劇場の王子様

犬野ツナ

プロローグ

 ああ。神様。どうか願いを聴いてください。

 私を、男の子にしてください。私をとびきりの王子様にしてください。

 きらびやかなドレスな光り輝く宝石など要りません。私はただあのスポットライトに照らされ観客席を眺めたいのです。

 主役で演じたいとは言いません。

 誰か。誰でも良いから私をスポットライトに照らされる王子様にして下さい。

 どうか私を見てくれる人が居るのなら、憐れみを下さい。私のこの肉付いた女の体を細く骨張った男の体にして下さい。

 ______ああ、もう終わりにしよう。

 これ以上幻想に祈るほど余計惨めになっていくのだから。さあ。劇場へ戻ろう。

 雪の冷たい感触が鼻にそっと付く、寒い。

 まだ同期達はこんな時でさえ稽古をしてるのだろう、差し入れでも持って行ってあげるか。

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