第118話 新式魔法世代の生徒達

「……さて、あやつは帰ったが、貴様らは帰れんぞ。さあ、外に出ろ。新式の訓練だ」


退室したエグザスとエイダを見送った、教師クルジェスは、こう言って椅子にかけてあるコートを手に取った。


それを見ている生徒達も同じように、畳んでいた上着を広げる。


「外寒いぞ〜」


「嫌だなぁ……」


「バッカお前!ショッピングモールで『魔導カイロ』を買ってないのかよ?!これめっちゃ快適だぜ?!」


「何だそれ?……うわっ、あったかい!いいなあ」


「へへへ、今めっちゃ売れてるんだぞ?ショッピングモールはちょくちょく覗きにいけよ?」


「でも小遣いが……」


「平民でも買えるくらい安いぞ?」


「本当か?!やっぱり、エグザス様は凄いな……」


ガヤガヤと、私語をしながら移動する子供達。


その中でも一際目立つのは……。


「私達は私達で、新式魔法のデータ収集をしなきゃね」


「それに、私達が使うのは『ルーン魔法』ではなく、上位の『M言語』ですからね……。そろそろ新しい術式を作って提出しないと、評価が下がってしまいます」


「あ、じゃあ拙者はもう今年の新術式を提出済みでござるから、手伝うでござるよ」


「えっ?!ユキってば、本当に?いつの間にやったの?」


「ホムンクルス・ドラゴンで移動できるとは言え、取引先の国々は遠方でござるからなあ。暇な移動中は、ずっと術式作りしてるんでござるよー」


「間抜けなツラしておいて、なんでも卒なくこなすわね、あんた……」


「ま、間抜けなツラしてるでござるか?!!?!」


「えーっと……、可愛らしいお顔かと思いますよ、ユキさん?」


やはり、愛人組。


アウロラ団幹部のチームだ。


全てにおいて、論ぜる範囲にないと言う意味で「論外」なエグザスを除くと、この三人が一番目立つ。


その評価は、歴戦の勇士であるクルジェスを持ってしても、評価規格外と言えた。常識外れな強さの子供達だ。


本来ならこの三人には、もう一人、エイダが普段はいるのだが……、そのエイダは仕事のため、今はいない。


一方で……。


「はぁ……、全く。また、あいつは居ないのか」


「そう腐るなよ、ゼス。俺達は俺達のやり方でイこうぜ?」


「そうそう、ホルマンの言う通り。ってか、エグザスが居ても、別に手伝ってはくれないじゃんアイツ!まあ、今じゃ『最高の魔導師』と名高いエグザスに一方的に教わるなんて、色々とヤバいのは分かるけどさ」


「そうだよなあ……。むしろ、タダで何かを教わる方が怖いぜ」


「……確かにそうか。あいつは、俺達が思い悩んでいる程度の『問題』の答えは、全て知っている。自分で考える苦労をせずに、答えを急いてはならないな」


次に目立つのは、彼ら。


エグザスとチームを組んでいる、三人。


ゼス、ホルマン、ヘクターである。


彼らは、クルジェスの理解できる「常識」の範囲内で、最も優秀な面子だ。


正直、エグザスというバグみたいな存在とその愛人達が居なければ、彼らがこの学年のトップだったであろうメンバー。


更に言えば三人とも、魔法もそうだが、格闘やサバイバル術も鍛えているところがクルジェスにとっては高評価だった。


クルジェスは歴戦の猛者。その戦いに満ちた生涯では、「魔法が使える」だけでは打破できない危機なぞ、山のようにあった。それ故、魔法に頼らず、身体や剣技を鍛えて、生き残るための知恵を身につけている者が一番偉いと思っている。


