【SF短編小説】密室生存ゲーム:誰が人間で誰が機械か?

T.T.

【SF短編小説】密室生存ゲーム:誰が人間で誰が機械か?

------------------------

●中村シンジ

- 年齢: 29歳

- 職業: 研究員


●鈴木ハルカ

- 年齢: 27歳

- 職業: 看護師


●佐々木ユミ

- 年齢: 28歳

- 職業: ジャーナリスト


●有坂メグミ

- 外見年齢: 27歳

- 職業: 画家

------------------------


 目が覚めると、冷たく無機質な密室が四人を完全に閉じ込めていた。


 中村シンジ、鈴木ハルカ、佐々木ユミ、有坂メグミ。


 彼らは自分たちがどうしてそこにいるのか、何が起こっているのかわからない。


 突然、壁に取り付けられたスピーカーからのアナウンスが彼らの耳を打つ。


「この部屋は一時間後に爆破されます。生き残る方法はただ一つ。あなたたちの中にただ一人だけいるアンドロイドが誰かを特定すること。では健闘を祈ります」


「馬鹿な!」


 シンジが冷静さを装いながらも声を荒げた。


「なんだこのふざけた状況は! いったいこんな状況、誰が納得するっていうんだ!?」


「私たちを何だと思ってるの? 人質? モルモット? 横暴だわ!」


 ハルカが声を震わせながら言った。

 しかし彼女の看護師としての本能が、この危機的状況でも他の人々の安全を確保しようとしていた。


「どういうことなの? いったい私たちに何ができるっていうの?」


 ユミがスマートフォンを取り出し、何か情報を探そうと必死になっていたが、無情にも圏外だった。


「どうして……? あたし、何も悪いことしてないのに……」


 メグミが静かに、しかし凛とした声で言った。


「こんなのは理不尽だ。いったい誰が、なんの目的でこんなひどいことをするんだ?」


 シンジがデータを解析しようとタブレットを操作するものの、徒労に終わった。


「もしかして、これって隠しカメラがあって、私たちを観察してるのかしら?」


 ハルカが部屋を見渡し、壁や天井を調べ始めた。


「私たち……実験されてるのかもね」


 ユミが推理するが、その声には確信がなかった。


「ここにいる誰かがアンドロイドだなんて、証拠でもあるの? みんな人間かもしれないじゃない?」


 彼らは互いに質問を投げかけ合い、反発し、時には協力を求め合いながら、アンドロイドが誰かを特定しようとした。

 しかし、そのプロセスはさらに彼らの緊張を高め、疑心暗鬼を生むだけだった。


「ねえ、私たち、本当にここから出られるのかな?」


 ハルカが不安げに言った。その瞬間、彼らの心は共通の恐怖によって結ばれた。


 壁の無機質なタイマーが刻一刻と残り時間を減らしていく。


 やがてシンジが意を決したように切り出した。


「お互いにアンドロイドではないことを証明しなければならない。一人ずつ、人間である証拠を話そう」


 ハルカは即座に答えた。


「私には感情があります。痛みや喜びを共有できる。それが、私が人間である証拠です」

「しかしそれは君の内面の話だ。それを我々に証明する手立てはないだろう?」


 シンジの指摘にハルカは不服そうに黙り込む。


「私は好奇心が強くて、いつも新しい情報を求めています。アンドロイドにはそんな欲求はないはずです!」


 ユミは自分のジャーナリストとしての熱意を強調した。


「それも君の内面の話だ。証明できない」


 シンジは眉をひそめながら言った。


「そういうあんたの方がよっぽどアンドロイドっぽいけど……?」


 皮肉混じりにユミがつぶやく。


「私は証明できます!」


 メグミがはっきりとそう言ったので他の3人は思わず彼女を凝視した。


「私は画家ですから……」


 そういうとメグミはポシェットから出したパステルで密室の壁に絵を描いた。

 美しい女性の肖像画だった。


「これは……美しいな……」

「本当、綺麗……」


 切羽詰まった状況も忘れて、思わずシンジとハルカは感嘆の声を洩らした。


「でも、アンドロイドだってプログラムされた感情を、プログラムされた芸術として表現できるんじゃないの?」


 またしてもユミが疑問を投げかけた。


「それに、アンドロイドが自分がアンドロイドだってことを知っているとは限らないわよね?」


 ユミは更に追及した。


「まあ、だからといって、私たちがお互いを疑うのはどうかと思うけど……」


 ユミは不安げに付け加えた。


 メグミは静かに立ち上がり、部屋の中央へと歩み寄り、深呼吸をした。


「私たちはお互いを信じるべきです。疑念は私たちを分断するだけです。それは真実を見る目を曇らせます」


 他の3人は押し黙ってお互いを見つめあった。


 やがて壁のタイマーが10分を切った.


