第4話 任務開始
事前作戦ミーティングから3日ほど経った。
瑠衣は身体に無理をさせない範囲で動いたり
銃の確認を行った。
奏はヨンジュと特訓を行っていたらしいが
詳しいことは分からない。
ヨンジュがドヤ顔で
奏を鍛えたと言ってきた時は
流石にドヤ顔を潰したくなった。
なんでも奏のメンタル面が
かなり鍛えられたらしい。
課題は奏のメンタルだったので
得しかなかった。
その奏本人もドヤ顔で
瑠衣の方をチラチラ見てくる。
パイでも投げ付けてやろうかと
思ったが辞めた。
そしてドヤ顔をしている奏と
いつも通りの仏頂面の瑠衣は、
本日の作戦の為最終確認として
前と同じ場所に呼び出された。
「では早速作戦の最終確認を行う。まずは黒のハイエースで現場近くまで接近する。その後デリへル嬢…って言ってもあくまで建前で見た目はいつも通りだけどな。ともかく瑠衣が現場のアパートに突入する。」
「中にはおよそ3人程度敵が居るはずだ。現場付近の住民によるとAVが大音量で聞こえてきたり、男が数人出入りしているのを見た。等の報告がある。」
「ヤリ部屋兼武器売買時の一時保管庫…」
瑠衣はそう呟いた。
奏も深刻そうな顔をしている。
「前のミーティングでも言った通り裏は取れてる。瑠衣が以前権上会に乗り込んだ時に回収してきたデータから照合したからな。」
「でも待って?どうしてヤリ部屋って分かるの?」
「AVを大音量で流すのは声や音でヤリ部屋って特定されないようにする為。しかもこの付近で女子中学生が1人行方不明になってる。」
「それってつまり…」
「そう。その行方不明になった子は拉致されてそのヤリ部屋で乱暴されてる可能性が高い。AVが大音量で流され始めたのもその子が行方不明になった時期と一致する。」
「許せない…年端も行かない女の子を…」
「気持ちは分かる。私だって許せない。だから女の子を救い、任務も遂行する。」
「気持ちは纏まったようだな。奏は車で待機。瑠衣から連絡があったらすぐに出動出来るようにしとけ。それから外に女性支援班を待機させてる。その子が衰弱してる恐れもあるから応急処置も必要になるからな。」
「「了解。」」
瑠衣と奏は口を合わせて返事をする。
「2人とも質問はないか?」
そう聞かれた2人は首を縦に振る。
「それでは解散。」
そう言われた支援班や作戦を支える部隊達は
グループ事に別れ解散して行った。
瑠衣と奏も運転手の
栗田の元へ2人で向かう事にした。
―――――――――――――――――――――
「来たな。」栗田が2人を見てそう呟く。
「ひ、柊奏と言います!瑠衣さんのバディとなりました!栗田さんよろしくお願いします!」
奏が律儀に挨拶をする。
「おお。お前が奏ちゃんか。よろしくな。瑠衣をよろしく頼むぞ!」
栗田は挨拶を返した。
当の瑠衣は後部座席の左側、
いつもの定位置に収まっていた。
「行こうか。」
栗田はそう言うと奏を促した。
奏もそれに伴い後部座席の右側に収まった。
「忘れ物ないか?」栗田が問う。
「大丈夫です!」と奏。
瑠衣はバックミラー越しに栗田を見つめた。
栗田は頷きエンジンをかける。
ギアを戻しパーキングブレーキを解除して
アクセルをゆっくりと踏み込んだ。
ハイエースは徐行しながら駐車場を抜ける。
駐車場を抜けた後地下道に入った。
これは組織の車種等により
任務概要を悟られない為にあり
各ブロック毎に公道に出るようになっている。
数分走った後国道沿いに出た。車通りは普通。
平日の昼間というのもあり
少なくも多くも無かった。
ふと奏が口を開く。
「そういえば任務の場所ってアパートなんだよね?って事は大家さんが居るはずだけど大家さんは?注意とかしないの?」
瑠衣が答える。
「優しく言ったら部屋にいる半グレに脅されて自殺した」
「具体的には?」
「最初の方は入居者から苦情があって大家も対応してた。けれど」
「元の部屋主が大家の苦情に対応してたんだ。だが度重なる大家の訪問に業を煮やした半グレ共は元の部屋主を殺した。」と栗田。
「そう。部屋主が追い返せないのが悪いと言って。殺し方も残酷だった。遺体には爪や歯は残っておらず、毛髪も抜けた痕が多数あった。死因は焼死。手足を拘束された状態で燃やされた。最も四肢は砕け散ってたから拘束する意味があったのかは疑問だけれど。」