なので、あれだけの魔法を開発しておきながら、魔法に依らない知識と技能を山のように持つエグザスも、実はかなりの高評価だった。


確かに、「ジジイ」などと呼び捨ててくるクソガキではあるが、調子に乗れるだけの実績と実力があることは、クルジェスは……クルジェスこそ、よく理解していた……。




学園のグラウンド。


土が平された広場。


ここでは普段、体力作りのためのランニングや、護身のための剣術の訓練を行なっている場所だ。


その他にも、丸太を組んで雑に作られた木人が並べられており、その背後には土嚢が積まれていて、魔法の試射も可能である。


最初、入学してきた頃は、この木人すら破壊できなかったヒヨッコ達が……。


『ウィンターブラスト:ラン』


『スティング・レイ:ラン』


『ライトニング・ボルト:ラン』


……その木人を、影すら残さず消し飛ばす。


素晴らしい、練度の向上ぶりだった。


「この調子なら、二十発までってところかな」


「俺は三十発いけるかも」


「本当か?お前、魔力多いな」


しかも、それだけではない。


単純な破壊力以外にも、全体の継戦能力も向上していた。


昔の……、新式魔法が世に出る前は、戦争やモンスター駆除などで一般的に使われる「主力魔法」を十回も使えばガス欠になっていたものだが……。


今では、一般生徒でも、その倍は魔法を使える。


それは、新式の導入によって、各々の魔力が通る経絡回路が活性化したことと、術式そのものの効率化による省エネルギー化。その二つが主な理由だろう。


更に言えば、より破壊力を収束し無駄を省き、もっと効率的な破壊魔法を実現する生徒も多かった。


その、「実現」というのも、クルジェスのような古い時代の魔導師からすると恐ろしい。


古い魔導師達からすると、術式は「作るもの」ではなく、「秘するもの」だからだ。それも、徹底的に。


遥か遠く、古代。神話の御世において、魔法は天より来たりし神々が、人に与えたもうた真理の力だった。


しかしそれは、歴史の中、戦乱や内乱、お家騒動などで後継者が失われ……、術式は常に失われていた……。


それが今、唯人が神々の如く、術式そのものを作れる時代が来たのだ。


これは本当に、驚くべきことである。


今後は、より強い術式を継承している家ではなく、より強い術式を作り出せる組織が上にいく時代になる……。


パラダイムシフトが、起きたのだ。


そして、この場所……、魔法学園は、その「より強い術式を作り出せる組織」となることを期待されている集団でもある。


今までは、国中の見習い魔法使いを立派な魔導師兵に育て上げる場所であり、そのために国の機密である戦闘用中級魔法を惜しみなく教える先進的な機関だった。


この中級魔法も、時代の流れで潰れた貴族家や、王家の秘伝の一部を使ってのもの。この世界基準では先進的な価値観を持つ組織だったのだが……。


……だが、今は違う。


最早そのレベルではなく、学生自身が術式そのものを作り、それを互いに教え合う……。


より先進的な魔法の学術機関となっていた。


「うーん……、やっぱり、術式が長くなればなるほど、魔力消費は増えてしまうなあ」


「でも、短い術式は、簡単な対抗呪文で防御されちまうぜ?」


「じゃあ、途中で制御を手放すのはどうかな?自動処理にしちゃえば、消耗を減らせるかも」


「それをやると、術式を乗っ取られるぞ……?」


もう既に、年若い子供達は……、いや、子供だからこそ、理解が早かった。


今後は、今ある術式を後生大事に守っていたところで、高い地位は得られない、と。


エグザスに停滞している第一王子の派閥でも、その考えはもう浸透しており……。


「くそ!エグザスを倒せる術式を作らなくては、王太子殿下に申し訳が立たないぞ!」


「しかしこれは、エグザスの術式体系とは違うのだろう?それを要求しなくては……」


「前も言っただろう?!現段階では、このルーン術を極めない限り、M言語は与えられないと!」


「俺は最初から、エグザスと王太子殿下との確執なんてどうでも良かったのに……!親のせいで、俺はM言語が手に入らなかったんだぞ?!どうせこうやって、降伏して頭を下げて、格落ちのルーン術を貰うくらいなら、最初から下手に出ておけば……!」


「ふんっ、その親に逆らわなかったのはお前だろう?今更なんだ!やるべきことをやれ!」


……様々な意見や確執はあれども、国として目指すべき一つの答えには、コンセンサスが取れていた。




———「魔法の国として、魔法の力を高めること」




この目的に向かって、一丸とは言えずとも、多くの魔導師貴族達が歩みを進めていた……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

プログラマ転生〜この世界の魔法はプログラムらしい〜 飴と無知@ハードオン @HARD_ON

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