第4話 一発逆転ファイナルレース 2
一発逆転ファイナルレース。
今まさにそれが始まろうとしていた。
中央競馬で資金を搾取された者たちが一か八かの逆転を図るために夢見るレース。
三連単の最低配当がいつも大体万馬券という混沌としたオッズが、このレースを当てることの難しさを表している。
さて……馬たちがゲートに収まり始めている。
僕と由希さんはPCの画面を固唾を呑んで見守っている。
「高めの配当来ておくれ~……」
由希さんは両手を祈るようにして組み合わせていた。
……210万、取り返したいんだろうな。
さすがにこれ一発で取り返すのは無理にせよ、帯馬券が来たらだいぶマシになるのは間違いない。
『最後の一頭、収まります』
そんな実況が聞こえてきた。
厩務員の人がゲートから離れていく。
その直後に――
『――スタートしました』
馬たちが走り出す。
ちょっと出遅れる馬。
出ムチを打たれてダッシュする馬。
各々が集団を形成しつつ、最初のコーナーに差し掛かっていく。
「おっ、8番めっちゃ良いとこ居るじゃん!」
由希さんの馬券は8番を一頭軸にした三連単マルチ。
僕が選んだに等しいそれが3着以内に入るのが的中の絶対条件だ。
8番は現在、先行集団の内側3番手辺りに居る。
良い位置だ。そこで足が溜まれば最後に抜け出してこられるかもしれない。
「よしっ、8番頑張れ! 他に買ってるみんなもだよ!」
切実な祈りを飛ばす由希さんをよそに、馬たちはいよいよ向こう正面に差し掛かり、4コーナーめがけて徐々にペースが上がっていく。
「お! やっぱ8番めっちゃ良い手応え! こりゃ8番は来るっしょ!」
8番が先頭に躍り出ようとしているので由希さんテンション爆上げ。
しかも上位人気が後退気味なので、荒れ模様の結末が見えてきた。
こりゃひょっとしたらひょっとするのか……?
そう思っている間に、レースは最後の直線に差し掛かった。
「きちゃー!! 8番はもう1着じゃんこれ!」
「2着に1番来そうですけど買ってます?」
「買ってる!!」
じゃあ問題は3着だ。
現状の3番手は10番だ。
その後ろから9番が猛烈な差し足を伸ばしてきている。
「うおおおお差せ! 9番お前差せええええええ! 10番ないんよおおおお!!」
轟く絶叫。
由希さんは9番が良いんだな。
「9番止まるんじゃねーぞ! お前が3着に来れば当たる! 差せ差せ差せ差せ差せえええええええええええええええええ!」
ギャン中による魂の叫び。
どっかの部屋から壁ドンされないことを祈る合間に8番が1着でゴール。
次いで1番。
そして由希さんの運命を分ける9番がすごいギリギリのタイミングで10番とほぼ一緒のタイミングでゴールしていた。
「あああああああああどうなった!? 差した!? どうだった!?」
「いやぁ……どっちですかねぇ……」
9番は本当にギリギリって感じで、スローで見ても隣の10番とどっちが先に決勝線に入ったか分からないくらいだった。
「写真判定になりましたね」
「あー……頼むぅ……せめて同着……4着はやめてぇ……」
祈る由希さんをよそに、由希さんが的中した場合の3連単「8-1-9」のオッズを確認してみると――
「うわ……6500倍」
つまり9番が3着なら100円あたり65万円が払い戻されることになる。
下位人気決着だからな……8が7番人気、1が11番人気、9が6番人気だ。
「由希さんって、8-1-9の馬券何円買ってるんでしたっけ?」
「200円持ってる……」
ってことは……9が3着なら130万。
デカいぞ……これは9が3着なら由希さんはだいぶ救われるな……。
「頼むぅ……」
写真判定が続いている。
この時間のドキドキ、由希さんヤバいだろうな。
見てるだけの僕も脈打ってるし。
同着だと配当が減るから、出来れば9単独が良いけど果たして……。
「――あ! 9じゃん!」
すると掲示板の3着部分には9が表示され、ハナ差で10が4着表示。
……ってことは、
「――やったあああああああああああああ130万じゃあああああああい!!!」
由希さんは狂喜乱舞し始めていた。
「いええええええええい!! 今日の負け額80万までまくったあああああ!!」
……それでもなお80万負けてるのがおぞましい。
「ゆーくんマジで8番教えてくれてありがと! ゆーくんのおかげだよこれ!」
「いえいえ……」
そうこうしているうちに払い戻しが来たようで――
「わぁっ、はは……見てよほら。残高130万♡」
由希さんが嬉しそうに投票アプリの照会画面を見せ付けてくる。
「言っておきますけど、納税しなきゃダメですよ? その払い戻し額は」
「あ、そっか……まぁそれでもだいぶまくったからいいや」
そう言って由希さんはホクホク顔なのだった。
単勝オッズ1倍台の馬の複勝に全財産ぶっ込んで負けたギャン中女子大生先輩を居候させることになった 新原(あらばら) @siratakioisii
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