第2話 夢刻旋律
「んむぅ……あさ?」
寝起きからなのか、滑舌が悪くなっている奏多は目を開けながらそんな事を言う。
まだ寝たい、眠たいという気持ちを抑え、目を擦りながら階段を降り、リビングへと向かう。
「おはよ……あれ?父さんも母さんもいない」
少し時間が経ち、滑舌が治ってきた奏多は、父親と母親が居ない事に驚く。何か書き置きが無いか、と思い、色々な所を探っていると、机に書き置きがおいてあった。
「おにぎりが置いてある……さっきのヤツか」
奏多は先程、おにぎりがあるのを見ているのだ。しかしあれは食べていい物か、と思ってしまい、食べる事をやめたのだ。けれども、食べて良いと分かった今、奏多を止める者は誰にも居ない。天亜と
朝ご飯を食べ終わった後、奏多は外に出ていた。天亜と白玖の許可にしても、三週間前に自分でも外出をして良いと、降りている。不審者が出る可能性もあるにはあるが、奏多はブザーをポケットに閉まっており、注意度も他の者、大人よりもある為、捕まる可能性も少ないだろう。
奏多は、鼻歌を歌いながら歩いていく。ピアノとは違う音の美しさを持っているこの鼻歌に、嬉しい気持ちになりながら。
奏多が音とは綺麗で、素晴らしいものだと気づいた日、つまり昨日から、周囲の声、風音、そんな些細な音が心地よく感じる。意図して音を出さなくとも、音は、旋律は其処にあるのだと感じられるからだ。
上機嫌に鼻歌を歌っている奏多、その奏多の頭に頭痛が走る。
(まただ、今日だけで三回目だぞ。昨日の夜で一回。一回寝てから、頭痛が四回も走っている。何も記憶が無いから、夢を見ていなかっただけだって、思ったんだけど……夢を見てないんじゃなくて、忘れたのか。いや、忘れさせられた?)
奏多がそう考えると、先程よりも更に大きな頭痛が奏多を襲う。
なんなんだこの頭痛は、奏多がそう悩んでいると、此処の商店街の奥から、『ピー』という音が聞こえた。機械などで発生された音ではなく、まるで秘匿されたような音が頭に響く。
その音に奏多が動揺していると、今度は爆発音が聞こえた。先程の音は周辺の人間には聞こえなかったようだが、今回の爆発音は周辺の人間達にも聞こえたようで、慌てて逃げ出す。奏多も逃げようとするのだが、足が動かない。奏多は今、恐怖を感じてはいない。
どちらかと言えば、足が動かない、この状況に恐怖をしている。
『ピー、ピー、ピー』
そんな秘匿音が、奏多の目の前、いや、頭上から生じる。奏多は先程には感じていなかった恐怖で体を震わせながらも、上を向く。すると其処には、体全体が黒いモヤで見えない人型が居た。
「貴様か、今代の旋律は」
「今代の旋律……?」
突然、黒いモヤの言っている事が理解できた。しかし今はそれよりも『今代の旋律』という言葉の方に意識は向いていた。
「ふむ、やはり今代の旋律か。まあ、良いだろう。旋律、その謎を答えてやろう。旋律とは、王でもあり、天でもあり、魔でもあり、神でもある。分かるか?旋律とは危険因子なのだ。音という概念があるから旋律が生まれる。だから、消すのだ」
(け、す?此奴、今なんて言った?音を、旋律を消すと?旋律が危険因子な訳が無い。前代の旋律が暴れてて、それをお前らが勝手に危険因子だって、定めているだけだ。旋律は自由で、無垢で、危険かどうかなんて、使い手によって変わる)
許せなかった。奏多は許せなかったのだ。旋律を勝手に禁忌みたいな扱いをして、音を壊そうとする者が。
奏多は旋律を何も知らない。どういう未来があるとか、どういう過去があるとか、そんなのどうでも良い。ただ、今は此奴を潰したい。倒したい、音を壊すのを止めたい。
そんな戦闘の意思が、奏多を旋律へと導く。旋律の扉が開かれる。
奏多の旋律は、『模倣の旋律』。
「……!?旋律に今目覚めたのか!?しかし目覚めたばかりならば今殺せば良い!」
黒モヤはそう言いながら、奏多に向かって手を伸ばす。頭蓋骨を壊す気か、心臓を奪い取るつもりだろう。しかし奏多はその攻撃に引っかからない。小さい身長を生かし、黒モヤの足を通り抜ける。
奏多は旋律に目覚めたばかりにも関わらず、強化されている身体能力を使いこなし、黒モヤから逃げる。
この身体能力ならば、あの黒モヤと戦えるが、勝ちはしない。だから逃げるのだ。しかし、奏多は諦めた訳では無い。むしろ勝ちを常に探っていると言っても良いくらいだ。
『
黒モヤが発動した魔法、黒木が奏多を捕らえようと狙うのだが、奏多の速さが上なので、捕まれるどころか掠りもしない。
奏多は頭上から狙ってくる黒木を避けた後、その黒木の横に足を付け、足に力を込めて移動をする。
建物を次から次へと移動して黒モヤを翻弄する。
「そこか!」
黒モヤの後ろに回った時、奏多は態と音を強く鳴らし、其処に居るぞと言っているような行動をする。
奏多は先程よりも更に速さを強くし、黒モヤの懐に回り、右拳を奥にし、左手を被せて構える。そして一閃。
右拳の攻撃を喰らった筈の黒モヤは、すぐに立ち直り、奏多の方向を向いた。咄嗟に魔力を腹に回し、威力を最小限、とはいかなくとも、少なく抑えたからだ。
「速くなっている。成長しているとでも言うのか!?」
否、成長しているのではない。奏多が旋律に覚醒して増大した身体能力に適合してきたのだ。
とは言っても、旋律覚醒をした者達が全員この身体能力な訳では無い。旋律の試練が近づく度に、身体能力が上昇しているが、それでも桁違いなのだ。前代の『欲望の旋律』も身体能力は高い方だが、今代の旋律である奏多、『模倣の旋律』には数段劣る。
黒モヤは両手を奏多に向け、光線の魔法を放射する。しかしその光線は奏多には遅過ぎる。まだまだ成長途中であり、身体能力を更に強化をする事ができる『欲望の旋律』、『闘志の旋律』、『暴風の旋律』、『加速の旋律』……などには速さは負けるが、それでも恐ろしい速さである事に変わりない。
奏多は黒モヤの横腹に回り込み、右手を銃の形にして、魔法と言うには不完全な、魔力を収束させただけ技を放射する。
旋律神バルタニア 鋼音 鉄@高校生兼カクヨムコン参加中 @HAGANENOKOKORONINARITAI
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