第三夜 子どもほいほい

 始まりました。ちょこっと怪談話のお時間です。

 いやー、ついに三夜になってしまいましたね。

 今回もちょこっと怖い話を持ってきたので、楽しんでいただけると嬉しいです。


 そうそう、余談ですが語り手である“私”の都合で、このお話はここで一旦完結とする予定です。

 また“私”が戻ってきた際には、お話させていただきますのでその時はどうぞ聞いていただけると嬉しいです。


 さて、本日の登場人物です。

 私(中学二年生)

 天性の子どもほいほい。未就学児はだいたい、いける。

 知識を持った同年代の女子にはわりかし嫌われる。

 身長は高いが体はそんなに強くない。

 


 母(年齢秘匿)

 なんか無駄に霊感がある。

 折り合いは悪いが、悪い人ではない。コスパの良いブーメラン。


 以上の二名でお送りします。


 これは私が中学二年生の頃のお話です。

 当時私は、とても重い片頭痛を患っていました。

 がんがんと下から打ち付けられるような感覚と、無限に湧き出てくる吐き気。

 酷い日は何度も嘔吐してしまいものもの口にできないくらいで、血が混じることだって珍しくなかったです。

 かかりつけの医者はそんな私を見て、手をを変え品を変え何度も色んな種類の痛み止めを処方してくれたのですがまったくと言っていいほど効かず、もしかしたら脳に腫瘍があるのではないかと言われました。

 

 ここでは精密検査は出来ないため、市内にある大きな総合病院で本格的な検査をしようと言われ紹介状を貰い、一人で向かいました。

 


 病院に着き、簡単に初診の受付を済ませて紹介状を渡しMRI検査の案内があるまで、待合室で待っていました。

 待合室で座っているというのに眩暈は止まらず、まっすぐ座っていられなかった。

 例えるなら、脳みそがぬか床の様にかき回されているような……いやそんなグロい感覚じゃないですね。失礼。


 もっとこう、遊園地のティーカップで調子に乗りすぎて再起不能になった後ベンチで休んでいる感覚と言いますか、座っても寝ても何をしても気持ち悪いという感覚が胃の奥底から湧き上がってくるんです。

