第3話 模擬戦②

第3話 模擬戦②

「トリガーハッピーかよ。」

瑠衣は悪態を付きながら弾幕に耐えた。

遮蔽物上部のトタンに被弾する音が聞こえる。

中には耳を掠める銃弾もあった。


奏の性格なら撃ち終わったら油断して

引き金から手を話すだろうと思った瑠衣は

その一瞬の隙を付いてMPXで牽制しながら

遮蔽物まで詰めようとしたが如何せん

弾幕が分厚すぎて突破出来なかった。


だが瑠衣は心の中で

発砲した回数を数えていた。

84,85,86,87…もう少しで撃ち終わる。

装填が入るはずだ。そして再び発砲が始まる。


88,89,90,91,92,93,94,95…


発砲が終わった。

瑠衣はMPXを構え全力疾走で飛び出した。


奏に当てなくても、

銃に当てれば戦力を大きく削げる。

瑠衣はホロサイトで走りながら

奏の機関銃に狙いを定めた。

単発撃ちで8回発砲する。


サプレッサーに消音された銃声がこだまする。

被弾させたかは確かめる余裕は無かった。


遮蔽物まで辿り着いた。

ふと様子を見ようとMPXを覗かせたその時、

単発の銃声と共にペイント弾が飛んできた。


瑠衣は身体を下げるがMPXは被弾していた。


奏が何かを叫んでいる。

機関銃に命中させたと見るべきだった。


被弾したMPXを置き、

拳銃をホルスターから抜く。

スライドを動かし装弾を確認出来た。


尚も拳銃弾は命中し続けていた。

しかし装填しているのか弾幕が途切れた。


好機だと思った瑠衣は

拳銃を手に遮蔽物から飛び出す。

拳銃を俯角に構えた瑠衣は奏を見た。


奏は唖然としている様子で

装填することを一瞬忘れているように見える。


ここまで1秒足らずだ。

瑠衣は走りながら拳銃を発砲する。

薬莢が宙に舞うのが見えた。


装填を終えた奏は瑠衣に向け発砲する。

しかし瑠衣は跳躍し、被弾を避けた。


奏は拳銃射撃に慣れていないのか、

瑠衣に対しての命中弾は無かった。


瑠衣は左側に走りながら

奏の拳銃を撃ち使用不能にする。

奏は訓練用ナイフを手に突進してきた。


瑠衣が発砲するが

奏は使用不能になった機関銃を盾に突進する。


機関銃はあくまで発砲不可能であるため

それ以外の使い道はあった。


奏の機関銃に命中し続ける。

5m付近に迫った時奏は機関銃を投げ捨て

瑠衣にナイフを振り上げてきた。


この至近距離では拳銃では

不利だと自覚した瑠衣は

拳銃を直ぐにホルスターに収め、

奏の腕を掴み、ナイフを受け流した。


奏はふらつきながらも姿勢を保つ。

瑠衣は姿勢を低くしながら

ふらついている奏に接近した。


ナイフを手刀で薙ぎ払い、

丸腰になった奏を柔道の上手投げで

投げ飛ばした。


投げ飛ばされた本人は

顔をしかめて頭を横に振る。

意識を保つ為の行為であった。


奏は痛そうな顔をしながら、

「るいるい!酷いよ!ここまでやるなんて!」と叫ぶ。


「あんたは冷静さに欠ける。」

瑠衣は冷やかに呟いた。


「筋はいいのに勿体ない。戦場では冷静さを欠いたら負ける。そんなんじゃ私のペアには務まらない。」


「…」奏は黙り込むが瑠衣は続ける。


「だから私が鍛える。ただそれは実戦での話。5日後に任務がある。4日後に情報部に出頭し、任務概要を知る事。それまでは自由に過ごしてもらって構わない。」


「え…?私ペアになっていいの、?」

「嫌なら辞退して構わない。」

「嫌じゃないよ…!でも良いの?」

「そう言ってる」

瑠衣はそう言うと

ホルスターから拳銃を取り出す。


「…?」

「模擬戦の勝敗は付けないと。」

瑠衣は拳銃を奏の頭に発砲した。

反動と共に硝煙臭い薬莢が排出される。

奏の頭がペイント弾で染まる。

弾着の衝撃で奏は気を失っていくのだった。

―――――――――――――――――――――

「ん…」

奏は意識が目覚めた。

見知らぬ天井が目に入る。

ここは医務室だろう。

記憶にあるのは瑠衣が

自分に対し発砲した事だけだ。

恐らくペイント弾の弾着の衝撃により

気を失って居たのだろうと考える。


「あら起きたの。」

声がする方に首を向ける。

流暢な日本語を話している緑のショートボブの日本人ではない少女がそこに居た。


「あなたは…?」

「私はソン・ヨンジュ。ASCA韓国支部の隊員。日本支部総本部に研修で来てる。」

「ソンさん…?」

「ヨンジュで良い。」


「ヨンジュ…さん。貴方は何故ここに?」

「瑠衣から頼まれた。」

「るいるいが?」

「そう。瑠衣から頼まれた。」

「知り合いなんですか?」

「腐れ縁。5歳の頃からの。」


「そうなんですか…」

奏は少々衝撃を受ける。

瑠衣の交友関係は分からない。

韓国の友達が居るとは驚きだった。


ヨンジュは続ける。

「私の話は良い。瑠衣から私は暇だろうから任務までの時間であんたを鍛えて欲しいって。実戦では自分が鍛えれるけど任務までは自分の事に集中したいかららしい。あの子らしいっちゃあの子らしいけど。」


