第5話 秘密の誓い
任務後、特に何事もなく基地に帰投できた。
回収された武器は
ASCAによって保管されると言う。
弾薬は5000発ほど見つかった。
RPG弾薬もそれなりに見つかったらしい。
これだけの数を良く密輸出来たものだと
情報部は感心していた。
保護した女子中学生は
精密検査を受けていると聞いた。
保護者はと思ったが女子中学生が
保護者に会いたくないと希望しているらしくASCAで身柄を保護する事になった。
どうも親がかなりの虐待気質らしく、
事ある毎に女子中学生を
奴隷の様に扱っていた。
学校でもいじめが多く、
性的ないじめも何回か喰らったらしい。
家を出たく、学校ではいじめを喰らう。
彼女にとって居場所が無かった時に
ASCAで保護された。
担当者が彼女の完全なる保護と
安心を告げた時号泣した。
無理もないと瑠衣は思った。
幸いにもASCAでは
学校法人の運営も行っている。
受け入れるのは諸事情により
地元の学校に通えなくなった子どもたちだ。
フリースクールのようなイメージだろう。
組織の学校に通えば、
地元の学校を卒業した事になる。
義務教育はそこで終える事が出来た。
当然そこでいじめは無い。
いじめを受けてきた者しか居ないからだ。
だが用心する事に越したことはない。
組織の学校では特別な措置が取られている。
それは生徒の心の傷を
レベル毎に分けるという物だ。
1番レベルが低く社交的な者は
1クラス20人程度で
構成されるグループに振り分けられる。
授業形態はもちろん一斉授業方式だった。
一方心の傷が深い、または1人を好む者は
3~4人程度のグループに振り分けられる。
これはグループがこの人数であるだけで
実際には顔を合わせる機会はほとんど無い。
授業形態は個別指導方式。
日によって生徒が変わる為
お互いが顔を合わせる機会はなかった。
瑠衣は社交的なクラスに所属していたが
組織の生徒であった為当然、
ここら辺の知識は頭に入っていた。
女子中学生はもちろんそこに入るだろう。
その女子中学生はと言うと
最初こそ精神病棟に居たものの途中から
職員のケアの甲斐があって
通常病棟へと移った。
検査入院の他に過度に衰弱していた為、
それを改善する為にも
入院が必要と判断された。
更に驚く事があった。
その女子中学生が瑠衣との面会を
希望しているそうだ。
助け出した時のお礼をしたいらしい。
瑠衣は面談を快諾した。
―――――――――――――――――――――
受付に話したところ
瑠衣の事は既に上から聞いていたらしい。
すんなりと病室に案内された。
病室の前には担当の女医が佇んでいる。
「柳田瑠衣です。面会に来ました。」
「瑠衣さんね。こんにちは。私達は外に居るからゆっくり話してね。何かあったらナースコールする事。すぐに駆けつけるから。」
「はい。」
「じゃあ私達はこれで。またね!」
「あ、待ってください!」
「ん?何?」
「彼女の名前まだ知らないんですけど…」
「彼女の名前は櫛村葵さん。14歳よ。」
「ありがとうございます。」
そう言うと瑠衣は頭を下げる。
それを見届けた女医は瑠衣に微笑み、
看護師と談笑しながら立ち去って行った。
瑠衣は引き戸に向かい合う。
そして3回戸を叩いた。
「柳田瑠衣です。面会に来ました。」
「どうぞ〜」
中からは華奢な声が聞こえてくる。
瑠衣は引き戸を横に引いて
病室に足を踏み入れた。
病室は比較的広く
ビジネスホテルの部屋より大きい。
室内は殺風景ではあるが
病室と言った感じの間取り。
白が基調となっており明るく感じられた。
瑠衣は左を向く。
