粟色日和
なんかかきたろう
粟色日和
「あすとー、ふむふむ、眠ってるなー。えいっ」
「うわっっ」
急に体に圧力が来て、俺は驚きの声をあげながら飛び起きる。急いでサイドテーブルに置いてある眼鏡をかけると、そこには悪戯に笑う幼馴染の姿があった。
「はははっ、明日斗のリアクションは相変わらず面白いなー。うわあああっだって」
ケタケタと笑うこいつは俺の幼馴染の慎太郎。同級生で家が隣同士ということもあり、お互いの家を行き来して遊んだり一緒に学校に行ったりしている。
「お前、勝手に起こしにくんのやめろよな?」
慎太郎は制服姿で俺のベッドに横になりながら、枕元に置いてた漫画を手に取る。
「まあまあ、そう固いこと言うなって、おばさんも起こしてあげてーって言ってたしさ、それより、お前のベッドって、お前くさいよね、あはは」
「俺のベッドなんだからあたりまえだろ?」
「まあ、それもそうか。それより早く準備してきてよ。俺マンガ読んでるからさ」
すっかり覚めた目とともに、洗面台へ向かい、身支度を整える。と言っても俺は特に外見に気を使っているわけじゃないから、所要時間はとても短い。
制服に着替えて、軽めの朝食をとる。食べている途中に母から小言を言われたが、右から左へと聞きながしていく。
食べ終わり、歯を磨きながら自室に戻ると、慎太郎はすやすやと寝息を立てて眠っていた。手には読みかけの漫画が開かれたままになっている。
(まったく、開いたままにするなっていつも言ってるのに……」
俺は歯磨きをしながら、眠っている慎太郎を眺める。
しゅっとした顔立ち、短く切りそろえられた少しつんつんしている髪の毛。長いまつげに、筋の通った鼻。しかし、潤いのある、薄ピンクの唇のせいでまだどことなくあどけなさが残っている。
(くそ、のうのうと眠りやがって)
俺は自分の股間にどくどくと血液が集まっていくのを感じる。
無防備に眠る慎太郎は、ワイシャツがズボンからはみ出して腹が露出している。寝相が悪いのは小さい時から変わっていない。
ハンドボール部で鍛え上げられたその体は、細身ながらも機能的な筋肉が備えられている。余分な肉がない慎太郎の腹からは、縦に長いへそが覗いている。
(ああ、慎太郎のへそ。舐めて、よだれでぐちょぐちょにしてやりたい。においを嗅いで、舌で穴をほじくってやって、それから……)
俺は歯を磨いている口からよだれが垂れてくるまで、妄想の中で慎太郎のへそを犯していた。制服のズボンは、膨れ上がったペニスでピンとテントが張っている。
(あっぶねー、勃起してるところ慎太郎に見られたら、ぜったい変な目でみられる)
小言を言っている母の顔を鮮明に思い浮かべ何とか勃起を納めてから、慎太郎の肩を揺さぶる。
「慎太郎、もうすぐ準備終わるから起きろよ」
「ふわぁ、りょーかーい」
猫のように目をこすり、慎太郎はもぞもぞと起き上がる。
「明日斗は文系か理系かもう決めたのか?」
高校までの道を歩きながら、慎太郎は俺に聞いてくる。
「いや、まだわかんねー。慎太郎は?」
「ん-俺は文系かなー」
「適当だな。お前本とか読まねーじゃん」
「数字なんてもっと見ないもん。消去法だよ消去法」
そういって、悪戯っぽく笑う笑顔が、俺の胸を緩やかに締め付ける。
「あ、亜美からだ」
ポケットからスマホを取り出して、うれしそうな顔をしていじる。
亜美とは、慎太郎が三か月前から付き合いだした同級性の女だ。慎太郎にとっては初めての彼女。向こうの方は知らないが。
「朝からラインかよ、ラブラブだな」
俺は不機嫌さを隠すように、なるべくいつもの調子で言う。
「そうなんだよー、昨日も寝落ちするまで通話しててさー。」
