旋律神バルタニア
鋼音 鉄@高校生
第1話 新神生堕
音とは、なんなのだろうか。
人が定めた概念である。
様々な生物が発する機能を持っている。しかし、この音に意味を与えたのは人間だ。音とは言葉、言葉とは思い。
だからなのだろうか、純粋な神からでは、音神は生まれない。しかしだからと言って人から神に成った者が高確率で音神になる、という事ではない。
ならばどうするか、音神、いや、旋律神の適正に合った人間を転生させる。
これは自分自身の音で皆を笑顔にする、そんな旋律神の物語だ。
2084年3月21日13:42頃、ある白髪の少年が其処に居た。名を
「父さん、何処に行くつもりなの?」
「うん?行ってなかったか?演奏会だよ」
奏多は自身の父親、音柄
しかし、自身の為に考えてきてくれた、そんな事を行く前から知っていた。忙しいのにも関わらず、なのにだ。だから、今回だけは文句を言わなかった。
演奏が始まり、音楽が始まる。
奏多は拳を強く握りしめる。思っていた通り、だったからでは無い。そうだとしたら、やっぱりこんなもんか、と思い、ため息を吐くだけになるだろう。
(音楽なんて、僕には遠い存在だと思ってきた。なのに、なのに……!心がどうしてこんなにも踊るんだ。どうしてこんなに美しいと思うんだ!)
演奏が続いて、続いて、続く。楽器一つ一つが、奏多の心を踊らせる。
奏多はその音楽に、夢中になった。心の底から楽しめるような、そんなものに出会ったのだから。それは当然と言っても良いだろう。
「どうだった。演奏会は」
「すっごく綺麗だった。美しいものってあんなに心が踊るんだね。いや、違うか。音楽だからあんなに心が踊るんだ。音楽ってすごいね、父さん」
「だろ、音楽はちょーすげえんだ。音楽家の俺の息子だからな。気にいると思ったんだよ」
天亜は奏多の言葉に、へにゃりと、顔を緩ませた。自分の息子だから同じ趣味で嬉しいとか、そんな事じゃない。昔からなんでも出来てしまったばかりに、夢中である事など無かった。しかし今、奏多は音楽という、夢中になれるものを見つけれたのだ。
「家に帰って、早速父ちゃんとピアノをやってみるか?」
「やる!」
「ここはこうなっててな?これを押すとこの音が出んだよ。……やってみるか?ピアノの基本は教えた」
奏多は天亜の言葉に頷いた後、父から貰った楽譜を一通り見て、ピアノの鍵盤を指で押す。始めたばかりのじぶんで自分でも、あの美しい音色が出せる一歩を進めたと思うと、奏多は感動が心の中で溢れていた。しかし手は止めない。
あの人達は絶対にそれだけでは止めないだろうから。
引けば引くほど、ピアノの音で奏多の耳は満ちていく。まだまだあの人達には劣る。
そんな音でも、今の奏多には音楽の才能ボルテージを上げる要因にしかなり得ない。数々の指がピアノの音楽を奏でる度に、奏多は先に行く。
「どう、だった。父さん」
「初めてとは思えない程に良かったぜ」
バテ気味の奏多の言葉に、天亜は満面の笑みでそう答える。音楽家の父親にそう言われ、安堵の気持ちになりながらも、奏多の意識は闇に堕ちる。
「君はその音を、その旋律を何に使う?」
奏多そっくりの少年が奏多に問いかける。奏多との違いと言えば、瞳である。奏多は両方碧眼なのだが、奏多に似た少年は金眼なのだ。
奏多はその少年の言葉に答えようとするが、声が出ない。声帯、その機能を全て奪われた感覚に襲われた。奏多は不安を抱きながらも、少年の言う事を聞く。
「奏多、君がどんな選択をしようと、運命は無慈悲にもやってくる。君はどんな悪行を、善行をしたとしても、戦わなければならない。世界はそうで無くては許さない。再び問おう、奏多。君は自身の旋律を何に使う」
奏多はどういう事なのか、訳が分からなかった。何故自身の旋律をどう使うかで、そんな大規模な話題になってしまったのか。
「答えない、か。いや、答えられないの間違いか。今の君、いや僕は其処まだ到達していなかった。それは此方の僕も同じだったから、其方の僕も同じという事か」
此方、其方、何を言っているのか、益々分からなくなってきた。此奴は並行世界の僕だとでも言うのか、そんな思考が奏多の中に生まれる。
しかし、それならばどうして瞳の色が違うのだろうか。奏多はそんな疑問を抱えるが、それはすぐに解消した。並行世界なのだから、自分とは少し違うのは当たり前ではないか、という思考が生まれたと同時に。
「並行世界じゃない。並行世界は同じ時間軸にある。けど僕は同じ時間軸から来た存在では無い。だから正確に言えば
並行時間変幻世界、初めて聞いたその言葉に、奏多は驚愕を露わにする。
奏多がその言葉を飲み込めてから数秒後、この目の前の少年が未来の、それも並行世界から来たのだと理解をした。
「ようやく飲み込めたようだね。……僕は旋律を己の欲望の為に使用した。その結果が、これ。大切な人達を全て失って、後悔と絶望に溢れている。今僕の手にあるのは名誉のみ。昔は本当に欲しかったのに、今では心の底からいらないと思っている」
目の前の少年は目を細めながら、懐かしむようにそんな事を口にする。
「旋律は裏切らない。ただ、自分の行いが、帰ってくるだけだ」
(そうか、そうだったんだ)
奏多は少年の言葉に、心の中で埋まらなかったピースが埋まった気がした。音楽に触れてから、少ない時間しか経っていない。けれどそんな奏多にも分かっている事がある。音楽は裏切る事はない。裏切るとしたら自身の行いだ。
それが信じられなかった、旋律を自身の道具として考えていなかったのだ、少年は。
(当たり前でしょ。音楽、旋律は無垢と言ってもいいくらいだ。欲望のままに行動しているからこんな事になるんだよ)
「厳しいな……真実だから何とも言えんが。欲望に負けんなよ。欲望に負けたら自分が自分じゃなくなるぞ」
経験談からか、本気で注意している様な視線を向けながら、そんな事を口にする。
奏多は一瞬、そんな事は無い、と言う考えが生まれたのだが、即座に消え失せる。人はその驕りで、堕ちていくのだ。
「覚悟しろよ。最初の旋律の試練から、僕の旋律までどんどん短くなっている。今代の旋律であるお前の旋律の試練は更に短くなっているだろう。もしそうなっているのなら、時間はギリギリどころじゃない。足りないんだよ。だから、少し細工をさせてもらう。今度はいつになるだろうな」
少年は奏多の額に指を当てながら、そんな事を発する。
奏多が最後の言葉を聞き終わった後、鈍い頭痛が奏多の頭に現れた。その頭痛に奏多は意識を保つ事は出来ず、倒れてしまう。
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