第5話 想定通り(挨拶)
現地時間 10:34
想定通り(挨拶)じゃねーよ。
見事にやられました。
私一人。支援物資あり、追加要員無し。
正確に言えば追加要員が来ようとしたらゲートが急に閉じた訳ですが?
そして同時に何故かスマホが鳴った。
「はいよ永代軒異世界店です」
『良かった!これが繋がったという事は主神の仕業か!』
聞き覚えのある声。まあ、教授ですね。
「え?怖っ、異世界にも電話通じるとか…」
『打ち上げた衛星は常時微小のゲートを開いているから通信できるんだ』
「へー…でも現実通信くらいですよね?」
『今はね。座標も特定しているし、犯神も特定しているから…全力で殴りに行くくらいかなぁ』
あっ、主神が犯神って…触れちゃいけない人の逆鱗に触れてるぅ…
【主神:タ ス ケ テ】
いや、うん。諦めて?
って教授、主神殴れるのか!?…いや、あの人なら何でもありだからなぁ…
「まあ、とりあえず当初の予定通り暫く森で生活した後に南下します」
『えっ?死ぬ気?貴方が死んだらその世界滅ぼすけど?』
「世界の命運なんて重すぎていらねッス。まあ、死んだ後であればどうなろうと知ったこっちゃないので…好きにしてください。
理由としては美神・恋神がヘイトを私に向けているせいで人里には住めないという理由です」
『………へぇその2人ね…3日後にそっちに行くから、全力で生き残って?死んでたらその世界、本気で滅ぼすから』
あっ、これ本気だ。全精力傾けて有象無象殺し尽くす気だ。
総毛立つ感覚と言えば良いのか?これは。
私に向けてではないのに余波で死にそう。
血の気が引いて、脂汗が出て、心臓が痛い。
やだ、これが、加齢?
「きっと、相手にも伝わっていると思いますよ?余波でこっちも死にそうですけど」
『何もしていないんだけど?』
マジかこの人…
「色々な感情がはみ出てましたよ?」
『あらそう?それならあちらにもそれが伝わっているでしょうね』
【主神:お願いですから安全なところに逃げてください!】
【美神・恋神:挑発】
【闘神:美神・恋神に対する殺意。今から奴等をぶっ殺しに向かう】
【戦神:美神・恋神に対する殺意。今から奴等をぶっ殺しに向かう】
おい?仲間割れ始まっているんだが?
『どうしたの?』
「いえ、:美神・恋神が教授を挑発しています。あっ、ヘイト率上がったので人前には絶対出られませんね。モンスターなどからも狙われやすくなるようです」
『みーちゃんが死んだらまこちゃん後追いしかねないんだけど?』
「それは…全てこの世界が悪いという事で私にはどうすることもできませんね」
『…まこちゃんが死んだらこの世界の人も神も全て苦しむように殺し尽くして私も死ぬわ』
更に重くなったな…私が死んだら世界崩壊。真殊が死んだら神々も殺すって…
「まあそうならないようにある程度努力はします」
『ある程度では無く全力で───』
それだけ言って通話を切った。何か言ってたけど気のせい気のせい。
急いで切った理由は簡単。目の前にモンスターがでる兆候が見えたからだ。
しかも少し大きい。
空間が歪み、それが形を成す。
その直前に前回同様組み立てた棒をそれに差し込み、時を待つ。
そして完全に形となったタイミングで引き抜き───
残念。今回は西洋鎧の化け物だった。
喉元がえぐり取られただけで特に大きなダメージは無いようだ。
相手が大剣を振り回す前に下がりながらその空いた喉元に5.56ミリNATO弾を撃ち込んだ。
僅か2秒でその化け物は黒い粒子となって消滅し、金貨を落とした。
「もらえるものは貰うが…人里行けないんだよ…万物全て敵なんだよ…」
独り言を言いながら金貨を拾い、森へと向かう。
木の上なら少しは休めるだろう。
例えモンスターが現れても少しは時間稼ぎが出来ると…信じたい。
存在全てからヘイト受けているこの状態、詰んでね?
まあ、地球も半分はそんな感じだったか。
そう考えたら…イヤやっぱ辛ぇわ。
だって私が教えられたモンスターじゃ無いぞ?今の。
狂小人、餓え小人、狂狼って聞いていたのに出て来たのは中空洞の鎧お化けだぞ?