(コイツは寝るまで彼女とイチャイチャ通話して、それで寝不足になって俺のベッドで眠ったのか)
楽しそうに通話しながら愛をささやく慎太郎を想像して、心臓の底の方から黒い濁ったものがぐつぐつと湧き上がってくる。
(平常心、平常心だ。おちつけ、俺)
「それで寝不足で俺のベッドで寝てたってわけか、つか、そんなんならわざわざ起こしにくんなよ」
返事を返した慎太郎はスマホをしまうと、俺の肩に腕を回してくる。
「それはそれだろー?俺と明日斗は幼馴染なんだし、おばさんも起こす手間が省けるって喜んでるしさー」
「母さんは関係ねーだろ」
細いけど筋肉質な腕。柑橘系の整髪料の香り。慎太郎は昔から、こういったスキンシップが多い。
速度を上げる心臓の鼓動に抵抗して、腕を振り払う。
「うざい、朝からじゃれつくな」
「あはは、いつも通りだなー明日斗は」
ケタケタと笑いながら歩く明日斗。
(いつも通り、そう、いつも通りでいいんだ。このまま幼馴染としてそばにいられれば)
♢
明日斗君、もう上がっちゃっていいよー」
部活動に所属していない俺は、近所の喫茶店でアルバイトをしている。
夜の九時ごろになると、ここのマスターの美咲さんが俺にそう声をかけた。
事務室で制服に着替え、店から出ようとすると美咲さんは「明日斗くん」と俺を引き留める。
「はい?」
「ちょっとコーヒーでも飲んでいかない?奢るからさ」
「え、いや、大丈夫です」
「ええ、即答……。でももうコーヒー淹れっちゃってるんだよなぁこれが、これ無駄になっちゃうのかなーあーあ、もったいないなー」
いじらしくうなだれる美咲さん。かなりわざとらしい。
「はぁ、わかりました。ごちそうになります」
「そうこなくっちゃ」
カウンター席に座ると即座にコーヒーが出される。顔の下まで持ってくると、暖かい湯気に乗って奥深い芳醇な香りに包まれる。俺は深く呼吸をした後に、ずーっと口に含む。優しい苦みだ。
「よかった、上手に淹れられたみたいね」
「美咲さんのコーヒーはいつもうまいですよ」
「あらうれしい。それで、なにかあったの?」
美咲さんの柔らかな笑みの奥に、ちゃんとした大人の持つ特有の雰囲気が感じられた。
俺は美咲さんのこういうところが苦手だった。見透かされているような気持ちになる、実際何かを感じ取っているのだろう。
「別に何もないですよ」
コーヒーをすすりながらごまかす。
「そっか、でもここ何か月かは、心ここにあらずって感じよ?今日だって今までの三本の指に入るくらいの空虚さを醸し出していたわ?」
「そんなことないです、現に接客だって問題なく……」
美咲さんは俺の話をさえぎって言う。
「ええ、接客は問題ないわ。仕事もきっちりしてる」
「それじゃあ別にいいじゃないですか」
「明日斗くん」
美咲さんは僕の眼をじっと見つめる。
「私はね、お店の心配をしてるんじゃないの、あなた自身の心配をしているのよ?」
(ああ、この大人の目、やんわりと見え隠れする母性の眼差し)
「明日斗くん、あなた、何を諦めたの?」
「っ……」
言葉に詰まった俺は俺は急いでコーヒーを飲み干す。
「俺はいつも通りですよ、御馳走様でした」
(くそっ、くそっ、こいつになにが分かるっていうんだ)
むしゃくしゃする気持ちを振り払うように足早に帰宅する。
シャワーを浴びて、そのままベッドにうつ伏せに倒れこむ。食欲はまるで湧かなかった。
ベッドには慎太郎が置きっぱなしにしていた漫画が置かれている。
(このベッド、微かに慎太郎のにおいがする。慎太郎……)
慎太郎のもつどこか甘いようなにおいと整髪料のフルーツのにおいに集中する。
「すー、すーっ、慎太郎、慎太郎っ」
