複雑な世界観と、繊細なストーリー

主人公の視点で描かれるこの物語は、言葉にすれば奇妙なひとりの女性と出会い、惹かれていく、それだけの物語だ。

作中、女性は突飛な発言を繰り返し、しかし主人公がその発言を信じたことで、二人の関係の外側に、壮大なファンタジーが描かれていくことになる。
この作品はそんな構造が魅力的で、外側の虚実を確かめる術を持たない主人公と読者は、自身の想像によって女性に振り回されてしまう。
目の前にある日常的風景と、想像の線の向こうにある背景の強烈なギャップに、物語の顛末を読みたいと思わされた。

主人公の心理描写の繊細さも、そんな構造を物語に落とし込むことに一役買っている。
言葉ひとつで語れる感情の正体と、じっくりと向き合い、浮き彫りにしていく様は、心の有様の美しさそのものだ。
この物語の結末を知りたいという原動力が生まれるのは、この繊細さあってのものだろう。

複雑な背景の細かな部分は注釈として書かれていて、これも個人的には嬉しかった。
これを作中に置かれると、物語を読み解くのに必須かと考えてしまい、読解に大きな労力が必要になってしまう。
こういった壮大な設定はどうしても作中で語りたくなってしまうものだが、それを最低限に抑えてあることは個人的に好ましかった。

多少、人を選ぶ作品ではあるが、この物語は短編であり、多くの時間を求められるものではない。
読書中、自身の想像力に振り回されてみたい人に、ぜひこの作品を薦めたい。

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