「私を鍛えるんですか…?」

「そう。ちなみに瑠衣は早速訓練始めてる。」

「待って…私はどれだけ寝てたの?」

「模擬戦から次の日の朝7時。あんた寝すぎ。医療班も心配してた。」


「うっ…ごめんなさい…」

「過ぎたことを気にしても仕方ない。それよりお腹減ってない?私はペコペコ。」

「そういえば減ってます…お腹がなっちゃいそう。」

「じゃ食べ行こ。医療班には報告しとくから着替えな。」


「はい!分かりました!」

奏は元気いっぱいに返事をする。


「堅苦しいのは嫌い。敬語は使わないで。」

「分かりまし…分かった!ヨンジュ!」


「お風呂入ったりして用意してきな。それまで待ってる」

ヨンジュはそう言うと踵を返して退室した。

ソン・ヨンジュ。

瑠衣と何処と無く雰囲気が似ている。

だが根は暖かい。そんな気がした。

―――――――――――――――――――――

「ふー。美味しかったあ。」

そう言うと奏は箸を置く。

ヨンジュは黙って口元を拭っていた。


「歯磨きとかしたら見せたいものがある。」

「見せたいもの?」

「そう。瑠衣の模擬戦。」

「でもでもるいるいの模擬戦は1回見たよ??」

「あなたとの模擬戦は手を抜いてる。ウォームアップの様な身体を温める戦い方。」


「え?」

奏は絶句した。


「そりゃそうでしょ。あんなので最強名乗れたら誰だって最強になれる。」

ヨンジュは続ける。


「着いてきて。瑠衣の模擬戦を見学する。」



数分程歩くと例の模擬戦場に着いた。

階下では銃声が鳴り響いている。


黒服の女子高生が長めの銃を手に、

装甲服を纏った黒一色の男達と戦っていた。


「あれは…何使ってるの?」

「ベネリM4。ショットガン。弾はスラグ。」

「ベネリって反動凄いんじゃ…スラグだったら尚更…」

「狙って撃つ訳じゃない。近距離戦だから気にならないらしい。」


「凄い…」

ショットガンを使う

瑠衣は縦横無尽に舞っていた。

少数対グループの基本であるゲリラ戦を使い、

1人、また1人と仕留めていく。


男の1人の足を撃ち、怯ませた後、

頭部を撃ち抜く。

撃たれた男の頭部は

ペイント弾で赤く染まっていた。

何やら叫んでいるのか怒号を発しながら

男の後続が突入してくる。


瑠衣は装甲服の男の

小銃の銃身を左手で壁に叩きつけ、

ショットガンを片手で保持し胴体に発砲する。


男が怯むのが見える。

その隙に後続の頭部を撃ち抜いた。

怯んだ男は銃剣道の要領でショットガンで突き飛ばされ、その後頭部を撃ち抜かれる。


クリアリングを行った瑠衣は、

直ぐに腰に装着しているシェルポーチから

2発ずつ弾薬を取り出し

ベネリM4に積めていき、装填した。


見学する奏は呆然としていた。

瑠衣がここまで強かったという事実。

これが本気では無いという事実。

そして何より自分と瑠衣の戦い方の違い。


完敗だった。

弾幕を張るしか能がない奏にとって、

ここまでスタイリッシュに戦う瑠衣は

別世界の人間の様だった。


「卑下する必要なんか無い。奏と瑠衣の戦い方が違うだけだから」

「でも私は弾幕を張るしか…」


「そうね。それは事実。なら自分の戦い方を極めれば良いし、貴女の弱点であるメンタル面を鍛えれば良い。」


「…?」


「貴女の戦い方は脅威。弾幕張られたら動けないし、その間に別働隊が接近してくる可能性もある。ただ愛銃が壊れたからと言ってキレてたら話にならない。」


ヨンジュは続ける。

「まずは愛銃に対する執着を捨てる事。いくら愛銃でも弾が無くなったら使い物にならないし、敵から拾える可能性だって奏の銃は少ない。執着を捨てる事が出来たら、次は銃の特性を頭に入れる。そうする事で戦地で弾切れになって鹵獲して戦っても臨機応変に対応出来る。」