慎太郎のことを考えながら残り香を嗅いでいるこの瞬間だけは、現状に対する閉塞感や不安、美里さんに看破された焦りやいらつきすらも、解放されるような気分だった。
俺は、自分のペニスが固くなっていることに気が付く。
カチャカチャっとベルトをはずして、下着を脱ぐと、俺のペニスは天を指すように屹立していた。
甘く剥けた亀頭の先からは、仄かに水滴が滲んでいる。
「はは、まだ触ってもないのに……。どんだけ慎太郎のことが好きなんだよ俺は」
自分の抱いている欲情に呆れてしまうが、俺のペニスは意に反するようにその固さを増し、反り返っている。
まず想像したのは、慎太郎の柔らかな唇だった。
指先でつついたらぷにっと跳ね返してきそうな唇。笑った時に横に伸びる柔軟性。
その唇に優しく口づけをする。
『あっ、あすと? んっ』
戸惑いながらも俺を受け入れる慎太郎。
そのままその口の中に舌を入れ込む。
ねっとりと口内を弄びながら、慎太郎のよだれをずるずるとすする。
「ああ、慎太郎、慎太郎」
俺は亀頭を掌でこする、熱を帯びたペニスから汗をかくようにカウパーが分泌されていく。
妄想の中の慎太郎は、いつも俺を優しく受け入れてくれる。
『はは、明日斗はエッチだなぁ』
優しく微笑む慎太郎をよそに、俺は慎太郎の肉体に目を向ける。控え目だけど鍛えられた胸筋を揉みしだく。小さな乳首を手のひらに感じる。
『あ、明日斗、おっぱいそんな風に揉んだら、んっ』
『そんなに甘い声出しやがって、ずっとこうしてほしかったんだろ?こんなに乳首勃起させて……』
慎太郎の両乳首を両手で同時につまむ。
『明日斗、んっ、い、言わないで……』
『言わないでって、お前、自分のチンポ見てみろよ?』
俺は慎太郎のペニスを握る。我慢汁が滴るほどに勃起して、俺が触れるとびくびくと可愛く揺れる。
『やっ、明日斗、おちんぽ、おちんぽ気持ちいよ、あすとぉ』
『そんな可愛い声出したって無駄だぞ?今日は俺、お前のこと思いっきり犯すって決めてんだから』
俺は手首のスナップを聴かせながら慎太郎のペニスをしごく。
『あっっああっ、明日斗、うれしい、好きだよ明日斗?犯して?俺のこと、いっぱい犯して?』
泣きそうな顔をしながら懇願する慎太郎、でも俺にはわかる。犯されたくてしょうがない時の顔だ。
『ほら、この前教えたお願い、してみろよ』
『え、ええ、それってこの前言ってたやつ?さすがに恥ずかしいよ……』
もじもじと恥ずかしがって抵抗する慎太郎に向かって、俺は自分の勃起したペニスを見せる。
『うわあ、明日斗のおちんぽ、すごいギンギンになってる』
亀頭からカウパーがにじみ出たペニスを慎太郎の目の前でゆらゆらと揺らしてしてやる。
『ほら、お前の大好きな勃起ちんぽだぞ?』
揺れるペニスを目で追っていながらも、慎太郎は俺がしつけた淫語を口に出さない。
『まあいいや、じゃあ、言わなかった罰として、フェラしろよ」
『はは、それって罰になってないじゃん』
慎太郎はそういって微笑んだ後、俺の亀頭にキスをする。
『ちゅっ、んちゅっ、ちゅっ、慎太郎のおちんぽ、もう凄い濡れてるね?』
『んんっお前がそうさせたんだろ?お前が、はあ、ドスケベだから』
『じゅぷっじゅぷじゅぷ、ずぽっじゅぽっ』
俺の言葉に反抗するように慎太郎はペニスを一気に口に含んで激しくしごく。
『くっ、ああっ、慎太郎、そんな急に……』
『ほお?ひもいひい?』
ジンジンとするような熱のこもった慎太郎の口内が、俺の意識を遠くに連れていく。そして涎を多く乗せた舌が、それを許さないかのようにペニスに巻き空く。
『ああ、慎太郎。やぱ、いく、いっちゃうから』
