犯人は隣人でした
加藤裕也
犯人は隣人
「最近物がよく無くなってて」
「何それ?物忘れ?」
「違うよ!そういうのじゃ無くて」
聞いた事はあるだろうか。あるアパートに住む人は、必ず物が少しずつ無くなっていくという噂を。
「何がなくなってるのさ?」
「その、、ドライヤーとか、指輪とか、ネックレスとか、」
「ドライヤーはよく分かんないけど、それ空き巣に入られたんじゃない?警察行った方が良いよ?」
「で、でも、そ、それに、、その、下着、とか、も、無くなってて、」
「うっわ変態じゃん」
そしてその物が無くなっている原因はストーカーの隣人だという。
それからその人物は引っ越す事にし、そのアパートを後にした。だが、その隣人の素性は分かっていないという。部屋に住む人間が変わっても、それが終わる事はない。
そして今日も、そのアパートに新たな
「どう!?面白そうじゃ無い!?」
「...ん?ああ、悪い。聞いてなかった」
「ちょっとぉ!?」
昼下がりの学校。昼ご飯を静かに、一人で食していた
「今回はどんな事件なんだ?」
「さっき話したでしょ〜。隣人に物を盗られるの!」
美咲はミステリー好きの幼馴染である。そのため、探偵部。を作ろうとしたが探偵同好会になってしまった部活の部長をしている。いつも変な噂や事例を話してはその場に行ってみようと言うのだ。
「隣人に物を盗られる。...それもう話終わってるくね?」
「いやいや!分かってないなぁ。その隣人は捕まって無いし、調べすらされてないんだよ?不思議じゃない?」
「確かに、警察に届けないのはおかしいな。下着くらいで」
「ま、まあ、、下着は気にするかもだけど、、というか、ちゃんと聞いてるじゃん!しかもそれ、入居者が変わっても続いてるんだよ?ストーカーでもないよ」
いつもの様に、そんな何気ない会話を繰り広げていた。その時だった。
「はぁ、はっ、はぁ、、美咲、、どこ行ってたの?」
「えっ!?あ、ああ、、ずっと、ここに居たよ?」
「逸れないでって言ったのに、」
突如割って入ったのは、美咲の友人。
「で?何の話してたの?またミステリー?」
「え?あ、、あー、いや、そうだね、」
「分かった」
「「え?」」
二人が小声で会話を始めた瞬間、龍也は机に手を置き立ち上がると、声を上げた。
「その調査、してみようか」
「っ!うん!行こー!」
☆
音速で決まったそれに乗っかり、放課後三人は例のアパートに来ていた。
「ここが、、か。なんか思ったより綺麗だな」
「でしょ?そうなんだよ〜、、もう少し薄汚い方が味が出るのにね」
「...なんて事話してるの」
二人でアパートを見上げ話す中、祐実は心底嫌そうに息を吐いた。
「嫌なら来なければ良いだろ?」
「美咲が居るのに。来ない筈ないでしょ」
「フッ、ぼっちめが」
「取り消しなさい」
二人でそんなやり取りをしたのち、龍也は改めて口にする。
「で?来たは良いがどうするんだ?」
「あ、そうそう。このアパート。住まないと物が無くなるとか分からないみたいなの」
「ああ、それは聞いたが。住人に聞くって言っても、どこの誰かも分からない俺らの話を聞いてくれるか?」
後先を考えないのが美咲の悪い癖である。故に、龍也は首を傾げると共にそれを訊く。と。
「大丈夫!だから私、ここに住みました」
「「えっ」」
美咲の後先考えないというレベルでない発言に心底驚いた表情で、二人は声を漏らした。
☆
美咲の案内により部屋に到達した一同は部屋に入る。
「お邪魔します」「お、お邪魔、します」
中は至って普通の1LDKであった。正直広い。憧れである。
「お、おお」
「何キョドってんの変態」
「一人暮らしの女子の部屋だぞ?」
龍也がニヤニヤとし放ったのち、部屋の物を見て目を細める。
「...なんか、違うな。美咲っぽくない物ばかりだ」
「あはは、私の部屋来てたのいつよ〜。もう私も大人だし持ち物変わるって」
美咲はそう笑みを浮かべる。昔から、両親のいない美咲の家には良く出入りしていた。高校に入ってからは、今まで様子を見に来ていた祖父母も亡くなってしまい、何かあったら呼んでくれと、龍也がその代わりをしていたのだ。幼馴染の特権というものだろう。最近居ないと思ったら、こんなところに引っ越していたのか、と。龍也は理解する。すると、対する美咲は本題に入ろうと手を叩く。