すると包帯やガーゼ等に
身を包んだ葵の姿があった。
腕からは管が繋がっており
点滴をしているのが分かる。
髪は比較的整っており
ポニーテールに結んでいた。
葵は瑠衣に対して微笑んでいる。
瑠衣はベッドの隣にある
背もたれ付きの椅子に腰をかけた。
「貴女が私を助けてくれた柳田瑠衣さん?」
「そう。私が貴女を助けた。体調はどう?」
「早く外を歩きたいな。ずっとここに居るもん。」
葵は笑いながらそう話す。
冗談混じりだが本音なのだろうと思った。
「栄養状態が安定したら散歩とかも許してくれる。そしたら一緒に行こ。」
「ホントに!?良いの?」
「もちろん。」
「やった!瑠衣お姉ちゃんありがとう!!」
「…お姉ちゃん?」
そう言って葵は抱きついて来た。
瑠衣は小恥ずかしくなり顔を背ける。
「そ!お姉ちゃん!瑠衣お姉ちゃんは私にとって命の恩人だし、何よりとっても強い!口調は聞いてた通り塩っぽいけど言葉の中に瑠衣お姉ちゃんなりの優しさがある!」
「だからってなんでお姉ちゃんを付けるの?」
「私にとってのお姉ちゃんになって欲しいの。家には帰りたくないし私だって強くなりたい。だからお姉ちゃんって呼びたい!」
また小恥ずかしくなる。
顔を背けながらぶっきらぼうに答えた。
「好きにしたら」
「うん!そうする!瑠衣お姉ちゃん照れてる?」
「照れてなんかない」
「嘘だ!照れてるって!」
「嘘なんか付かない…」
「ふーん」
「なに…」
「なんでもなーい!」
そう言うと葵はスマホを取り出す。
―顔に出てたのかな。
ポーカーフェイスは得意だと思っていたが
そうでも無さそうだった。
また鍛えねばならないと感じる。
「瑠衣お姉ちゃん!写真撮ろ!」
「写真?」
「そ!写真!」
「別にいいけど。」
「やった!ポーズ何にしようかなあ」
「ベタだけどルダハートは?シンプルだし」
「確かに!じゃあそれで撮る!」
ルダハートとは片手でハートを作り
それを頬に当てるという物だ。
それを2人でやると
ハートの中に入った様に見える。
プリクラのポーズと言ったら
とりあえずこれだ。
瑠衣達Z世代に定番ながら安定した人気を誇る。
葵はカメラを起動した。
まずは葵が加工がちゃんと着くか確認する。
「うん!問題なし!撮ろ!」
瑠衣は頷き葵に寄る。カメラには
グリッターエフェクトが着いている。
頬には黒猫のシールの様な加工が施されており
至ってシンプルな加工だった。
瑠衣は前髪をチェックする。
縮毛矯正と日頃のケアにより整った前髪は
何ら乱れていなかった。
「じゃあ撮るよ?準備良い?」
「大丈夫」
そう言うと2人はルダハートを作る。
顔を寄せあって画面の中に収まるようにした。
身体が密着して葵の痩せ具合が伝わる。
本人は辛いだろう。
瑠衣は心を少しばかり痛めた。
「それじゃ行くよ!はいチーズ!」
葵がシャッターを切る。
2人は自然にカメラ目線で撮れた。
「ん!盛れてる!瑠衣お姉ちゃん可愛すぎ!」
「見せてよ」
撮れた画像を覗き込む。
そこには笑顔で写る葵と瑠衣が居た。
加工は施されているが原型は留めてある。
プリクラとは違った良さがある写真だった。
2人は写真を見ると目が合い思わず笑った。
何か理由がある訳では無い。
理由は無い。ただ笑えた。
笑えた事に驚きと嬉しさを感じる。
普段殺伐とした環境に
身を置いている為余計にだろう。
葵と居ると心が休まり、同時に温まる。
理由は無いがそんな気がした。
思わず涙が出そうになるが辛うじて堪えた。
「もう1枚撮らない?」
葵が提案してきた。瑠衣も返事をする。
「もちろん撮る」