慎太郎は口の動きを止めるどころか、頭を前後に揺らして俺のペニスへの刺激を強めていく。
『ぐぽっ、ぐぽぽ、じゅぽっじゅぷっ……いって?あすと、せーひだひて?』
『ああ、慎太郎、いく、いく、ああっ……』
強烈な快感とともに、尿道からぷりゅ、ぷりゅっと精子が放出されていく。慎太郎の口の中に。
『んっんっ』
射精が終わると、慎太郎は俺のペニスから口を離す。
『くちゅくちゅくちゅ、んっ、明日斗の精子、また飲んじゃった』
俺の精子をぐっと飲みこむと、花の咲いたような笑顔を俺に向けてくる。
『お前。こうすると俺が興奮するってわかっててやってるな?』
『えへへ、ばれた?』
『慎太郎、ケツこっち向けろよ』
『うん』
慎太郎は四つん這いになって、俺の前に尻を向ける。外で走り込みをすることもあって日焼けをしている慎太郎の身体だが、下着で守られている臀部は百合の花弁のようにその白さを保っている。
『あすと~』
慎太郎は、自分の尻を両手で開いて、ゆらゆら揺れながら俺に言う。
薄ピンクの肛門は、部屋の照明に反射して俺の情欲を煽る。
『明日斗のおっきいおちんぽで、俺のけつまんこいっぱい犯して?』
『言えんじゃねーか』
俺は慎太郎のケツに自分のペニスを……ペニスを……
(慎太郎、慎太郎。ああっ)
俺の妄想はいつも挿入する前に終わってしまう。
「はあ、はあ。」
俺は全身に汗をかいてベッドに全身を預ける。その隣には精子がかけられて丸くなったティッシュが三つ転がっている。
洗い呼吸が整い始めると、すぐさま罪悪感と虚無感に襲われる。
「あなた、何を諦めたの?」
美咲さんの言葉が俺の頭の中を木霊する。
(くそ、くそ、どうすりゃいんだよ、どうするのが正解なんだよ)
黒い靄で何も見えない街に一人佇んでいるような気分だった。
そしてそのまま心地の悪い疲労感が眠気を誘い、俺は眠りについた。
♢
「明日斗ー起きろー、朝だぞー、んーーえぃっ」
「うわああぁぁぁ」
またしても慎太郎にのしかかられながら、俺は朝を迎えた。
眼鏡をかけずに、慎太郎のぼやけたシルエットに向かってにらめつける。
「おい、二日連続でくだらねーことすんなよ。同じ毎日を繰り返してるかとおもったわ」
「あはは、今は流行のループものってやつ?」
(もう結構流行った後だっつの)
そう思いながら眼鏡をかけると、慎太郎は昨日と同じく爽やかな笑顔を浮かべていた。
が、何かに気が付くとその顔が一変、意地の悪そうなニヤついた表情になった。
「でもさすがにループはしてないよな、だってそれ……」
慎太郎が指をさしたその先には、丸まったティッシュが三つ転がっていた。
こんもりとして、硬さのありそうな見た目。健全な男子高校生には、そのティッシュがどんな用途で使われたものなのか、一瞬で想像がつくだろう。
(やっべ、昨日しこったままそのまま寝たのかっ)
俺は顔を真っ赤にしながら、急いでティッシュを回収してゴミ箱に捨てる。
「ほうほう、明日斗もやっぱり男の子なんですなぁ」
相変わらずにやにやしながら慎太郎は言う。
「それにしても三発かー。しかもそのまま疲れて寝ちゃうって、なんか明日斗が可愛く見えてきたよ」
慎太郎はまた爽やかな表情に戻って「あはは」と笑った。
もし俺が、全部お前を想像してオナニーしたんだよ、っていったらどうなるんだろうか。その優しい顔が、汚物を見るような目に代わるのか、怒りに震えるのか、そんなことを考えてしまって、言いようのない恐怖に震える。
「いいから早く準備して来いよー」
感情がぐちゃぐちゃになりながら俺はぐだぐだと準備を始める。
(はぁ、最悪な朝だな。もう学校とか休みてえ)
「あ、そうだ、今日俺お前んち泊まるから」