「でも私の相棒だし…」

「それは皆一緒。でも奏程執着してない。」

「…」

「来て。第2模擬戦場に連れてく。通常装備を着てきて」

「わかった…」

―――――――――――――――――――――

瑠衣はふと見上げる。

奏達が退出して行くのが見えた。


瑠衣は鼻を鳴らし再び向き直る。

敵は残り5人。弾は残り8発。

一射一殺で行けば余裕だが

敵は現役の特殊部隊員。

一筋縄では行かないだろう。


幸いにも拳銃は残っている。

今回の拳銃はG43 TTIカスタム。

肉抜き加工の特殊スライドに

金色のバレルが見え、装填しやすいように

マグウェルも装着している。


拳銃で戦うしかないのかと思わず

悪態を付きたくなる。とはいえ敵から

小銃を鹵獲すれば良いの話である。


早速瑠衣はショットガンを置き、

倒れている模擬敵兵の小銃を鹵獲した。


MK.18。AR-15系統の自動小銃であり、

特殊部隊に重宝されている。


様々なアクセサリーが搭載されており、

ベネリよりもずっしりとしていて重い。


だが扱えない程の重さでは無かった。


瑠衣は敵兵から弾倉を2つ程拝借し、

模擬戦用の戦闘服のポケットに入れた。


重荷になるシェルホルダーは

ショットガンと共にその場に置いた。


ふと耳をすませる。

微かではあるが足音が聞こえる。

瑠衣はMK.18を構え敵襲に備えた。


軽い金属音がする。

閃光手榴弾が投げ込まれた。

爆発まで2秒と無い。

かといって手で掴み投げ返せる距離でも無い。


瑠衣は咄嗟に閃光手榴弾が

投げ込まれた方向と逆側に駆け出した。


腰の高さに小銃を携えながら

1番近くの遮蔽物まで退避する。


ここまで1秒足らずだ。

遮蔽物に退避した瑠衣は縦に小銃を構え、

突入して来るのを待った。


爆発音が聞こえる。

強烈な光と音が辺りを包み込む。

瑠衣は幼い頃より訓練された

お陰で物怖じしなかった。


爆発が終わり、

小銃を左で構え小銃と共に顔を出す。

男たちが突入してくるのが見えた。

瑠衣は反射的に発砲する。連続する反動に

肩を打たれながら牽制として発砲しまくる。


サプレッサーによる

くぐもった銃声が耳を轟かし、

5.56mm薬莢が排出されるのが目に見えた。


呻き声を発しながら男達は倒れていく。

後続の者達も倒れた隊員に足を取られて

前のめりに転び将棋倒しの様相をしていた。


瑠衣は空になった弾倉を投げ捨て、

新しい弾倉を叩き込んだ後

ボルトリリースボタンを押し込み装填した。


セレクターを連射に切り替え確殺を男たちに入れる。フルオートの強烈な反動が瑠衣の肩に叩き付けられる。


連続で薬莢が排出されサプレッサーからは

硝煙が立ち上るのが分かる。


一瞬ガク引きしてしまい数発ほど

地面に当たったが

程なくして敵に命中させていく。


程なくして全弾撃ち込んだ瑠衣は再び