 私を中心に世界が回ってるのか、私が世界の中で転げまわってるのか分からないくらいの眩暈。

 こんなに気持ち悪いんだから、吐き気が一番しんどいはずなのにそれを超える頭痛があるのですから、私の情緒はもうぐちゃぐちゃ。

 蚊が耳の横を通り過ぎて行くだけでも腹が立つんですよ。

 公共交通機関の他人の匂い、料理店の換気扇から漏れ出てくる匂い、横で話す伯母さんの声、視界に入ってくる光と彩度豊かな色たち。


 その全てに苛立って吐き気がするんです。

 あぁ、世界は何でこんなにも騒がしくカオスなんだろう、なんて中二病染みたことを当時は考えましたがね。

 連日の嘔吐に体力はごっそり持っていかれてましたし、頭痛でろくな睡眠もとれず寝不足でしたし、正直言って私は正気じゃなかったと思います。


 嫌に体が重く、心拍に合わせる様にどくどくと脈打つ頭痛。

 待合室の椅子で携帯を見る元気もなくただ茫然と座っていました。

 意識もかなり朦朧としていましたし、耳鳴りが酷くろくに聞こえていなかったから、異変に気が付くことができなかった。

 ぼわぁ、と鼓膜が膨張していき、耳の中に水が詰まっているような感覚がして、辺りが静かになっていく。

 看護師さんの呼ぶ声が一枚壁を隔てた様にくぐもったように遠くで小さく聞こえる。

 あぁ、なんか楽になった。

 刺激が和らいだと思いながら視点も定めず呆然と景色を眺めていると一人の男の子が私を覗き込んで話かけてきました。


「お姉ちゃん、病気? いたいいたい?」

 周りの音はぼやけたままなのに、その声ははっきり聞こえた。

 多分、正常に頭が働いていたら異常なことであると理解できていたのでしょう。

 しかし、そんな判断力すらも残っていない私は「そうだよー、痛い痛いだよー」と適当に返答してしまいました。

 その時、僅かに違和感を感じました。


 なんだと思って座り直すも特に何もない。

 不思議に思って辺りを見渡していると、いつの間にか女の子が現れていた。

 男の子と女の子は私を何度も見ては

「このお姉ちゃん病気? いたいいたい?」

「うん、いたいいたいだって」

 と話していました。


 そうやって話して、また一人合流しを繰り返し気が付くと私の周りには六人くらいの子どもがいたと思います。

 親は何してんだとか、思いましたがよく見るとその子たちは入院着にみたいな物を着ていましたし、最初に来た子は点滴を自分で押していて、あぁそういうことかって適当に思考することを放棄していました。

 邪険にするのも可哀そうなので、呆然とただ眺めていると一人の女の子が「いたいのいたいのとんでけー!」なんてやってくれて可愛いかったです。


 すると、それに続いて別の子が私の手を取り引っ張りながら

「私、お姉ちゃんのいたいいたい飛んでくようにお守り作ってあげる! 私の部屋に来て!」と言いました。

 正直、体重くてだるいとか順番呼ばれたらとか、色々思ったのですが断って泣かれた方がよっぽど面倒だったのでゆっくり立ち上がりその手に引かれることにしました。

 歩くたびに脳みそが揺れるような感覚に耐えながらこっち! こっち! と楽しそうに言う子たちに引っ張られるままついて行く。

 視界が揺らぎ、目の奥が熱を持ち出して、右頬の皮膚が痒くなり始めているのに感情はどこか他人事で、自分が今どこをあるいているのか本当に歩いているのかすらわかりませんでした。

 途中に何かに当たった感覚もした気がします。

 その時の記憶はあまりにも曖昧で思い出そうとしても全く思い出せません。

 そうやって長く歩いた末に、一つの部屋の前にたどり着いたとき、鼻から何かが垂れる感覚がしました。

 ぼた、ぼた、と最初は真っ赤な水滴が数滴、そして大きな赤い塊がぼとりと落っこちて……。


 そこで私の意識は途切れました。


 目が覚めると私はベットの上でした。

 看護師さんによると、私は分娩室の前に大量の鼻血を垂らし倒れていたらしいです。

 その後、緊急入院となり私の見舞いに来てくれた母が「あんた、何か変なもの憑いてるよ」と言いました。

 母は見える体質なので、昔から私が変なものを連れてくると教えてくれていたんですが、歯切れの悪いその言い方に私は不思議に思いました。

 私は母に「こども?」と問いかけると母は神妙な顔つきで「子ども……にもなってないよ。何かに吸い寄せられてあんたにくっついてる感じ」と言いました。


 その後母と部屋の掃除していると、友人から貰ったぬいぐるみに不審な縫い目があるのを母が見つけました。

 縫い目を解くとその中から真っ赤な紙に包まれた白っぽい破片と何かが書かれた紙が出てきて、即座にお祓いを主としている神社にぬいぐるみごとお願いしました。

 あれが何だったかなんて理解もしたくありません。


 それ以来、吐き気がするような頭痛は減りました。

 母は、子どもの浅知恵だからこんなもので済んだ。あんたの虚弱な身体は多くの魂に耐え切れるほど丈夫じゃないから途中で気を失ったのは不幸中の幸いかもしれないと話してくれました。


 あぁ、後日談ですか?

 もちろん、そのプレゼントをくれた子とは縁をしっかり切りましたよ。

 もれなくクラスの女子全員とも縁が切れて残り一年間は他クラスの女子としか会話できませんでしたがね。笑う。

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ちょこっと怪談話 うるは @akira_mjkr

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