「それを言ったら爪や歯が無いのも疑問だけどな。まあ十中八九、苦痛を与える為だろ。」
「部屋主さんが殺されたのを大家さんは?」
「知らない。まだ生きてると思ってる。と言うのも半グレ達が部屋主を殺して以降も名義は部屋主にあった。部屋主が長期の旅行に行ったが支払いは部屋主であり自分達はあくまで部屋の維持をするために住んでいる。っていう建前で。」
「だけどその大家も半グレ達に対して効力を失った。」
「何故?」
「脅されたって言ったでしょ?実は大家には家族が居た。その家族を実質人質に取られた。」
「というと?」
「半グレ達の命令に従わないと家族を殺すと。命令というのは至って簡単。家賃を取らない、自分らに関与しないってことだった。」
「そうだ。大家がそうなってしまって以来近隣住民は出て行ってしまい、誰も居なくなったんだ。それ以来大家は借金までして経費を賄ってたんだけどな、見かねた家族が出ていってしまい大家はそのショックで自殺。自殺後部屋を漁った半グレ達は大金を手にした。」
「壮絶だったんだね…」
「だから周りに誰も居ないし苦情も来ない。運悪くそこを通る女の子達は半グレに拉致され乱暴されてる。絶対に許せない。性犯罪者は死ねばいい。」
「おっと…着いたぞ。ここだ。」
栗田がそういうと車を停めた。
明らかに古そうなアパートがそこにあった。
築40年程度は経っているだろう。
階段は錆びており建物は薄汚れていた。
草木は生え散らかしており
手入れされていないのが見て分かる。
調査内容が事実であったことを
生々しく物語っていた。
周辺も閑散としておりこのアパートの周辺だけ
ゴーストタウンの様な風景が広がっていた。
「では作戦開始だ。」
栗田がそういうと瑠衣が車を降りた。
奏は機関銃を取り出し弾薬を装填している。
支援班も動き始めていた。
車を降りた瑠衣は錆びた階段を上がっていた。
半グレ達の部屋に近づくにつれて
AVの音声が大きくなっていく。
階段を上がりきり
半グレ達の部屋の前に立った。
呼び鈴を鳴らすと中から鍵を開ける音がした。
半グレなのに防犯対策をしているとは驚いた。
「なんだあてめえ」
中から出てきたのは
醜悪な見た目をした男だった。
情報によると20~30代とあったが
情報を疑いたくなる。
明らかに40~50の見た目をしていた。
肥え太ったビール腹に、たるんだ顔の肉、
生え散らかした無精髭に禿げた頭部。
そして何よりも臭いだ。
脂の腐った臭いが男や部屋から漂ってくる。
鼻が潰れそうだった。
「あの…私指名を受けてここにやって来たんですけど…」
瑠衣は弱気で内気な女子を演じた。
こうすることで男達が油断しきって
奇襲をかけやすくなる為だ。
「そんなの呼んでねえんだがな。まあでも良い身体してんじゃねえか。入んな。」
瑠衣の身体を舐めるように見てきた
ビール腹は瑠衣を部屋へと促した。
虫唾が走る思いだったがどうせ後で潰せる。
玄関に入ると靴すらも
脱ぎたく無いような汚さだった。
床は黒ずんでおり部屋全体に生ゴミのような
形容しがたい臭いが充満している。
瑠衣はトートバッグから
自前のスリッパを取りだしそれを履いた。
「おい。誰かデリ呼んだか」
「呼んでねぇよ。タカシはこの有様だしよ。」
そういうとビール腹が
タカシと思われる人物に目を向けた。
タカシは和室で
ひたすら腰を振り続けている。
犯されているのは中学生位の
幼い顔をした女子だった。
その女の子の声は聞こえない。
喉が枯れたのだろう。
「お前名前は。」
ビール腹が瑠衣に声をかけてきた。
「かなです。」
瑠衣は偽名を使って名乗った。
「かな、とりあえず脱げ。」
「え…?」
「えじゃねえよ脱げって言ってんだ。」
「いやでも…」
「お前売女(ばいた)じゃねえかとっとと脱げって。」
「…」
「脱ぐことにはなれてんだろうが」
「いやでも…」
「良いから脱げって言ってんだよ!!聞こえねえのか。」
ビール腹が声を張り上げた。
ただ勿論瑠衣は脱ぐ気など毛頭なかった。
「性犯罪者は死ねばいい。」
「あ?黙って脱げよ。」
「脱げ脱げうるせえんだよ社不が」
そう言い放つと瑠衣は男の顔面に
正拳突きを繰り出した。
