第7話 アニメを描くぞ

ちょっと大きくなって、てくてくと歩けるようになった竜人のソラくんが今日も来た。

 

「可憐よ、汝らの仕事は誠に素晴らしいものだった。生徒達はご満悦だ」

「はい。ありがとうございます」

「そこでだ、可憐。うちの生徒で、アニメに非常に強い興味を持っている者がいる」

「はい」

「アニメ制作を体験させてやってほしい」

「無理では? 物心ついてからの訓練が必要なので」


 私は、数々の相談を受けて知っている。

 ソラくんの抱える生徒はナーロッパ的な世界の軍人さんである。

 絵とは、非常に高度な文明と余裕、幼い頃の鍛錬が必要な芸術である。

 生きるのに精一杯な文化で花開く者では決してない。

 最も原始的なパラパラアニメ、あれだって大量の紙があって初めて成立するもの。

 絵心どころか経験すらあるはずもないし、素人が初めて描いたような絵でアニメが書けるわけがない。

 機材もとても高い。

 確かにソラくんの依頼は可能な限り受けてくれって話だけど、不可能ならば仕方ない。

 遠くから見守っている外交官さんが受けて!! とジェスチャーしてるけどダメなものはダメ。


「可憐よ。報酬は一時的に竜になれるコインを出そう。空を飛べると評判だぞ」


 ざわっとざわめきが走る。確かにドラゴンは良い資料になるかもしれない。

 でも出来ないのだから仕方ない。


「無理です」

「ポーションではどうだろうか」

「無理です」


 ざわざわざわざわざわ。


「では、魔力や竜力を生み出す魔核竜核、それにそれらのエネルギーをコインへと変換する船核ではどうか」

「無理ですって。アニメの仕事舐めてんですか」

「もちろん、尊敬している。文化を担い、夢を与える仕事だ。だが、生徒達に様々な事を学ばせてやりたくてだな……」


 どよどよどよどよどよ。


 ギャラリーはざわめくが、悪いが質で売ってるこの会社のアニメの仕事にお猿さんは混ぜられない。


 そこで私は気づいた。


『受けて!』


 そう書かれたボードを必死に振る社長に。

 ええ……でも……。社長が言うなら……でも無理なものは無理よね?


「やあソラくん奇遇だね! 我が社もアニメを作っていてね。体験入社の企画をしているのだが、どうだろうか!」


 ここでスパイの登場である。


 我が社にはソラくんが来るようになって、スパイが屯するようになってしまったのだ。いや、新進気鋭のアニメ会社、だったか。当然外国の会社である。ソラくんは、私を信頼してくれるようで、私を通してしか仕事の話をしないのだけど。


 ここぞとばかりに囲まれるソラくんに、社長も外交官の人も青ざめる。


「しかし……」


 ソラくんは困ったように私をチラッと見た。


「わかりました。見学を受け入れましょう。お仕事させてくださいというのは無理ですよ?」

「ありがとう!」


 そういうわけで、日本に異世界人が修学旅行に来る事になったのだった。

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