幕間
第27話
クルーズ船は大混乱に陥っていた。船内放送が鳴り響く。
『戦闘になる可能性があります、乗客の皆様は各自の船室で待機をお願い致します。本船は十分な装甲と武装を備えており、安全な――』
甲板でタバコを吸っていたアスターは、水平線の向こうから近づいてくる戦闘挺の群れを睨んだ。
「海賊?」
他の乗客たちは、大慌てで船内に引き返してゆく。アスターもまた、自分に出来ることは何もないなと察し、船室に戻ろうとした。だが彼の目の前で、船客の1人、車椅子の女が倒れた。
「きゃっ……!」
アスターはすかさず駆け寄り、女を車椅子ごと助け起こしてやった。盲目なのか目を瞑ってはいるが、美しい顔立ちの女であった。長い黒髪は絹のように滑らかで、ほっそりした肢体の胸元はしかし、豊満であった。
「ヒュウ! 大丈夫かいお嬢さん」
「え、ええ、ありがとうございます。……あの、申し訳ないのですが、避難を手伝って頂けますと……」
「もちろんさ」
アスターは車椅子を押し、彼女を船内に連れて行ってやった。廊下を走っていると、向こうからスミレが駆けてきた。
「アスター、マズいわよ! ……って誰、その人?」
「お困りのようだったんで、エスコートしているところだ」
「……。それは結構なんだけど、外の状況がマズいわ。今この船に向かってきているのは――」
その時、爆発音が鳴り響き、船が大きく揺れた。なんらかの攻撃を受けたようである。
「ぬわーっ!?」
スミレの軽い肢体は吹き飛ばされ、床をゴロゴロと転がった。アスターは車椅子の側面を壁に押し付けてやり、自身は床に伏せてストッパー代わりになってやった。
「大丈夫か、スミレ!?」
「……あんのクソ海軍どもがーッ!」
スミレは頭を振って立ち上がりながら叫んだ。
「海軍?」
「そうよ、海賊なんかじゃない! 南軍の海軍! たぶん下請けなんでしょうけど!」
この船は今、北アメリカを目指していた。アメリカは今現在、北方と南方の企業連合に分かれての冷戦状態にあった。とはいえここ数年は武力衝突は殆ど起こらず、北アメリカと日本を繋ぐ航路は比較的安全であった。
「何故南軍がこの海域に?」
「そこまではわからないわ、遠距離通信はジャミングされている。でも撃ってきたってことは、戦争が再開したってことでしょうね」
スミレの眼内ディスプレイに文字列が踊った。船内の通信を傍受しているようだ。
「……ダメージコントロールが上手くいってないわね、これ。ヤバい」
「つまり?」
「沈みそう」
再び、爆発音とともに船が揺れた。
サイバーパンク叙事詩:吸血鬼の追憶 しげ・フォン・ニーダーサイタマ @fjam
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