第48話 【報告会】
ギルドの会議室にて、蜘蛛の入った籠が置かれたテーブルを囲み試験官を担当した3人とギルドの責任者達が話し合っていた。
「さて、今回の昇格試験だが…まだ幼い少女がこの蜘蛛を捕らえたという事で間違いはないですか…?」
進行役はこの街の副ギルド長だ。
昇格試験を受ける者は多くない為、試験内容や結果は毎回試験官を交えて会議という形式がとられている。
当然、責任者であるギルド長と補佐の副ギルド長も参加していた。
今回は余計な横槍等が入った為、ギルド側としても頭の痛い案件であった。
教会との対立はこの国では致命的な問題となるので表立っての手助けが難しい。その為、ギルドとしてはAランクのダリオンを自然な形でなんとか帯同させ最低限、少女を守るつもりであった。
ダリオンを付けた時点で対策としては最低限出来ていると考えていたし、教会と繋がりがあるマーシャが依頼を受ける事も一応予測の範囲内であった。
しかし、事態は思わぬ方向へと進んだ。
まず、リックが試験官の依頼を受けると言いに来たのだ。
ギルドの上層部はリックの正体を知っていたし、勿論領主夫妻と懇意にしていることも理解はしていた。
それに、少女が領主の屋敷にて保護された事も事前に情報を聞いて把握していた。
同じ屋敷に居るのだから、確かに2人に何かしらの繋がりがあっても可笑しくはないだろう…
…ただ、例え顔見知りになっていたとしても、人間不信気味で他人との関係を出来る限り避けている彼がわざわざ首を突っ込んで来るとは考えていなかったのだ。
…しかしこれは、予定外の事ではあるが彼が参加する事自体はギルドとして損は無い。むしろ、公平性と安全性が高まるのでむしろこちらからお願いしたいくらいだ。その為、試験官の最後の一枠は彼にお願いする事にした。
その時点でギルドとして出来る事はやっていたし、今回の渦中となった少女を試験結果に合わせて最低限の被害で救えるように試験後の対策も考えていたのだが…。
…そんな対策は全て無駄になった。
少女は見事、試験を達成して来たのだ。…それも無傷な上に最短の時間で…
更に、それだけでも十分に驚きの出来事であったのに、試験官を引き受けた者達からの報告を聞いて更に驚く事となった。
「…いったい、あの子は何なの…?」
マーシャの少し苛立ったような声が会議室に響き渡る。
「それは…どういう意味ですか?」
その場を取り仕切る副ギルド長の言葉にマーシャは声を荒げた。
「そのままの意味よ!あの子、光魔法を使っていたわ!!…使い手が希少な上、難解だと言われる光魔法を!
…それも、無詠唱でね!」
「…なんと…それは本当ですか…?」
軽く目を見張るギルド長と副ギルド長に対して、ダリオンもマーシャの言葉へと同意する。
「ついでに火魔法も相当強力だった。…途中、甲虫魔獣に遭遇したが…」
そこで言葉を切るとチラリとマーシャを見る。…マーシャは顔色を悪くして視線を伏せる。
「何?甲虫魔獣だと?…等級は?」
通常、あの洞窟では出る筈のない魔獣の名前に、思わずギルド長も話に割り込む。
「…低…いや、中級程の大きさだったかな…。2〜3匹はいたし、乱闘になっていたら俺たちも無傷では済まなかったはずだ…」
「中級が2〜3匹だと…?あの洞窟にはそもそも中級の魔獣自体確認されていないはずだが…」
魔獣はその脅威をわかりやすくする為に等級によって区別されている。
ギルド長は難しい顔をして考え込もうとしたが、ふとマーシャの顔色の悪さに気がつく。
「…はぁ、そういう事か。…この件は後で詳しく調べる事にしよう。
…で、中級の甲虫魔獣は乱闘になる前にお前達が倒したのか?」
ギルド長は視線をマーシャからダリオンへと移すが視線を受けたダリオンは首を横に振る。
「いや、倒したのはミサト。…今回の受験者だ」
「…なんだと。さっき、光魔法と火魔法を使ったと言っていたが…そんな、まさか…。
…中級の甲虫魔獣を…いったいどうやって?」
「…火魔法で一瞬だった。すげー火力で燃やしてたぜ。…硬さ自慢の前翅も全て跡形なく燃やされてたからな…」
「…な」
絶句するギルド長に代わり、副ギルド長が口を出した。
「…そのような話…到底信じる事は出来ませんが…本当の事なのですか…?」
「俺だって信じられねぇよ。そもそも洞窟に入るなり光魔法だぜ。しかも…手のひらとか、杖に灯す訳でもなく、空中に浮かべたまま広範囲を照らす上に術者が離れても勝手についてくる光玉なんて聞いた事ねぇよ…
その後も洞窟の奥へと躊躇う事もなくサクサク進んで行くし、途中で小型の魔虫が出てきたら即火魔法で燃やし尽くすし…その火魔法だって光魔法を維持したままの片手間だったしな…
……しかも、魔法は全て……無詠唱だった」
「「…」」
ダリオンの説明にギルド長達は言葉を失う。
「…この蜘蛛に至っては攻撃するどころか動く事すらしないで無抵抗でつかまってた。洞窟内も迷う事なく進んでたし、スムーズにも程があったぞ」
テーブルの真ん中に置かれる蜘蛛を指差し、何処か呆れた顔で報告するダリオンはその時の事を深く考える事を放棄したようだ。
ふと視線をギルド長へと向けると今までとは違う真剣な顔へと変わる。
「…俺はCランクどころか俺と同じAランクにしても問題ない実力だと思っている」
ダリオンの発言にギルド長達は驚いていたが、他の試験官からはそれを否定するような声は上がらなかった…。
教会の手のものであるはずのマーシャでさえ、何も言わない事にギルド長達もそれが本当の事だと認めざるを得ない。
「…ひとまず、今回の昇格試験は…
…………………合格…だな」
え、勇者って私の事好きなんですか? 青太郎 @aotaro_aotarou
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