登校中、慎太郎が突然そんなことを言い出した。
「は?」
「だって今日お前んちのおばさんもおじさんも帰ってこないんだろ?俺明日部活休みだしさー」
「え、いや、今日母さん帰ってこないの?」
全く聞いてない。
「うん、なんかどっちも泊りだから、よかったら泊まってってねーって言われた」
「なんで俺が知らないのにお前が知ってるんだよ」
全くうちの両親は適当だ。生活に関する小言は多いが、その他のことは基本放任主義で、こんなふうに俺に何も言わないまま物事が進んでいることが結構ある。もしかしたら、そんな教育方針のせいで俺がこんな性癖になったのかもしれない。いや、それはないな、人のせいにするのは良くない。
「じゃあ今日は泊まりに来るんだな?」
「おう、部活終ったら行くー、映画パーティーしよ!ホラー見ようぜホラー」
「お前、ホラー苦手じゃん」
「だからだろ?こんな機会がないと見れないんだよ」
じゃあ彼女とみればいいだろ、と言いかけてやめた。「あ、たしかに」なんて言われたら、今日うちに来ることさえ無しになってしまうかもしれない。突然でびっくりはしたものの、慎太郎がうちに泊まること自体は嬉しい。
「お、なんか機嫌なおった?」
「べつに、じゃあ俺はカレーとか作っておくわ」
「カレーパーティーだな!」
「普通の夜ご飯だよ、何でもかんでもパーティーにするな」
♢
「うん、カレーもできたし、サラダも作ったし、お惣菜もいろいろ買ってきた。パンもご飯もちゃんとあるな」
(まぁちょっと作りすぎたかもしれないけど、あいつは運動部だしいっぱい食うだろ)
俺は除菌シートでテーブルを拭くと、サラダやカトラリーを並べる。隣り合わせにすると恋人みたいな気分が味わえそうだな、流石にそれは気味悪がられるかな、とか浮かれたようなことを思っていると、玄関のチャイムが鳴る。
「おおー、もう準備万端じゃん!!さては、お前も楽しみにしてたな!?」
慎太郎はカレーの鍋を見つめながら言う。カレーは慎太郎の大好物だ。慎太郎はその性格の通り、子供っぽい料理に目がない。
「お前風呂は?」
「え、明日斗の家ではいるけど?」
当然のように答える慎太郎に悪びれる様子は一切ない。
「お前、ここを自分の別荘かなんかだと思ってないか?」
「あは、バレた?」
「うまい、うまい、」
夢中でカレーを掬い口に運んでいく慎太郎。口元が汚れているのも気にしていない。
「ガキかよ!」
「高校生なんだからガキみたいなもんだろ?おかわり!」
「おい、俺はお前の母親かっ」
と呆れつつも、慎太郎の皿を受け取りご飯とルーを皿によそう。自分が作ったカレーを慎太郎が美味しいと食べてくれる。そんな普通の家族みたいな光景は、俺の胸を小躍させていた。
「いやーこのサラダにクルトンが入ってるのも憎いよねー。カレーとシーザードレッシングってなんでこんなに合うんだろ」
「そりゃどうも」
自分で使ったカレーは、味見をしたにもかかわらず、無邪気に食事をしている慎太郎の影にかすんで味がよく分からなかった。
ご飯を食べ終わると、俺たちはリビングに場所を移して、映画を観る準備を始める。
「映画といえばポップコーンだよね、あとコーラ!」
慎太郎はじゃーんとカバンからガソゴソと取り出しテーブルに並べていく。
「お前、さっきあれだけカレー食っといて……」
「映画のポップコーンは別腹じゃん。映画をに集中してて体がお菓子食べてることに気が付かないから太らないんだよ?」
謎理論を提唱しながらテレビの画面のサブスクから、映画を吟味し出す。
「本当にホラーみんのか?」
「当たり前じゃん、そのために来たんだから」