「何しやがんだてめえ!」
間髪入れずに男の顔面に左足で蹴りを放つ。
男の顔が苦痛に歪むのが分かった。
男は顔面から倒れた。
瑠衣は男に馬乗りになり男の事を殴り続ける。
殴るうちに打撃音が変わってきた。
水っぽい音が含まれている。
男に血が滲み始めていたからだ。
ふと視界の端に
奇襲をかけようとする男が見えた。
瑠衣はその場にあった分厚い漫画本を
ノールックで男に投げ付ける。
漫画本が顔面に直撃した男は
首を直角に折りながらそのまま倒れた。
瑠衣はビール腹を殴り続けた。
顔が腫れ血が滲み出してきている。
瑠衣は立ち上がり今度は顔面に蹴りを放った。
何発も連続で速射砲の様に
蹴りを浴びせ続ける。
ふらつく男を無理矢理立ち上がらせ
食器棚に叩き付け
そのまま男の顔を棚に擦り付けた。
ガラスや茶碗が割れて床に散乱する。
男の顔は原型を留めないほど
傷や血が出ていた。
男を仕留めた瑠衣は立ち上がり和室に向かう。
こんな騒動が起こっているのに
男は未だに犯し続けていた。
瑠衣は男の背後に周り、首に手を回した。
そして一気に上腕二頭筋で締め上げる。
男が苦しげに喘ぎながら手足をばたつかせた。
尚も瑠衣は力を込めて締め上げる。
やがて男のばたつきが収まり、
いつしか動かなくなっていた。
最後に慢心の力を込めて男の頚椎を折った。
全身が脱力したのが目に見える。
瑠衣は男を女子中学生から
ゆっくりと引き剥がした。
勢い良く抜くと
膣に傷がついてしまうからだった。
男を引き剥がし、死体を乱雑に退けると
瑠衣は女子中学生に駆け寄った。
瑠衣は軽く肩を叩きながら、
「もう大丈夫だよ。怖かったね。家に帰れるよ。」
と声をかける。
「こちら瑠衣。室内制圧完了。被害者の女子中学生の保護確認。応援求む。送れ。」
「了解瑠衣。衛生班と奏を突入させる。」
その通信の数秒後、機関銃を手に持った奏を
先頭に衛生班が突入してきた。
衛生班の女性班長を見た瑠衣は
「後はお願いします。精神的にかなりやれてる。注意して下さい。」
「了解。引き継ぎます。」
そう言うと衛生班と
女子中学生は退室していき組織の治療を
受ける為に救急車で走り去っていた。
見届けた瑠衣は次の任務に移る。
「派手にやったね〜るいるい。1人も生きてないよ…」
「どうせこいつらが知ってる情報はたかが知れてるし。それならこんな性犯罪者生かしておく意味も無い。」
「ま、それもそっか!」
「奏。武器は床下にある可能性も高い。手分けして探そ」
「了解!」
会話を終えた2人は室内を探索し始めた。
正直ナイフなのかロケットランチャーなのかは分からず何があるのかも不明だった。
探索から10分程経つと奏が声を上げた。
「るいるい!こっち!長い木箱みたいな奴がある!」
「了解。」
呼ばれた方向に行くと
緑色の木箱が5個程度見つかった。
ラベルが貼ってある。
ロシア語で書かれている物だった。
「なんだろうこれ」
「汎用機関銃って書いてあるから中身はPKMかな」
「るいるいロシア語分かるの!?」
「他にも5ヶ国語くらい喋れる」
「私も頑張らなきゃ…」
奏を横目に瑠衣は
汎用機関銃と書かれた木箱を開ける。
中には使用感のある木製ストックの機関銃が1丁収まっていた。PKMで間違いないと確信した。
「当たり。やっぱりPKM」
「まさか5箱全部機関銃…?」
「それは無い。PKMの隣は対戦車榴弾発射器。RPGの類。その隣はRPGの弾薬、PKMの左がAKかな」
言われた順番に奏が木箱を開封する。
「すっご…全部当たってるよ…」
ドン引きする奏を一瞥した後
瑠衣は鼻を鳴らして本部に通信を入れる。
「こちら瑠衣。目標物発見。AK2、RPG1、PKM1を確認。他にも小箱に弾薬が入ってるのを確認。送れ」
「こちらHQ。瑠衣良くやった。武器を押収し撤退せよ」
「瑠衣了解。通信終わり。」
「どうするの?」
「処理班と回収班に頼んで任せる。」
「赤軍と関係あるのかな…」
「旧ソ連の武器だしワンチャンあるかも」
「確かに…あ、そろそろ撤収しよ!処理班達も来たし!」
瑠衣は頷き奏と共に退室した。
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