笑顔で葵に返答した。
―これがアオハルか。
周りの女子高生が体験している事だろう。
瑠衣にとってはかけがえの無い温かい経験だ。
2枚目は片手の手のひらを指を揃えて広げ、
それを顎付近に添えて撮る。
こうすることで小顔に見えて更に盛れる。
これまた定番のポーズだった。
再び葵がシャッターを切る。
画像には少し顔が小さく見える
2人が笑顔で写っている。
横にいる葵は終始笑顔だ。
余程嬉しいのだろう。
この笑顔を守りたい。
絶対に守らねばならない。
瑠衣は密かに心に誓った。
―絶対にこの子は守る。
もう二度と泣かせない。
「瑠衣お姉ちゃんLINEやってる?交換したい!」
「やってるけど…」
「交換しよ!」
「別にいいけど…」
「?どうしたの?」
言えない。
LINEの友だちが10人も居ないなんて言えない。
「友だちがその…」
「?居ないの?」
「10人も居ない」
葵は思わず吹き出して笑った。
瑠衣は怪訝な表情を浮かべる。
「なんで笑うの」
「瑠衣お姉ちゃんおかしいって!私だって居ないよ!虐めてくる奴ら全員ブロ解したし!」
「そうなの?そういうもんなの?」
「多分!笑 実際私達くらいだと思うけどね〜まあ特別な事情あるし仕方ないか。瑠衣お姉ちゃんは任務もあるし!」
「まあね。はいQR。読み込んで。」
「ないす!瑠衣お姉ちゃん!」
「ん」
葵がQRコードを読み込むと
ホーム画面に葵が友だちに追加したとある。
葵のアイコンは三人称視点で撮影されている
モデルらしき女性。
インスタから拾ってきた推しだろう。
瑠衣のアイコンはまさかの初期だった。
早速葵に突っ込まれる。
「瑠衣お姉ちゃん初期アイコンなの!?」
スマホを触りながら
驚愕した様子で葵が聞いてきた。
すると可愛らしい猫の
スタンプが送られてきた。
デフォルメされた猫は
サメの被り物をしており、
「よろしくお願いします!」
と文面が添えられている。
非常に可愛いスタンプだった。
「だって使わないから…」
「んー瑠衣お姉ちゃん見た目めっちゃイケイケ女子なのにこういう所疎いよね笑ちょっと貸して?」
「もー!良いから!」
瑠衣が貸すのを渋っていると
スマホをひったくられてしまった。
慣れた手つきで操作していき
2分ほどで戻ってきた。
すると瑠衣のアイコンは
先程撮った2人の写真になっている。
オシャレに疎い瑠衣だが
こればかりは可愛いと思った。
こんなに可愛く、オシャレで健気。
そんな彼女を妹として迎える事に
異論は何一つ無かった。
―――――――――――――――――――――
情報本部 作戦司令室
「まさか武装学生志望とはな。しかも戦闘員とは。」
「私は正直反対です。彼女を死なせたくない。」
「だが死なない為に訓練をするんだろう?」
「それはそうですが…」
瑠衣は武装学生志望の葵を
どうすべきか山口に聞いた。
武装学生の戦闘員は下手すれば死ぬ。
自分の命に変えて
この国を守るのが役目だからだ。
「言い方はキツいがお前は親じゃない。保護監督権が他に無い以上本人の意志に定められる。」
「はい…」
「志望届けは?」
「もう出したと。受理されれば試験があるらしいです」
「ならもうすぐだな。気軽に待とう。」
「はい。」
結局こうなるのか。
もうここまで来たら流れに
身を任せるしかない。
全ては彼女の意思だ。彼女に任せる。
頑張れ。葵。
そう考えながら
瑠衣は物思いにふけるのだった。
武装学生 ポテト大尉 @iampotetoman
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