さて、私が本作を読んで最も面白いと思ったのは小説としての構造と構成の美しさです。
第1話からこの作品が貴種流離譚である事を明示する事によって異世界転生と悪役令嬢という2つのジャンルと宗教改革という複数のテーマを巧みに連動させ、背景世界や登場人物といった細部ではなく物語という要部を読ませ魅せる点などは描写の丁寧さと設定の細やかさが両立して初めて成立する面白さです。
特に、転生者としてのオレリアの描写を活かすための社会、文化、生活、宗教の基盤描写は秀逸の一言。
異世界転生モノの面白さは前世と今生の常識の差によるギャップだと思いますが、本作においてはそこに読者との間に教養の深度差というもう一つのギャップを挟む事によってオレリアだけではなく読者をも『貴種』として流離譚の内側に巻き込もうとする二重構造の演出は、ちょっと他の小説で読んだ記憶がありません。
また題名に謳われる『悪役令嬢』『宗教改革』は恐らくこの先の4〜5章にかけて展開すると思われるのですが、現時点で公開されている伏線から読んでも世界史の授業の残り滓みたいな記憶から推測しても相当に濃く深く趣深い展開が予想でき、とても楽しみです。