 4人は明確な恐怖を感じ、次第に慌てふためく姿を見せ始めた。


「くそっ、時間がない!」


 シンジがタブレットを手にしながら焦りを隠せないでいた。


「俺たち、何か大事なことを見落としているんじゃないか?」


 ハルカは手に持つメディカルキットを開け、何か使えるアイテムはないかと探していた。

「私たち、もっと落ち着いて考えないと。そもそも、そんなに簡単に答えが見つかるはずがないんだから!」


 ユミは壁を叩いていた。


「ねえ、何か隠し扉とかそういうのないの!? 密室にはそういうの定番じゃない! そういうのを探しましょうよ!」


 メグミは静かに彼らを見つめ、彼女の芸術家としてのパーソナリティが、この緊張した状況下でも彼女を落ち着かせていた。


「みなさん、もう一度、冷静になって話し合いましょう」


 シンジも同調した。


「わかった、もう一度一人ずつ、自分がアンドロイドでない理由を話そう」


ハルカは深呼吸をして、「私は人の命を救うために日々頑張ってる。アンドロイドにそんな情熱は持てないわ」と力強く言った。


ユミは「私は情報を追うことに人生を捧げている。アンドロイドにはそんな執着はないはずよ」と主張した。


メグミは穏やかに、「私の絵には感情が込められています。それはプログラムされたものではない。私の心から生まれたものです」と静かに言った。


 シンジは彼女たちの言葉を聞いた後、疑問を投げかけた。


「君たちの言うことはわかる。しかしどれも、アンドロイドがそうプログラムされていれば可能なことだ。内面は証拠にはならない。もっと具体的な何かが必要だ」


 4人はまた押し黙った。


 ただ時間が無為に過ぎていく。


 シンジは額に滲んだ汗を襟で拭った。

 ユミもおなじ仕草をした。

 ハルカもため息をついて掌に滲んだ汗をぎゅっと握りしめていた。

 メグミもただ床をじっと見つめている。


 4人は憔悴しきっていた。


 残り時間はあと3分を切っていた。


 このままこの密室とともに粉みじんになってこの世とおさらばすることになるのか……。


「! 待ってくれ!」


 シンジは不意に気がついた。

 

 違う。憔悴しているのは、4人ではなく、正確には「3人」だ。


 シンジは告げた。


「メグミさん……あなたはこんな状況になってもまったくストレスを感じず、疲れていないようにも見える。違いますか?」


「そんなことはありません。私は皆さんと同じように怖いですし、疲れてもいます。なぜそんなことを言うのですか?」


「だが」


 シンジはメグミの腕をつかんだ。


「あなたはまったく汗をかいていない。そのことについてはどう説明されますか?」


 メグミは戸惑った表情を見せたが、自分の腕、額、頬を……ゆっくりと触った。

 そして、静かに認めた。


「私は汗をかいていない……。そうですね、確かにそのようです……。私はまったく汗をかいていない……でもそれが私がアンドロイドだという証拠になるのですか」


 その瞬間、部屋の空気が変わった。

 シンジ、ハルカ、ユミはメグミを囲み、彼女の言葉を確かめようとした。

 刹那、メグミの中のエンドプログラムが起動し、彼女は自分がアンドロイドであることを思い出すと同時に、連動して部屋の壁が開き、彼らは外に出ることができた。


 残り1分のことだった……。


 シンジ、ハルカ、ユミの緊張は一気に解け、安堵のため息が漏れた。


「よかった……」


 シンジは腰を抜かしそうになりながらも、彼女に感謝の意を示した。


「メグミさん、やはりあなたがアンドロイドだったのですね」


 ハルカはメグミに近づき、優しく肩を抱いた。


「ごめんね。こんなに疑ってしまって。でも、あなたがアンドロイドだってわかってほっとしたわ」


「ねえ、メグミさん。あなた自身はずっと知らなかったの?」


 ユミは彼女の顔をじっと見つめながら尋ねた。

 メグミの表情は静かなままで、彼女は頷いた。


「はい。私は、ほんの数分前まで皆さんと同じだと思っていました。でも今ならわかります。私はそのようにプログラムされていたのです。皆様には怖い思いをさせてしまって申し訳ありませんでした。でもそれは必要なことだったのです」


 メグミの声には少しの寂しさが含まれていた。そして彼女は人間のように微笑んだ。


「やあやあやあ! 実験は大成功だ!」


 ひらいた壁から白衣の研究スタッフが現れ、4人は和やかな雰囲気で迎えられた。

 実験が無事終了し、彼らは解放されたのだ。


 その瞬間3人は自らが実験に志願したこと、そして今までの一時間が彼らの心理を試すためのものだったことを思い出した。

 彼らの実験に関する記憶は今まで催眠術式で封印されていたのだ。


「皆さん、ご協力ありがとうございました」


 研究所のリーダーが言った。


「すでに思い出されたと思いますが、これは極限の状況下で、アンドロイドの振る舞いを、人間がどう認識するかを分析するための実験でした」


 シンジは首を横に振りながら言った。


「なるほど、これは我々にとって一種の試練だったというわけですね。でも、彼女がアンドロイドだったなんて、本当に驚きましたよ」


「そうね、メグミさんの振る舞いが一番完璧に人間らしかったもの」


 ハルカは感心しながら付け加えた。


「はい、私たちはうちのメグミがどれだけ人間らしいかをテストしたかったのです」


 研究スタッフが説明した。


「彼女には今回、芸術家のパーソナリティが埋め込まれておりました。これは感情表現の幅を広げるためです」


「実験に参加させていただいて、ありがとうございます」


 ユミは笑顔で言った。


「これは一生ものの経験になりました。まあ、もう一回はごめんだけどね!」


「メグミさん、あなたはこれからどうなるんだい?」


 シンジが興味深げに尋ねた。


「私は引き続き研究に協力していく予定です」


 メグミは落ち着いて答えた。


「人間とアンドロイドの関係性を深めるために、これからも学び続けます。あ、もちろん絵も描き続けますよ?」


 メグミはいたずらっ子のような茶目っ気のある表情でそう付け加えた。


 彼らは笑いながらその場を後にした。


 この経験は彼らの理解を深め、アンドロイドと人間の未来に対する考え方に影響を与えた。


 そして、研究チームは得られたデータをもとに、さらにテクノロジーと倫理の新たな地平を開拓していくことになるだろう。


 次の被験者はもしかしたら貴方かもしれない。

 もちろん貴方がアンドロイドでなければ、の話だが。


(了)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【SF短編小説】密室生存ゲーム:誰が人間で誰が機械か? T.T. @shirosagi_kurousagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