「じゃあ、始めよっか!」
「はい」
「なんですかワトソン君」
「誰がワトソンだ」
意気込む美咲を遮って龍也が手を上げ放つ。
「美咲の部屋は何か無くなったりしてないのか?」
「良い質問だね!私の部屋はそういう事はまだ無いの!来たばっかだからかなぁ」
その返答にそうかと呟く龍也を、背後から睨む祐実。先程の発言のせいか、視線が痛い。そんな一同を置いて、美咲は改めて切り出した。
「じゃあ!聞き込み開始っ!」
☆
美咲の言う聞き込みはおよそ一週間にも渡った。まず美咲の住む部屋の隣人を調べた。このアパートのどの部屋でそれが起こっているのか。それを明らかにしなければと考え、一つずつ部屋を調べる事にしたからだ。
幸い、隣人という肩書故に話を聞く事が出来た。すると、なんと一発目から最近物が無くなっているとの話を受けた。やはり、このアパートの噂は本当なのかもしれないと。龍也は興味深そうに目を細めた。ちなみに、怪しまれると困るため、我々も盗まれている事にした。
「まさか隣でもう物が無くなってるとはな」
「ほ、本当なの、?」
祐実は、顔色を悪くしてそう呟く。どうやら、噂は虚言だと割り切っていた様だ。正直、龍也もそうだったのだが。
「じゃあ犯人その隣じゃん。終わったな。話」
「終わらせようとしないで!聞いてみなきゃ。分からないよ」
「え、、聞くの?もうやめようよ、」
「祐実はビビりなんだな」
「うっさい」
そんなやり取りをする中、美咲は納得はいかない様で、その部屋の更に隣へと向かう。気が気でない様子の祐実を他所に、段々とノリ気になってきた龍也もまたインターホンを鳴らす。
が、その部屋の人もまた。
物が無くなってる。そう言うのだ。
「ど、どういう事だ、?」
「隣人の隣人も、、盗まれてる、?」
ミステリーだと思っていたものが、オカルトになっていった。恐怖心が湧き始めた龍也を差し置いて、好奇心が勝ってしまった美咲は他の部屋の方にも話を聞こうと言い始めた。部屋の方よりも前に人の話を聞いてほしいものだ。祐実と龍也は、お互い嫌々ながらに仕方なく頷くのだった。
そして、現在に至る。
一週間をかけ、アパートの住人全員に聞き込みを行った。その結果、一つ驚きの事実が発覚した。
そのアパートの全員が、物を盗まれているのだ。
隣、また隣と。聞き込みをし続けた結果、皆口を揃えて無くなっている物があると言うのだ。警察に相談しても中々本格的に動いてはくれないという。正直、警察側も証拠も無ければ動機が分からないのだろう。手付かずといった感じだ。
だが、それを続けた結果。何かが判明した気がした。その予想を、確信にするべく、龍也はそう口にした。
「ここの隣は誰が住んでる?」
「え?私の家の?それは、前にもいってーー」
「そうじゃない。この"アパートの隣"だ」
「「!」」
龍也の言葉に二人は目を剥く。隣人は、ただとなりの部屋の人物だけを指すものでない。即ち、このアパート自体の隣人である可能性がある。そう結論づけたのだ。
「そう、かも、、なら、もう警察呼ぼうよ、」
「今の状況で俺らの話なんて聞いてくれるはずないだろ。案内してくれ」
「...でも、」
「右隣は空き家だ。左隣の家が怪しい」
「隣の人と、、話した事ない、から、」
「怖いのか?珍しいな。いつも初対面でも元気に話す美咲が」
「...」
そう。龍也が何かに勘づき始めたのは、これもあるのだ。最初はあそこまでズカズカとこの事件に首を突っ込んでいた美咲が、段々と警察に頼ろうとばかり口にする様になっていたのだ。
「こんにちは。お隣のアパートに住む美咲の友達、龍也と申します」
「...何か用?」
「少し、中を見せてもらいたく思いまして」
「なんで他人に」
無理矢理案内させた隣人に挨拶をする龍也。ドアの向こうから現れたのは、少し小太りなおじさんであった。その人の顔を凝視しながら、単刀直入に放つ。直球過ぎただろうか。だが、問題なのはそこではない。龍也が一番見たかったものはーー
「...」
その隣人の、反応である。
「...お知り合いですか?」
「え?誰が?」
「美咲さんですよ。今、顔を見て少しハッとしませんでした?まるで知ってる様な顔をしてましたけど」
「あ、ああ。隣のアパートの人だからね。朝散歩をする時に良く会って話してるよ」
「「っ!」」
