第三話 図星

 あっという間に一週間が過ぎた。

 沢村さわむら君とは、九月十四日の土曜日にお昼ごはんを食べに行く約束をしたが、それ以降連絡を取っていない。

 またいつもの日々が再開した。

 まさくんとは変わらずである。

 木曜日と金曜日は塾があったからまた一緒に帰ったが、あんな短い時間では、満足にイチャイチャすることなどできない。それに今ではその気も起きない。ただ一緒に帰るだけ。

 他愛無い会話に何故だか腹が立った。あぁ、来たかこれ。雅くんの何とも思っていない顔に金曜日は少しイラっとした。

 土日も何もなく、布団にくるまり漫画を読んで過ごしたし、週明けからも宿題の山、授業の波をただ超えながら時間が過ぎるのをぼーっと見ていた。

 お昼休み、文化祭実行委員の活動を終えて自分の教室に戻ると、私は机に顔を伏せた。


「はぁ……」


 大きなため息が出た。


「どしたの、つむぎ?」

「なんでもない」


 隣の席の優奈ゆうなが心配そうに私を見る。


「やめなよ、そいつ今キテるだけだから」


 琴美ことみがドストレートに言う。「あぁ……」と優奈が真剣に心配そうな顔になる。


「琴美やめてよ、本気で心配されちゃうじゃん」

「そりゃ心配するよ」


 琴美はくくっと嫌な笑いを浮かべ、優奈は私の腰をさする。

 私は「大丈夫だから」と言って優奈の手を退ける。


「そう?」

「本当に大丈夫」

「彼氏は心配してくれないの?」


 琴美がまた余計なことを言う。


「え、どうなの?」


 優奈がそれに乗っかって訊いてくる。

 うぅ、面倒なことになった……。


「別に、気付いてないんじゃなーい?」


 私は適当に答えた。


「ええ、本当に??ありえない!」


 優奈に火が点いてしまった。


「彼氏ならちゃんと心配してほしいよね!」

「まあねぇ」


 優奈はお腹をさする私の気持ちを代弁している気らしい。残念ながら私はそんなに思ってないけど。もはや諦めである。


「でも、大丈夫。今回は大したのじゃないから。キツイ時は言うし、その時は心配してくれるから大丈夫よ」

「えー、それでいいの??」

「うーん、まあ」


 まあ、よくはないけど、諦めだよねぇ。

 気だるげに返答していると琴美が言う。


「私ならそういう気の遣えない男子は切るわ」

「うわぁ、ドストレート……」

「そりゃそうよ、面倒だもん」


 私も優奈も苦笑いする。


「でもさ、嫌な相手と付き合っててもつまらないだけじゃない?」

「まあね、でも雅くんのこと別に嫌じゃないから」

「そうだけど、最近マンネリ化してるって話じゃない」

「まあ、そうだけど……」

「浮気でもしたくなっちゃうんじゃない??」


 肩がビクリと揺れた。


「馬鹿言わないでよ。そんなことするわけないじゃない」

「琴美、何言ってんの?そうなの?紬?」

「あぁ、もう、優奈が信じちゃうじゃん」


 琴美がくくっと嫌な笑みをさらに強めた。


「でも、紬って面食いじゃん」

「うるさい」

「それに、元々付き合った時も勢いがあったじゃん?その勢い収まったら紬の熱も引いちゃうんじゃないの~って」


 琴美は鋭い。まさしくその通りの状況だ。

 でも、浮気は……。


「琴美、酷いよ。紬はマンネリ化に困ってるだけなんだから」


 なぜだか胸がモヤモヤした。


「どうかなぁ、知らない男とデキたりして」

「琴美!」

「冗談よ冗談。でも彼氏と紬、両方忙しいから色々大変だよねぇ。私はそういうのは真っ平よ」


 チャイムが鳴った。お昼休みが終わって午後の授業が始まる。

 浮気……。

 別に、浮気じゃない……。

 私の好きな人は、雅くん。

 うん、すぐに浮かんでくる。

 なのに、

 心がどこか落ち着かない。

 あれは、浮気じゃないから、大丈夫……。

 今週末、私は沢村君とお昼ごはんを食べに行く。

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紫の花に勇気を 川野狼 @Kawano_Okami

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