なんとなく魔術師
ヤン
幸せをくれた人
ソファでウトウトしている僕の隣に、腰を下ろす気配。その人が、僕の肩をそっと抱き寄せる。
僕は、その人の肩に頭をもたせ掛けて、微笑む。ここは、何て幸福感に満ち溢れた場所だろう。
僕の肩を抱いてくれている人は、
家も学校も嫌になって、家出をしたのが夏休みに入った直後だった。大矢さんが、僕の父を知っていたのには驚かされたが、そのおかげで、僕をどうするかがすぐに決まった。
それからずっと、ここにいる。大矢さんは言ってくれた。ここでは、僕の思うままにしていい、と。
思うまま、というのがどういうことか、僕には理解が出来なかった。それまで、家では、なるべく家族の目に触れないようにしよう、とか、そんなことばかり考えて生きてきた。
急に自由にしていいと言われて、戸惑った。でも、今はわかる。少しずつだけれど、自分の思うままに出来るようになってきたと感じている。
そんな風になれたのは、大矢さんのおかげだ。暗闇の中から僕を助け出してくれた。
僕が望んでいたことを与えてくれる大矢さん。なんとなく魔術師みたいだ、と思った。僕が幸せになれる魔法を掛けてくれたんじゃないかと、本気で考えてしまう。
僕の髪を撫でながら、大矢さんが、
「
囁き声で言った。
(完)
なんとなく魔術師 ヤン @382wt7434
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