第3話 一発逆転ファイナルレース 1

 競馬って、土日に限ればほぼ1日中どこかしらで開催されている。

 午前10時くらいからまず中央競馬が始まる。

 中央競馬自体は大体午後4時半には終わるが、午後3時くらいから並行して地方競馬が開催されていて、それが午後9時くらいまである。


 特に週末のナイター競馬と言えば、やはり四万十川があるあの県の競馬だ。

 有名なのは、一発逆転ファイナルレース。

 最近勝ってない馬ばかりが選抜された、当てるのがムズいレースである。


「――さあやるよー! ここまでのレースはケンしてきたからね、このレースにパチの勝利額を全額投入じゃい!」


 すでに僕と由希さんは僕の部屋に帰宅済みだ。

 そして僕のPCモニターにレースの配信ページを映し出し、パドックを眺めているところだ。配信内ではパドック解説も始まっている。


『1番、ナントカカントカ 478キロ マイナス3キロ』

『んー、まぁそうですねぇ……毛艶は悪くないと思います。展開がカギになりますかね』

『2番、ナクノハオヨシ 543キロ プラス34キロ』

『んー、まぁそうですねぇ……毛艶は悪くないと思います。展開がカギになりますかね』

『3番、ヌルヌルウナギ 389キロ プラス1キロ』

『んー、まぁそうですねぇ……毛艶は悪くないと思います。展開がカギになりますかね』


 このパドック解説、展開がカギとしか言ってないぞ。


「この解説者さんいっつもこんな感じだよね。おもろいからいいけど」


 ……いいのか。


『以上、パドック解説でした。岩中崎さん、ありがとうございました』

『どうも』


 愉快なBGMが鳴り始め、本馬場入場からの返し馬映像が流れ始める。

 返し馬というのは、本馬場でのウォーミングアップみたいなもんだ。


「ゆーくんっ、あたしと一緒に返し馬ちゃんと見といて! あたしはパドックよりも返し馬の状態で判断派だから!」

「あ、はい」


 返し馬で掛かってたりすると「あ……」ってなるからな。

 馬券購入前に、返し馬で馬のテンションを把握しておくのは大事だ。


「んー……5番よく見えるなぁ」

「僕は8番が一番よく見えましたけどね」

「8番? あー、確かに良いかも……人気は7番人気か。ええやん。妙味あるね。持ちタイムも悪くないし、指数も上位。じゃあ8番を軸にして3連単1頭軸マルチや!」


 由希さんはパチで勝った3万円を資金配分し、3連単を90点ほど購入していた。当たれば帯になる馬券もあるらしい。帯というのは、100万を超える払い戻し馬券のことである。


「さあ、あとは発走を待つばかり~」

「外れても僕のせいにしないでくださいよ、8番」

「でーじょうぶでーじょうぶ。そもそもこの資金3万がゆーくんからの恵みなんだから、外れても責めようはずがないよね」


 そう言って夕飯の鍋をパクパクする由希さんは可愛らしい。

 ギャン中じゃなければ男が絶えないはずの金髪ギャルなんだけど、ギャン中かつホームレスだから誰も寄り付かないという……。

 

「お、始まるみたいだね」


 画面の中で、スターターが旗を振り始めていた。

 さて、馬券の行く末やいかに……。

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