第二章 逢魔②
現世と幽世の境目は、
このような場所のほとんどには、境目の印となる巨大な〝鳥居〟が建造されている。この鳥居こそが〝幽世門〟と呼ばれるものであった。
川堀の
川堀との初顔合わせの翌日。朝緒たち現地捜索組一行は、その幽世門の一つへと
「いやあ……ここのは何度も見てるはずなんだけど。いつ見ても幽世門は
川堀が、目の前に広がる光景に
目の前には、高層ビル
「朝緒くんは、幽世には行ったことある?」
「あ……いや、俺は一度も。川堀さんは」
「飛でいいよ! 俺、今年で十九で、もうすぐ高校二年生の朝緒くんとは、
気さくで明るい川堀に、朝緒は小さく笑って頷く。
「……わかった、ありがとう。じゃあ、飛は幽世に行ったことがあるのか?」
「実は一度だけある! ……といっても、
「実際、幽世は異世界そのものだろ」
「あ、確かに」
異形に対する考え方が近いおかげか、すぐに打ち解け合った朝緒と川堀。そんな二人に、ここまで来るのにずっと黙っていた逢魔が口を開いた。
「無駄話は終わった? 川堀、と──きみ、何だっけ」
逢魔は無表情で首を
(こいつ……! 俺は眼中にもねぇってことか!?)
朝緒は額に青筋を
「……朝緒」
「アオ。特にきみは死にそうだから、もっと気を引き
逢魔は
「假屋さん、厳しいな……柊連でも、気難しい
「あいつは異形を見つけ
しばらく幽世門周辺を
「おい、てめぇ! ちょっとそこで待ってろ!」
朝緒は前方を歩く逢魔の背中に声を掛けた後、川堀へと
「飛? どうした」
「あ、うん。ちょっと、これ見て」
川堀が近くにあった
「……こりゃあ、異形の血か?」
茂みの中には、
「たぶんね。近くに、傷ついた異形がいたのかも……もしかしたら、俺たちが
「ああ。じゃあここら辺が
二人は立ち上がって、辺りを見回す。そして、互いの顔を見合わせて首を
「あ、あれ……? 假屋さん、さっきまでそこにいたのに」
「……いねぇな」
少しだけ目を離した
「やっぱり假屋さん、いないね。まあ、假屋さんは天下の五天将だから、単独行動でも
「あの狂犬クソ
朝緒は
「そういえば、朝緒くんってあの名門如月家の本家の人だよね。やっぱり、如月流の
祓いの御業。それは、人間の体内に
如月家はかつて、古くから名うての異形殺しや祓い屋を多く
朝緒は川堀の問いに、
「……御業の会得は、してる。ガキの
そこで、朝緒は
「あれ。どうかした? 朝緒くん」
「……痛いくらいに、荒ぶってる妖気を感じる」
目を
「異形だ」
朝緒の呟きと共に、雑木林の木々が
「あれだ! 俺が見かけた巨大異形は!」
「あいつは、大百足……? にしちゃあ、デカすぎる。
朝緒は
(何だ、あの大百足……巨大化してる上に、
朝緒は明らかに様子がおかしい大百足を、起き上がりざまに目を細めて更に観察した。すると、ぼんやりと大百足の身体のあちこちに〝
(……どうにも
朝緒は
「まずは、
リン、リン、リン、と。朝緒が三度鈴を鳴らす。すると、大百足が朝緒の方に頭を向けた。大百足はのたうち回るように身体を
「
カン!
朝緒の
朝緒が放った祓いの御業は、大気中にある
「
川堀の叫びは、つんざく
「がっ……ああ!」
しかし、力で押し負けた。朝緒は大百足の尾に
「
朝緒の前に川堀が立ちふさがり、大百足の尾による
ついには、大百足の大口が迫ってきた。朝緒は刀を地面に
「人間にあだなす異形は──」
不意に、
朝緒と川堀の前にはいつの間にか、スーツの後ろ姿──逢魔の背中があった。
「
逢魔は
ドォン! まるで
しばらく、辺りが
『……カ……タ……』
ふと、逢魔の足元から微かに異形の声が聞こえた。朝緒はそれを確かに聞き取って、反射的に
「おい、大百足! 正気に
朝緒は大百足の頭を手で
『カ、エ……リタ……イ』
朝緒は大きく目を見開いた。大百足は「帰りたい」と、そう言ったのだ。
正気に戻っている。そう確信した朝緒が、再び大百足に呼び掛けようとした声は、
ドン、ドン、ドン。三発の銃声が、間近で低く
朝緒は
ぎちりと、食いしばった歯が
「何で殺した」
静かな声は、冷たい
「害悪異形だからに決まってる」
「
「あれだけで、どうして正気に戻ったと言える? それに、きみは自分がたった今、この異形によってどんな目に
逢魔の無機質な声が低められ、
「きみはたった今、死に
「……!」
朝緒は目を
実際、逢魔があそこまで大百足を弱らせなければ、大百足は正気に戻らなかった。大百足が正気に戻ったのも、一時的だったのかもしれない。逢魔がいなければ、朝緒は何度死んでいたかわからない。川堀も、死なせていたかもしれない。
「朝緒くん、假屋さん! 無事ですか!?」
そこに、川堀が駆け寄ってきた。逢魔は川堀に
実体の存在が
川堀は
「やっぱり、朝緒くんも
川堀の言葉に、朝緒は力なく首を横に
「違う……俺は……」
朝緒は平常、祓いの御業は、大気中にあるほんの小さな祓いの力を利用する如月流の序式しか使えない。己の体内に宿る祓いの力を使った
しかし、それを朝緒は川堀に言い出せなくて、思わず押し黙ってしまう。
「? ……朝緒くん?」
心配そうに、川堀が首を
(俺の
つまり、朝緒が平常時に祓いの御業をほとんど使えないのは、半異形であるからだ。異形の
朝緒は未だ虚ろな視線を、大百足であった灰塵と血だまりに
「……俺は弱い」
「違う。その考え方は、
朝緒の弱々しい
朝緒は思ってもみなかった逢魔の言葉を受け、
「きみの思想はどうでもいい。だけど、死にたくないのであれば。戦いの最中は、
朝緒は逢魔という
「おい」
「もう、監視は必要ない。ぼくは帰る。雨音への報告は任せたよ」
そう言って、逢魔の背中はすぐに小さく遠ざかってゆく。
こうして、その日の
◇ ◇ ◇
続きは本編でお楽しみください。
ルール・ブルー 異形の祓い屋と魔を喰う殺し屋 根占桐守/角川ビーンズ文庫 @beans
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