やはりか、と。龍也は目の色を変える。
「おかしいですね。美咲からは話した事無いから行きたくないと、話を受けてました」
「!」
「それなのにも関わらず、貴方は目の前の俺よりも先に美咲に反応して。更に、そこからゆっくりと隣に目をやりましたね」
「クッ」
その発言に、歯嚙みしたのち。
突如そのおじさんは声を上げる。
「そうだ!俺が犯人だ!隣のアパートの物を盗みまくった!警察でも呼べよ!調べてもらえよ!金になりそうなもん盗んで、更には下着も盗んで、、いやぁ、最高だったよぉ、スリル感あるし、可愛い子が多いから、その子を思いながらその子の物を触ってると、こっちもーー」
「何言ってるんですか?」
「え、」
「誰も盗んだ話なんてしてませんよね」
龍也は息を吐いてそこまでを告げると、踵を返して皆に向き直る。そこにいた美咲は顔色が悪く、祐実もまた何かに気づいた様に冷や汗をかいていた。そんな二人の顔を見据え、龍也はそう切り出した。
「とりあえず、美咲の部屋に戻ろうか」
☆
例のアパートの一室。美咲の部屋に皆は集まる。この光景は、まるで犯人がこの中に居ると言わんばかりの配置である。その真ん中に、どこぞの名探偵の如く佇む龍也は、一同を見回したのち、そう口にした。
「ずっと、おかしいと思ってたんだ。この部屋に、来た時から」
「...」「...」
その発言に、美咲は勿論。祐実もまた震え、鋭い目つきで龍也を見据えた。それを横目に、龍也はある仮説を放つ。
「これは、あくまで俺の予想だ」
と、前置きをして。
「このアパートの噂。流したのはお前だろ?美咲」
「...」
目を向ける龍也から逃げる様に、視線を泳がす美咲。
「そして、物を盗んだ犯人はあのおじさん。名前は、」
「た、
「そう!田辺さん。田辺さんで間違いない」
隣の家の表札故に名前は把握していた。それを確信であるかの様に放ったのち、龍也は少し間を開けてそれを告げる。
「だが、真犯人も居る。いや、黒幕といった方が正しいか」
「...」
「それが、このアパートに住んでいるのにも関わらず、物が何も盗まれてない。美咲。お前だ」
「「!」」
美咲を含めた二人は目を見開く。だが、祐実の方はどこか察していた様子だ。あそこまでの変貌だ。分からないわけがない。
「そして、ここからが本題だ」
その急変ぶりを経て察したそれを、龍也は本題と題して伝える。
「別に盗まなくても普通に暮らせていた美咲が、こんな事をする理由があったんだ。それは」
龍也はそこまで告げたのち、祐実に目をやり睨みつける様にして放った。
「お前が、"美咲をずっと監禁してた"んだな」
「...クッ」
それを受けて、祐実は拳を握りしめ歯嚙みする。
「美咲はずっと祐実に監禁されていた。この家は、美咲の部屋じゃ無いな?」
「...」
沈黙を貫く祐実とは対照的に、無言で震え、目に涙を浮かべながら美咲は頷いた。
「変だと思ったんだ。いくら高校生になったからって、俺はずっと一緒だったんだぞ?ここまで物が変わるはずが無い。その時は確信では無かったが、美咲のあの反応で理解した」
龍也は今度は美咲に向かって近づき、崩れ落ちる彼女の目線に合わせてしゃがみ込む。
「祐実に監禁されている事を、みんなに知って欲しかった。祖父母が亡くなり、自身が居なくなっても誰にも気づかれない毎日で、密かに助けを呼ぶために。犯罪を犯し警察に目を向けて欲しかった。だからこそ、俺が真相に辿り着きそうになってから、急に警察を呼ぼうと意見を変えた。...ちがうか?」
「う、うぅっ、、うぅ!」
美咲は大粒の涙を流しながら、頷く。それに、龍也が納得した様に立ち上がり、犯罪者である祐実に体を向ける。と、その時。
「ただ、、ただ祐実に監禁されてる事を伝えたかっただけなの!ごめんなさい、、田辺さんにまで迷惑かけて、、ごめんなさい、」
突如声を荒げ、崩れ落ちる。そんな美咲に、龍也は見下ろす様にしながら小さく放つ。
「田辺さんには、、君から言ったのか?」
龍也の短い問いに、美咲は地面に手をついたまま首を横に振る。
「ずっと誰にも頼れなかった。高校に入って少しした時、いつもみたいに、祐実と遊んでたら、、突然クローゼットに閉じ込められて、、それから少ししたら、別の部屋に移動させられて、、そこからずっとその部屋だった、」
「...」
