第二章 逢魔①
「はあ!? あの狂犬ドブカス野郎が、柊連の〝
「あれ。朝緒、おまえそんなことも知らなかった? つーか、假屋に
如月屋に新人従業員の假屋逢魔が加入してから数日
今日は先日、雨音が話していた「新しい仕事」の依頼人との初めての顔合わせの日だが、予定の時刻よりまだ時間があるため、朝緒は庭で
いつもの
「〝五天将〟といえば……柊連の最高戦力。最強の五人の異形殺しのことだろ……?」
朝緒の問いに、桃が長い指で摘まんだ
「ん。しかも假屋は、大昔から異形殺しを多く
「……そんなとんでもねぇ野郎が、なんでこんな所でぶらついてやがる!」
桃が言うには、如月屋の新人、逢魔は
「ああ。假屋の馬鹿、他のヤツの仕事を
口元に片手を
「永遠に謹慎くらってりゃいいんだ、あのクソ野郎は! ……で、何がどうなって柊連で謹慎くらったバカが、ウチで
「そりゃあ、おまえ。俺が
「あ……?」
朝緒から地を
「いやー、あいつ滅多にあの無表情
静かに桃のもとへと歩いてきた朝緒は、桃の
「……いっぺんぶん殴られろ、桃。そしてあの放浪爺は次帰って来た時に殴る!」
「乱暴。まあ、そう
小声で
「……」
黙り込んで桃の胸倉から手を離すと、そのまま背を向ける。
現在、如月屋で朝緒が半異形だと知るのは雨音と閃、そして昔から如月家に入り
まだ祓い屋見習いの弥朔を危険から遠ざけるためとはいえ、隠し事を
「そろそろ、依頼人との顔合わせだ。いってくる」
「おー。いってこい。俺はしばらくここで
だらしない桃の発言に
「お前……これから柊連で仕事あるとか言ってなかったか? 五天将候補だろ、一応」
「いーんだよ。俺、柊連好きじゃねぇし。五天将にも一生なるつもりねぇから」
桃も
「桃と、あの
煎餅を大きな口で食べ終えた桃は、ニイッといつものように
「ばーか。俺のが強いに決まってる。当然のことを聞くな、朝緒」
朝緒は桃の言葉に大きく目を見開いた。そして、思いがけず
「バカはお前だ、ぐうたらヒモ男。何もすることがねぇなら、干した布団、中に入れとけ」
「えー、まじか」
屋敷の応接間にて。朝緒は台所から持ってきたお茶を依頼人に差し出すと、ソファーに座る雨音の
(あいつ……いつ見ても、気持ち悪いほど無表情すぎる)
朝緒は逢魔という監視対象を改めて観察してみたが、
「改めまして。私は如月屋店主の如月雨音と申します。今日はわざわざご足労いただき、
「……い、いえ、こちらこそ。お茶まで出していただいて、ありがとうございます」
依頼人の名は、川堀
川堀は軽く
「何か、気になることでも?」
「あ、えーっと……
そういえば、川堀は柊連の異形殺しだという話を雨音から聞いていた。ならば、同じ異形殺しであり、五天将である逢魔の顔を知っていてもおかしくはない。
(桃が言ってた通りか……信じ
逢魔に
雨音は
「そうだけど」
「や、やっぱりですか! すごい……! 五天将の人なんて、俺みたいな平隊士にとって雲の上の存在ですから! お話しできて光栄です! ……それにしても、なぜ五天将の假屋さんが、こちらの如月屋さんに」
「ぼくのことはどうでもいい。早く依頼の話に移ってくれる?」
冷めた逢魔の声に
「逢魔は今休養中でして。そんな中でも
「ああ! なるほど、そうなんですね。……それにしても、いきなり失礼しました。では、さっそく今回の依頼についてお話しさせていただきます」
川堀は
「
この世界は、二つの世界にわかたれている──
〝現世〟とは、主に実体の存在が
現世に異形が現れることは
そのため、異形殺しである川堀が、わざわざその巨大異形とやらを幽世に帰そうとする意図が朝緒には見えなかった。
「俺は柊連の異形殺しの中でも、
朝緒は異形と争いたくないと言う川堀に、思いがけず
「巨大異形たちは〝幽世門〟周辺に現れ、一時姿を隠したかと思えば、時にひとりでに暴れ出したりと……行動の予測がつかず、どこか
〝巨大異形〟──おそらく、川堀の話からして、通常の異形よりも
「近年は、異形殺しの
川堀は深々と頭を下げた。朝緒は
「もちろん、喜んでお引き受けさせていただきます。川堀さん」
「ああ……良かった! 本当にありがとうございます!」
川堀は
頭を下げ合う雨音と川堀を横に、ちらりと視線だけを動かし、朝緒は扉の
(……あいつ、ほとんど黙ったままだったな。同じ異形殺しでも、川堀さんとは正反対の思想のくせに)
朝緒は終始、柊連でも穏健派であるという川堀の「異形と争いたくない」という思想に、逢魔が何かしでかすんじゃないかと
そうして、逢魔は特に問題を引き起こすこともなく、初回の顔合わせが
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