第117話 〈Rポイント〉の謎
九十九がアウクシリアにすることでの弊害について思い悩んでいると、カトレナーサが困ったような顔をして近づいてくる。
「あの……わたくしではアウクシリアになるのは不向きだとお思いになっているのでしょうか?」
「いや、そういうわけでは――」
間近で見るカトレナーサの美貌はド迫力であった。白磁のように滑らかな肌に紫に輝くような瞳が魅力的で、隙のない佳麗さを形成している。
カトレナーサの全てを肯定したい気持ちになるが、ぐっと堪える。
九十九は〈
「まあまあそんなに早く結論を出さずに、もう少し宇宙のことやこの星のことを考えていこうよ。カトレナーサにもまだまだ聖剣聖でやらなきゃいけないこともあるだろうし。アウクシリアにはいつでもなれるんだから!」
「は、はい――確かにおっしゃる通りなのです。わかりましたのです。勉強させてください!」
結論の先延ばしである。九十九は昔からよく大人が結論をズバッといわないのを見てもどかしく思っていたが、その理由が今はよくわかった。
重大な局面で慎重すぎるほど慎重になることは悪くないことだと思う。すぐに玉砕するような結果を出すより千倍マシだろう。
九十九は仙川が「及第点」という視線を一瞬向けてきたのを見逃さなかった。
不意にカトレナーサが両膝を折り、九十九に跪く。
「えっ? どうしたの?」
跪くカトレナーサが九十九にキラキラとした瞳を向ける。
「広大な銀河を駆ける偉大な存在なのに、所縁もないこの星の弱き者のためにそのお力を振るわれていることに心底感動しております。どうかフギン――ツクモ殿が思うがままにわたくしをこき使って欲しいのです! 初めて云った通り、奴隷のように扱われても文句はいいません!」
ストレートな好意に九十九は心がざわざわとする。奴隷のようにして良いという言葉に心の中で邪なモノが動き出す気がした。
が、間近で仙川がいるので感情を顔に出すようなミスはしない。
「カトレナーサは大げさだよ。銀河連合も決して奇麗な存在ではなく利益と勢力拡大のために動いている組織だって考えないとだめだよ」
「そうなのですか。ともかくツクモ殿の指導に従いますのでわたくしをアウクシリアにしていただけるようにお願いしますのです!」
そういうとカトレナーサは立ち上がり、部屋を去っていく。仙川もそれに続く。
ふと、九十九は仙川に伝えなくてはならないことを思い出す。
仙川だけ残ってもらうようにして、声を出さずに話し出す。
「仙川さん、大事なことに気づいたから教えておくね」
「まあ何かしら?」
「実はすでに俺は〈Rポイント〉を出すモンスターを2体倒しているんだ」
「確か5000ためると前の世界に戻れる帰還ポイント、〈Rポイント〉だったかしら?」
「そうそうそれ。でもこの前の巨大象を倒した時にはもらえなかったよね? 実は〈Rポイント〉を持っているモンスターを倒すと、ジェスガインの声でポイントが付与されたことが教えられるんだけど、それがなかったよね」
「あのモンスターは〈Rポイント〉対象ではなかったってこと?」
不意に仙川の表情が険しくなる。
「もしくは〈Rポイント〉をつけることができなかったってことも考えられるのね! ジェスガインが間抜けに倒れた後に誕生したモンスターには付けられなかったって考えられるかしら!」
仙川の頭の回転の良さに感心し九十九は頷く。
「俺もそう思うんだ。つまりジェスガインが倒れたのは本当だっていう裏付けになるよね!」
「ええ! 確証ではないけどジェスガインが倒れているのは今の私たちには好都合だもの。〈Rポイント〉がもらえないよりジェスガインが活動不能の方がずっとありがたいもの」
「俺の感覚でいうとあの象に似た巨大モンスターは〈Rポイント〉が付いていて当然だから、ジェスガインが付けられない状況って考えるのは無理がないと思うんだ」
「同意するの。とにかくジェスガインが寝ていてくれれば、こちらを締め上げるイベントが追加されることはないものね!」
「……まあジェスガインが倒れている限りは前の世界には帰られないってことにもなるけど」
「あら、わたしはもうそんなこと当てにしていないかしら。あの糞野郎が約束を守るなんて微塵も思っていないもの!」
美しい顔に憎悪を浮かべて仙川はそう言った。
これには九十九も同意するしかない。ジェスガインがしでかしたことは、あまりにも悪辣で非道過ぎた。
やはりジェスガインが前の世界に帰してくれると期待するのは無理筋なのだと思う。
仙川が部屋を去った直後にMIAが報告をしてくる。
「マスター、緊急性のある報告があります」
「えっ? じゃあ仙川さんと一緒に聞こうか」
「いいえ。アウクシリアには教えられない機密性の高い情報です。マスターが聞いた後にマスターの判断でアウクシリアに教えるのは構いませんが――」
「ええ、そうなんだ……で、いったい何がどうしたの?」
「こちらと銀河第三連合との交信を何者かに傍受されていた可能性があります。アルバトロスが気が付いたのですが、どこかの所属の監視メカがわたし達が発信した情報を傍受し、それをタキオン通信で発信し直したことを突き止めました」
「つまりこの星の近辺に何かがいるってこと?」
「その解釈であっています。超長距離での通信を可能にするタキオン通信を使っている組織・星人は、そのテクノロジーの特異さから多くありません。一番高い可能性は宇宙海賊ランバージャックです。この星域近辺ではランバージャックが一番無人調査船を放っていますから」
「ランバージャック?……聞いたことがあるようなないような……」
「ともかくこちらの情報がタキオン通信に変換されているのは悪くない状況ではあります。アルバトロスがタキオン通信に変換されたこちらの情報を短いタイムラグでキャッチできる可能性が出てきますから」
「……へえ――そうなんだ」
MIAは有益そうに語ったがもうあまり関心が持てなくなっていた。
通信が早くできても銀河第三連合の所属宇宙艦が到着するのが71年後じゃどうにもならんだろうと九十九は思った。
宇宙海賊が何かアクションを起こすにしろ百年後ぐらいになるだろうと予想する。
そんな先のことなど正直にいってどうでもよかった。
悪魔にクラスごと異世界へ叩き込まれたけど俺だけSF系最強装備な件 逢須英治 @iceeige
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