慎太郎が選んだのは以前ネットで怖すぎると話題になった日本のホラーだった。
田舎の村に移り住むことになった夫婦。
最初は人当たりの良かった村の人々に安心する夫婦だったが、徐々に村の異変に気がついていく。
村の住人に常に監視され、徐々に疲弊していく夫婦。
意を決して村から脱走を試みるものの……。
「わーわーわーわー」
俺は呆れていた。
慎太郎は目を閉じ、耳を塞いで、わーわーと呻いている。
「おい、そんな怖いならやめるか?」
「え?なに?聞こえないーっわーわーわー」
目を閉じている慎太郎の横に近づいて耳を塞いでいる手を無理やり剥がす。
「もうやめるか?って聞いてんだよっ!」
その瞬間、テレビからは落武者のような頭をした村長が、大きな鎌を持って夫婦に襲いかかっていた。
「ひゃーーーーーっ!」
俺は慎太郎の叫び声を聞いて耳がキーンとなる。
「お前の声が1番こえーっつーの」
そうして慎太郎のいう映画パーティーは早々に終わりを告げた。
「怖くて風呂入れない」
分かり切った展開だった。
「なんだお前……逆ピタゴラスイッチかよ」
「だってこんなに怖いと思わなかったんだもん」
「だもんって、いよいよガキだな。じゃあ今日は風呂やめとくのか?」
「いや、さっきので汗かいたから普通に入りたい」
あっけらかんとしている慎太郎。こいつホラーが怖くて風呂に入らなくなったのになんでこんなに堂々としてるんだ?。
「お前まさか俺に風呂の外で待っとけっつーんじゃないないだろうな?」
「そんなこと言わないよ」
慎太郎は笑顔を浮かべて言葉を続けた。
「一緒にはいろーぜ?」
慎太郎は俺の手を引っ張って脱衣所へと向かう。
「お、おい、マジで一緒にはいんのか?」
「だってしょうがないだろ?怖くて1人じゃ無理なんだから。それに、小さい時に何回か一緒に入ったことあるじゃん」
「それは小さい時の話だろ?」
「男同士だからいいじゃん、別に」
(それが問題なんだよ、俺にとっては)
脱衣所に着くと、慎太郎はするすると服を脱ぎ出す。
パーカーを脱いで、無地の白いTシャツを脱ぐと、慎太郎の上半身が顕になる。凸凹というわけでもない、適度に引き締まった腹筋。胸は少しだけこんもりとしていて、指で叩けば、ぷにっとはねかえしてきそうな質感をしている。真ん中には薄ピンクの小さい乳輪を携えた乳首が、威張った王子様のように、つん、っとその存在を主張していた。
(やばい、慎太郎の裸、えっろっ。ってかこのままだと確実に勃起しちまう)
俺は平静を装うように、自分の服を脱ぐことに集中する。
「ってか明日斗、逆ピタゴラスイッチってなんだよ、今になってじわじわ効いてきた」
あはは、と笑う慎太郎。
「うるせー」ッと言いながらちらっと盗み見た慎太郎のペニスは、握り心地の良さそうな太さをしていて、ピンク色のすべすべの亀頭は、ぷっくらと膨らんでいた。
(こいつズル剥けだったんだな。ってかカリ太いな)
慎太郎は風呂場に入るといそいそとシャワーを浴び出す。
まだお湯に変わりきっていなかったのか、冷たっと言う声が聞こえてくる
しばらく時間置いてゆっくりと服を脱ぐ。甘く勃起したペニスが小さくなってから、万が一のために腰にタオルを巻いて浴場に入る
すでに体を洗い終わった慎太郎は俺をみて、「お、タオル巻いてる、さては、明日斗、包茎だな?」とからかってくる。
「いや、マナーだよマナー」
俺は本当の意図を探られないように誤魔化す。
まあ、包茎なのはほんとうなのだが。
俺も、体にお湯をかけて、ボディーソープで体を洗い始める。
(なんかほんとに付き合ってるみたいだな。付き合って同棲とかしたら、毎日こんな生活を送れんのかな)
