階の意見の出し合いで必ずある程度の自我は見せるものだ。他人とぶつかり合い、ぶつからないのなら議論をし、そうやってゲームに参加するプレイヤーが大多数を占める。

 けれど彼は──一切──本当に一切──それをしなかった。

 見事なまでに、無我だった。


「……貴方は、ただのプレイヤーではないでしょう」

「おやおや、何を根拠にわしにそんな断定を?」

「私の直感がそう言っているからです」

「ほっほっほ。ゴーストでも囁いたんですかのう。じゃが──」


 見た目通りにネタがちょっと古いな。とブラックジャックは思ったが──そのような瑣末な思考を、次の瞬間老人は──老人だったものは──吹き飛ばして見せた。


「なかなかどうして、見る目がある」

 

 影が解けた。

 溶けた。

 一瞬で再形成を遂げる。


 銀色の髪が、ぶわりと中空を撫でた。

 長い、長い髪。腰まで落ちるようなロングヘア。まるで琥珀かジルコンのように輝く茶色の瞳は色味だけは色味だけは人間らしいのに、嫌にぎらぎらと輝いている。年齢不詳のやせぎすの長身。纏っていた茶色のコートはすでに跡形もなく、びりびりに破かれたような黒いパンクファッションのようなものに変化していた。

 口を開くと、長い長い、人外のような八重歯が覗く。


 ──見事なまでの、変身であった。

 

 そこに立っていたのは、──銀髪に茶色ジルコンの瞳の軽佻浮薄な笑みを浮かべた美青年だった。その姿を見て、ブラックジャックは一瞬息を呑む。


「あなた、は………」


 彼は彼女の言葉を撫でるように柔らかに言った。


「ああ、無様だなあ!ブラックジャック!天下の VRDGのアイドルがすっかり喰われて情けない!」

「………あなたは……」

「なんだ?俺様の登場に声も出ないか?そうかそうか、天才役者の俺が出てきてそんなにも驚いたか、この荒唐無稽天下無敵天上天下唯我独尊な俺様が出てきたことにそんなにも驚いたか」


 銀髪に茶色の瞳の青年はあっはっは!と高笑いをすると、それからくるりと踵を返す。

 ここはすでに彼のためのステージだった。

 彼のための空間だった。

 VRDGの随一の美しさを誇るブラックジャックは、──美しさと存在感を兼ね備えたこの男の前で、完全に気押されていた。


「──……何のためにこの場所へ来たのです」


 問いかけられ、男はついと眉を上げる。


「何のために?決まっている!──”見極めるため”に俺様は来た。愛と正義が、このデスゲームの世界に何をもたらすのかを見に来たのだ。わかるか?」


 だがまあ貴様に見抜かれたことは少しばかり計算外だったな、と男は言う。

 それからこちらを向いて、彼は両腕を広げた。


「美しきブラックジャック、貴様ともまた会うだろうさ!!お前が愛と正義美しい理想を追いかける身になるというならいずれまた会おう、──俺様はリベンジを望む挑戦者も美人も大歓迎だ」


 男の体が、影が崩れ始める。

 コウモリになって飛び立っていく。


「──っ、待ちなさい……!!」


 ブラックジャックの声など気にも留めず、影の蝙蝠たちは一散で四散し、その場には何も──その場に誰かがいたという気配すらも──残らなかった。

 彼は。

 VRDGの中では有名な──プランナーの一人。

 愛野と共に活躍していた、デスゲームの運営側。

 彼がここへ来ていたのは何故か──そんなものは決まっている。


 彼好みの”役者”を探すため。

 ゲームは全て、彼の舞台なのだから。彼は吟味し、役者を舞台に置いて──その役者をしゃぶり尽くす。血肉がなくなり、骨が見えるまで。

 界隈の中では危険視される異端のプランナーだ。

 

(──……わざわざ彼が出向いてくるとは)


 ブラックジャックは小さくため息をこぼす。

 それから、ガラス張りの天井を見る。その向こうを小鳥が二羽楽しそうに飛んでいく。

 遥か天上を目指して、無邪気に。日の光を浴びて飛んでいくのを、ただ男装の麗人は──黙って見守ったのだった。彼らが不穏な雲に覆われぬように。


 二羽の小鳥の歌だけが、ただただ、明るい静謐の中に響いていた。



 

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元デスゲームプランナー愛野魔法による完全ハッピーエンド戦略 海月崎まつり @kuragezaki

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