弾倉を取り外し新しい弾倉を叩き込んだ。


瑠衣は倒れた敵の頭を数える為に

集団に近付いた。

小銃を俯角に構えゆっくりと前進する。


近付くとペイント弾塗れになった特殊部隊員が

折り重なっていた。

しかしどうも数が合わない。


5人のはずが4体しか無い。

数え間違ったとは考えにくい。

―だとするならば…


瑠衣は咄嗟に後ろを向いた。 黒服の男が

小銃を構え瑠衣を狙い澄ましている。


「ヤバい。」

瑠衣は折り重なった敵兵の山に飛び込んだ。


敵兵の山に被弾していくのか、

死体(のフリ)の隊員が呻いている。

後で喧嘩になるだろうなと瑠衣は思った。


対奏戦の時のようにフルオートでの弾幕が止むまでやり過ごした。程なくして弾幕が止み足音が近付く。


瑠衣は小銃を敵兵の山に乗せて

射撃しようとするも弾幕に阻止された。


装填を行うのがかなり早いあたり

特殊部隊というのが実感できる。


瑠衣は死体の隊員から閃光手榴弾を鹵獲し、

ピンを抜きレバーを上げて少し待ってから、

正面に下投げで投げ込む。


小規模の爆発が起きて直後に

閃光が一瞬包み込む。

相手が呻く声が聞こえてきた後

瑠衣は撃ち尽くした小銃を投げ出して

ホルスターから拳銃を抜いた。


発砲しようとした時ブザーが鳴り響いた。

ブザーを聞いた瑠衣は

拳銃をホルスターに収めた。


死体役の隊員たちが次々に起き上がってくる。


皆いずれも自分達に発砲してきた生き残っていた隊員を睨みつけるような動作をしていた。


肝心のその隊員だが、

閃光手榴弾の余波を受けており

未だに失明状態にあるのが見て取れた。


ふと肩を叩かれる。

振り向くと瑠衣が持っていたショットガンと

シェルホルダーを持っている隊員が居た。


「ありがとう。」

瑠衣はそう一言言うと隊員は頷き

踵を返していった。


ふと放送が鳴る。呼び出しのようだ。


ASCAは基地も大きいため大事な用がある時は

館内放送で呼び出される。


これは隊員個人の無線機が故障等の

不測の事態に備える一面もある。


更に館内放送は館内に直結しているため

ジャミングを受けても隊員達には暗号による

館内放送で情報を伝達できるのだ。


「瑠衣及び奏。次の任務についての事前ミーティングを行う。Bブロック第2棟作戦会議室4に10:00に集まれ。」


2回繰り返された後放送は終了した。

今の時間は0930。

今から準備したら余裕で間に合う。


瑠衣は弾薬を返納した後軽くシャワーを浴び

ミーティングに向かうことにした。




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武装学生 ポテト大尉 @iampotetoman

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