龍也は無言で、祐実を睨みつける。対する祐実は、苦しそうに唇を噛み左手で右腕を強く掴む。そんな一同を差し置いて、美咲は更に続ける。
「部屋から出してもらえたのは数日後だった、、学校で、私結構休んでた時期あったでしょ?あの時、実はずっと監禁されてたの」
あの時かと。不可解に感じていた龍也は、謎が解けハッと目を見開く。だが、その後学校に顔を出した時は、平気な顔をしていた。それは、皆に心配をかけたく無かったからだろうか。いや、恐らくそれが出来ない程、追い詰められていたのだろう。
「その時だったの。私が朝、祐実がトイレに行ってる時に逃げようと思った時。田辺さんに出会ったの。どこに逃げるかすら考えていなかった私の話を、田辺さんは聞いてくれた。そして、警察に逃げても証拠が無くては見つけてもらえないって言われたの」
田辺との出会いを語る中、睨みつける龍也に返すように、祐実もまた鋭い目つきで見つめ返していた。
「警察も来てくれない、、誰も気づかない、、だから、家の物を盗めば警察沙汰になって、、田辺さんがこの事を話して、、それで、隣で監禁されている事も、分かると思うから、、それまで。現行犯に出来るよう今は捕まっていなさいって、、話を持ちかけられたの」
「それで、、それだけじゃ大して気づかれなかったから、噂を流して、更に俺に促したわけか、」
「ごめんなさい、、ごめんなさい、」
「...」
美咲の話を黙って聞いていた龍也は、そうまとめると、息を吐いて美咲に近づいた。
「怖かったな、、俺こそごめん。気づいてあげられなくて、」
「う、うぅ、、龍也のっ、龍也のせいじゃっ、ないからっ」
未だ泣き崩れている美咲に手を出し起き上がらせると、彼女の背中を摩りながら、龍也は祐実を睨みつけてそう口にした。
「警察には話をしておく。二人の証言があれば、、いや、田辺さんを含めた三人が居れば、警察も少しは耳を貸すだろう」
「っ!や、やめてっ!お願い!やめて!」
龍也がそう言いながら、美咲と共に部屋を後にしようとする姿に、祐実は声を荒げ手を伸ばした。
「やめて!お願い!」
じゃあな。と言うように扉を閉める龍也に、祐実は必死に走り向かう。が、彼女が追ってドアを開けた、その時。
「はぁ、はぁ、、やっぱり、君が美咲ちゃんを監禁してたんだね」
ドアの前で祐実を取り押さえたのは、田辺であった。
「はっ!?離してよ!?早くっ追いかけなきゃっ!いけないのに!」
「行かせない。美咲ちゃんのところには行かせないよ。君は、僕と一緒に自首しよう。そうすればーー」
「勝手にっ、やってろ!」
歯嚙みして、遠ざかっていく龍也と美咲の姿を見据えながら、祐実はそう怒声を上げる事しか出来なかった。
☆
その後、美咲の家に二人で戻り、リビングで落ち着きを取り戻した彼女に龍也は歩み寄った。
「本当にごめん。これからは、俺が美咲の家に一緒に居る。だから安心してくれ」
「えっ!?それって、」
安心感よりも先に、美咲は顔を赤くし声を上げる。それに、龍也は笑顔でーー
「ああ」
ーーと返し。
「そうだよ」
「えっ」
美咲の腹に、台所にあった包丁を突き刺した。
「かっ!?えっ!?えぇっ、な、なんっ、ごはっ!なんでっ!?たつ、、龍也ぁっ!」
段々と弱くなっていく美咲の声を聞きながら、龍也は冷たくなっていく身体に尚もナイフを突き刺す。
「お前のせいでっ!お前のせいでクラスで除け者にされた
龍也は息を切らしながら、ただただ作業の如く、怒りすら忘れて刺し続ける。その後、ゆっくり立ち上がると、赤黒く染まったナイフを手に天上をみつめる。
「はぁ、、やっとだ。高校になって、あの邪魔な老耄が居なくなってくれて、やっと守る奴が居なくなったと思ったら、、まさか祐実がそれに気づいちゃうなんてな。ずっと隙が無かった。祐実のせいで、、逃げたのかと思ったら監禁してるとはびっくりだ、、そりゃそうだよな、美咲が俺の本性分かるはずない、、祐実も話したら信じてもらえなくて、今日みたいに除外されると思ってたのかもしれないな、、でも、良かった。これで、、俺も、、やっと奏のところに、行ける」
そんな遺言を残すと、龍也は笑顔でその場を去った。
犯人は隣人でした 加藤裕也 @yuuyakato
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