なんて叶わない夢の中から、誰かに食べられたチキンの骨の可食部分を探すような、最後の幸せを噛み締めているような、そんな気分に浸っていた。
「ホラー見て一人で風呂に入れなくなったなんて、こんなとこ彼女に見られたら嫌われちゃうかな」
慎太郎は髪を洗いながら言い出した。
(こんなときに彼女の話持ち出してくんなよ……)
慎太郎の信頼しきった声色が俺の胸を締め付ける。
「お前のことが好きならそんなもん気になんねーよ。デートとかしてんのか?」
俺は必死に何でもないような風を装いながら話を続ける。もしかしたら声が若干上ずっていたかもしれない。
「あはは、まぁまぁしてるよ。お互い部活してるから、休みの日が合えばって感じで」
泡だった髪をお湯ですすぐ慎太郎。慎太郎の背中から、流れ落ちていく水滴の様子に俺は少し見とれる。
「へ、へぇ」
「こないだなんか、初めて俺の家でデートしてさー」と話を続ける慎太郎。
俺は背中がざわつくような、もったりとした不安に襲われる。
嫌な予感がする。これ以上聞きたくない。
「へへ、初めてキスしたんだー。柔らかかったなーくちびる」
(やだ、やめてくれ……)
「それにさ、エッチはできなかったけど、フェラしてれたんだよ。あったかくて気持ちよくて、亜美の顔が健気で可愛くてさー」
俺の頭はシステムが壊れたかのように空回して、世界のスピードが倍速になったような感じがした。まるでこの世界に一人だけでぽつっと立っているかのような寂寥感に包まれて、シャワーから出ているはずの水の音も、慎太郎の声も、鈍くこもるようだった。
「明日斗?ん、んっ、ちゅっ、い、いたい」
俺の世界に音が戻ってきた時、俺は慎太郎の両腕を片手で縛るように持ち上げて、浴室の壁と挟むような形でその体を固定し、慎太郎の唇を奪っていた。
慎太郎の唇を貪るように舐め上げ、唇で食んでいく。
ちゅぱっ、ずずっ……と下品な音が欲情に響く。
「ん、明日斗、あすとぉ」
慎太郎は悲しい顔をしていた。拒否するでもなく、蔑むでもなく、ただの悲しい顔。
(なんて顔してんだよ……)
心の声で思ったつもりの言葉は、こぼれる様に音を纏っていた。
「だって、明日斗、泣いてるから」
自分の両目からとめどなく涙が溢れていることに、俺はようやく気が付いた。
(お前が……、お前が悪いんだ、全部お前が……)
俺はまた訳が分からなくなって、慎太郎の唇に貪りつく。
「ん、あすと、んっ、ちゅぱっ、あすと」
か細く絞り上げるような声が、慎太郎の口から出てくる。
俺はそんな慎太郎を無視して、その口の中を侵略するように舐め上げていく。飢えた獣のように、自分の口を慎太郎の口の中に突っ込む。
上あごのざらざらしたところ、舌の裏の柔らかいところ、歯の裏側、頬の内側の肉。
(ああ、これが慎太郎の口の中、あったかい……。唾、おいしい……)
徐々に塩気を帯びていくその唾の味は、慎太郎のものか、自分のものなのか、わからないくらい二人の顔面はぐちょぐちょになっていた。
慎太郎の涙で歪んだ顔は、俺の胸を締め付ける罪悪感よりも、さらに深い情欲の炎でかき消されていく。
涎の溜まった舌で慎太郎の唇をほおばるように口に含み、思うまましゃぶる。
慎太郎はすでにされるがままになっていて、全身から力が抜けていた。
俺は掴んでいた慎太郎の両腕から手を離すと、自由になった手で慎太郎のケツやおっぱいを揉みしだいていく。
がっしりとしていて、だけどハリがあって、柔らかいその体。揉みしだくあ度にこぼれる慎太郎の吐息に、俺のペニスは最高潮に勃起していた。
染み出るようにあふれ出すカウパーを擦り付けるように、慎太郎の太ももに擦りつける。
「う、うぐ、あすとっ、あすとぉ」
