氷が溶けたとしても

「俺」を閉じ込めようとする氷も、いずれは溶けて還る。
それを知りながらも頼らずにはいられなかった先輩は、思い出すという行為が必要がないくらい、ずっと意識的に回顧しているひとだから、それを当たり前としているからこそ、思い出すための装置に対して苛立っている。
この瞬間に氷が溶けて、雨になったとしても、先輩はあらゆるものを一度手放して、「もうちょっとお前の話聞いといたらよかった」ことを思い返して、「俺」だけとただ向き合う時間を持てるひとなんだろう、と思います。

読み終わった後、何度もこの作品のことを思い返していました。夏なのにくすんだ色で、テキトーなことを言ってくる先輩なのにずっとうつむいていて、からだはだるいままで。だからこそ、ゆっくりと顔をあげられるような文章で、心が平静になりました。