劇団『白百合の乙女』
「いつもありがとうございます」
差し入れ用にいつも商店街のお肉屋でコロッケを買うのだが始めて肉屋のお兄さんに話し掛けられた。
「こ、こちらこそ美味しいコロッケをありがとうございます」
「はい!これからも美味しいコロッケ作りますね」
ぱあっ!という効果音が似合いそうな肉屋のお肉屋さんは私の手を取ってこう言った。
「いつも劇団の為に考えられてて凄いですね」
尊敬します、とついでのように付け加えられたその言葉を聞き流しながら私は劇団で鍛えられた貼り付けの笑顔でお決まりの台詞を吐いた。
「ありがとうございます!良ければ劇場へ見ていらしてください」
私はそのままコロッケを受け取り劇場へと重い足取りで向かった。
動揺で日本語が少しおかしくなっていた気がすると私はジワジワ反省しながら帰路を歩く。
「寒いなあ」
ツンと冷たさが鼻についた.....雪?
そうか、もうそんな時期か。
「座長!」
ビクッと体を震わせて後ろを振り返る。
「また外で気分転換ですか?打ち合わせがあるので探しに行こうと思ってました」
「あそこのお肉屋さんのコロッケ差し入れに買ってきたから許してよ、シロちゃん」
「......メンチカツはありますか」
「ごめん無い」
「じゃあ許しません」
シロちゃんが手を差し出してきた。
私がコロッケを差し出す。
「違う!手を繋ぎましょうって意味です!」
犬みたいで可愛いなあと思いながら私はシロちゃんの手を握った。
「行きましょう座長」
「.......うん」
座長。それが私の役名だ。
劇団『白百合の乙女』女の子達で構成された小規模の地域劇団、私は劇団がいつも使わせてもらっている劇場の偉い人の娘だからとおだてられあれよあれよといつの間にか座長になってしまっていた。
本当なら座長に相応しいのはこのシロちゃんだと言うのに、私は相応しくないのに。
「座長の主役、今回が初めてですよね!いつもは陰ながら皆のサポートでしたし.....今回は僕達が座長のサポートをしますからね!」
「..........ああ、うん、ありがとう」
主役、その輝かしい響きは私には響かなかった。どころか嫌、不快、とさえ思ってしまう。
だってその主役は........。
「座長に女を演じさせたら右に出る者は居ませんからね!」
女役なのだから。
劇場の王子様 犬野ツナ @inunotuna
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