(はぁ、はぁ、慎太郎の身体。ずっとこうやって、めちゃくちゃ市にしてやりたかった、慎太郎の身体……)
俺は慎太郎の下半身に目をやる。包皮がズル剥けになっている慎太郎のペニスは、その形状を変えるそぶりさえ見せていなかった。
ずきずきと針が刺さるように胸が痛む。
(わかってる、全部わかってる……)
俺はそれでも慎太路の太ももにペニスを擦り付けてる。
(わかってる、わかってるんだ……)
慎太郎の肩を力強く掴み下に押さえつけて、膝立ちの態勢にさせる。慎太郎は力が抜けたままで、俺のされるがままに体を動かしていく。
そして俺は、慎太郎のくちびるに、自分のペニスを押し付けた。
慎太郎は泣きながら俺の顔を見ている。
さらに腰を押し付けると、俺のペニスはぬぷっと慎太郎の口内に入っていった。
信じられないほど暖かくて、ぬるぬるで、自分の手では決して得られない感覚に、脳が狂っていく。
「あが、あが、あふと、あふと」
慎太郎は、俺のペニスを噛まないようにするためか、嘔吐きながらも顎を開いている。
(わかってる、わかってる、全部わかってる)
俺は馬鹿みたいにあふれ出てくる涙をそのままに、その快楽に任せて腰を振る。
(慎太郎、慎太郎、くそ、くそっ……)
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐぽっと、フェラチオをするときにだけ聞こえる特有の音が静かに鳴り響く。
(こんなにぐちゃぐちゃな顔になっても、お前は可愛いんだな。それでも……それでも、彼女といる時には全然違う表情をしてるんだ)
「あふと、うぐっあふとぉ」
(こんなことされても、まだ健気に俺の名前を呼んでくれるんだな、慎太郎)
「ああ、あああっ、いくっ」
喉奥にどくどくと発射されていく精液は、吐き出す間もなく慎太郎の体内に入っていった。
はぁはぁ、と嗚咽まじりに泣く慎太郎。
俺が一人でしこったときとは、正反対の表情。
(わかってる、わかってる)
そして俺は、その慎太郎の顔に放尿をした。
勃起したペニスから放たれる勢いの良い黄色い尿。慎太郎はぐったりとした力のない姿勢で、目を細めるようにしてそれを受け入れた。
数秒の後、ちょろ、ちょろちょろ、っと尿が途切れていく。
汗と涙と、鼻水でぐちゃぐちゃになった顔面。俺の精子を飲んだ喉。カウパーを擦りつけられた太もも。
目も当てらないほど、俺が汚してしまった慎太郎。
「あはは」
どうしていいか分かたなくてただ佇むだけだった俺に、慎太郎は笑いかけた」
「あはは、おしっこまみれだ」
慎太郎はそう言いながら立ち上がると、力なく俺を抱きしめた。優しくて長い、全てを包み込むような抱擁だった。
「明日斗、ごめんね、ごめん、俺、明日斗の気持ち、わかんなくて……」
涙と嗚咽で目の前がぼやけて揺れる。
(ああ……。ああ、俺は、俺は……、間違えたんだ)
最後に残ったこの感情の名前を、一体なんと呼ぶのだろう。
あの日から慎太郎が家に来ることはなくなった。もちろん、話すことだってない。
慎太郎のいない、何でもない日々。
俺の問題は、何も解決することなく、時間だけが過ぎていく。
理系の教室は、知っている奴もいれば、名前だけ知ってるやつ、名前は知らないけど、顔は見たことあるやつ、など色々いて、よくも悪くも新鮮な気持ちにさせられる。
人はこうして、過ちや諦めたものを増やしながら大人になっていくのだろうか。
窓から吹く風から、知らない花の香りがやってくる。
粟色日和 なんかかきたろう @nannkakakio
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