右・右・右・左・左・8・8
私が裏口を出て右に曲がり歩くと、建物と建物との間に道とも言えないような細い通路があるため、そこをさらに右に曲がる。エアコンの室外機をよけるように歩き、野良猫にニャーと挨拶をされながらやっとの思いで進むと大通りに出るのだが、ここでもう一度右に曲がらなければならない。
さっきから右に曲がってばかりだが、私のかわいい
「右じゃなければダメなのですか?」
「右じゃなければダメなの。その日はね」
――というわけで言われたとおりに右に曲がると、つまり建物の回りをぐるぐると歩き回っていることになるため、せっかく裏口から出たというのに建物の正面に来てしまった。
さきほどまで自分が働いていたその場所を見上げると、そこには洒落たデザインで『JEWELRY TAMANOE』の看板がかかっている。『ジュエリー玉の
「明日のためにも早く魔女に会わなくてはいけませんね」
私は気を引き締めると、すたすたと歩きだす。
さて、まっすぐに進むとすぐに大きなT字路に出るのだが、今度は左に進む必要がある。横断歩道が青になるのを待って国道を渡り切り、少し進んですぐの左手側に建物と建物の間にある細い路地をみつけた。
「そして左に曲がったら、また左だよ。歩けそうなところは絶対に進んでね」
そう娘が言っていたので、また左に曲がる。ただし、今度はただ歩くだけではない。
「最後に左に曲がったら、時計の短い針が示している数字のぶんだけ前に進んでね」
とのことなのだ。左手の腕時計に目をやると、午後8時30分を指している。
「8歩か……1、2、3、4、5、6、7、8」
そうして前に進んだら、最後の仕上げだ。
「それでねパパ、前を向いたまま同じ数だけ後ろに戻って」
「後ろに、1、2、3、4、5、6、7、8」
最後の8歩目を歩いたところで、一瞬のめまいと共にヒュオォと一陣の風が吹き抜ける音がした。
そして振り返る。先ほどまでの街の賑わいはどこへやら、そこは木々の茂る森の中だった。空にはぽっかりと満月が浮かんでいて、周囲はそれなりに明るい。
木々の合間、遠くにポツンと一つだけオレンジ色の明かりが灯っていて、あそこに私の魔女がいるとわかる。
「さあもう一息」
パパの娘は魔女屋さん 真殿すみれ @madonosumire
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