ああ、これ絶対ロクな事にならんわ。
私の勘が囁いている。
悪い事に関しては90%当たる私の勘があの追っ手達はまだ私を諦めてはいないと囁いているんだ。
「お偉いさん方、ガキ一人に何でそんなに躍起になってるのかねぇ」
森の中を歩きながら男は隣にいた相方に問いかける。
「なんでも審判神の試練って称号があって不運7もあるらしいぞ」
「厄災じゃねーか!其奴を捕まえないと何が起きるかわかんねーって事か」
「どうやらそうらしい。大司教様は生かして連れてこいと言っていたが」
「へぇ?おもしれぇな。生かして連れてこいって事はできるだけ傷付けないようにって事だから余程重要人物なんだな」
男は興味深そうにそう言い、足が止まる。
「…世のためにも殺した方がよくないか?その死体を持っていけば分かるだろ」
その顔はなぜか憎しみの表情へと変わっていた。
そして、相方の表情も少しずつ険しい表情となっていく。
「んっ?…そうだな、その方が早いよな」
「うっし、それだけの危険人物なら見た瞬間に俺の危機感知に引っかかるだろ!」
「他の奴等にもちょっと提案してくる」
「おう!早く始末してやらねぇとな…厄災を始末しないと」
認識がズレていく。
恋や執着が憎しみに変わるように、興味関心が段階を超えてマイナスへと転じる。
それを引き起こした神々は直後に後悔する。他世界の人が1人が死んでも問題がないと。
主神含め神々が過剰に反応しているだけだと。
だから軽い気持ちで悪意を彼に向けた。
審判神の試練の重要さを忘れた結果は───崩壊を意味するものだった。
笑えねぇ…1分1体の割合でモンスターが湧くんですが、バグですかね?
しかも半径2メートル以内に。
「このバグすらこの世界が私を受け入れない証か。殺意高すぎだろ」
そうぼやきながら形を成した巨大熊の喉元から棒を引き抜き後ろに下がる。
ヒョホウと喉から空気と血を漏らしながらそれはこちらへと襲いかかり、口に私の血肉ではなく鉛玉を喰らい消滅する。
「逃げる場所はないし、町や村も危険な気がする。これは大人しく食われた方が楽な気がしてきたぞ?」
【主神:現在戦神達が犯神を攻撃中。相手は解除する気は無いようなので早急に後任を決めて排除する予定。お騒がせして申し訳ありません。頼む生き延びで!】
【美神・恋神:懇願、悲鳴】
【闘神・戦神:憤怒。現在攻撃中】
攻撃を受けているのに解除しないって…解除できないって事では?
っとお!?今度は2ヶ所同時に湧き出たぞ!?
更に少し離れた所に3体!?
…よし。城門前の時同様向こうの木の根元で観音経でも唱えておこう。
即座にそこから離れて木の根元で座禅を組む。
「爾時無尽意菩薩即…」
そして始まる読経タイム。
さあて何処まで頑張れるか勝負だ!
因みに現在午前11時過ぎ。
予定では20時間くらいはこれを続ける予定だ。
流石に20時間唱え続けていたら周辺にモンスターはいなくなるだろ。
いたら諦めて戦って死ぬか。
一切の煩悩を捨て読経に意識を委ねよう。
現地時間 06:41
目を瞑りただひたすら読経を唱え続けていたら夜が明けていたでござる。
そして、なんか凄い戦闘跡が…いやマジで何事?
今見える範囲だけでも人が20名は死んでるぞ?
まだ座禅組んでいるし読経続けているから細かいことは分からないけど…バラッバラだったり喰われていたり、凄い状態だ。
あと周りにモンスターがいない。
読経を止めずにソッと立ち上がる。
もたれかかっていた木を見る。
俺の座っていた時に頭のあった位置。そこから30センチくらい上から先がないんですけど?
観音様が万難排した?
それはそれでありがたいことなんだけど、この状況、どうした物か…
埋めるの?組み立て式のスコップあるけど、これは結構ムッチャよ?
……はぁ、やるか。
お経唱えながらすれば功徳の足しにはなるだろ。
異世界バイト旅~バイトのはずが帰れません(諦め) 御片深奨 @misyou_O
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